(9)いよいよ対面

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 ダンジョンから持ち帰った素材の数々は、翌日にはリスト化されてギルドマスターも交えて交渉することになった。

 交渉といっても基本的にはギルド側に欲しいものを言ってもらって、それをマジックルームから持ち出してギルドに渡すという形になっていた。

「なっていた」というのは、それらの交渉をしたのはカールやラウで俺自身は関わらずに後で知ったからだ。

 ギルドへの素材の持ち込みならば、普段からやり慣れているカールやラウに任せたほうがいいだろうと考えたということもあるが、例のクランの件であまりクラン拠点を離れないほうがいいだろうという理由もある。

 ギルドマスターもそのことは分かっているので、二人に任せたことについては何も言ってこなかった……らしい。

 というよりも、そうなるだろうと予想していたのでごく普通に交渉していたとか。

 それから今回ギルドが買い取れなかった素材については、今後も継続的に買い入れることになった。

 それもこれもクラン拠点に大型保管庫として、拡張部屋が作られているからこそできることだ。

 

 拡張部屋は、その名の通りマジックボックスの部屋版になる。

 大きさはバスケットコートが二面作れるくらいの広さになるので、かなりの大型の魔物もそのまま保管することができるようになっている。

 その話を聞いたギルドマスターはそんなものがあるのかと頭を抱えていたそうで、同席していたカールやラウは苦笑することしかできなかったとか。

 クラン拠点には転移装置に隠れて色々と仕掛けが施されているが、防衛装置関係を除けばその内ギルドにも知られていくことになると考えている。

 

 肝心のSランクさん――ガイガーについては、ダンジョンから戻った翌々日にはクラン拠点を訪ねて来た。

 クラン『大樹への集い』がダンジョンから戻ったと噂になってから二日で来たことを考えると、今回はしっかりと情報収集していたと思われる。

 そして拠点の応接室に通されたガイガー含む『豪炎覇道』の面々は、どこぞの組織の人間かと思われる態度を取っていた。

 以前の世界にいた時ならばできる限り近づきたくないと思わせる光景だったが、明らかにこちらの実力が上と分かっている今となっては虚勢を張っているようにしか見えなかった。

 

「――それで、Aランククランの皆さまが、どういったご用件でしょうか?」

「ふざけているのか、手前。お前がギルドマスターと繋がっているのはわかっているんだ。話は聞いているんだろうが!」

 そのセリフを聞いて、思わず『おや』と思ってしまった。

 ギルドマスターの推測通りに頭脳担当がいるのか、あるいはただの当てずっぽうなのかは分からないけれど、それを推測することは出来るらしい。

 ……どちらかといえば後者の方じゃないかと思いたくなるのは、見た目のせいなのだろう。

「そうは言われましてもね。ありがたいことにギルドマスターとは幾度かお話させていただいておりますが、に当たるかはわかりません。冒険者が依頼の内容を簡単に話せないことは、ご存知ですよね?」

「……チッ!! 転移装置なんて御大層なものがここにあることは、分かっているんだ。それを俺たちに、そして帝国に優先的に使わせろ!」

「無理ですね」

 ガイガーは威圧を込めて言ってきたけれど猫に撫でられた程度にしか感じなかったので、サクッと受け流して簡単に答えた。

 

 ガイガーは、その答えがあまりにあっさりしすぎていたせいか、一瞬言われた意味が分からなかったかのようにポカンとしてから一気に顔を赤くした。

「手前、誰に向かってそんな口のきき方をしやがる! この俺様が直々に出向いてやって言っているんだ。使わせるのが当然だろうが!」

「はあ。そうですか。あなたがどう思おうが勝手ですが、Sランクだろうがどこかの国の国王だろうが使わせる気がありませんので、お引き取りください」

 威圧にどれだけ力を込めているのか分からないけれども、ガイガーの顔色がそろそろ真っ赤を通り越しそうな勢いで変わっていた。

 そのうち頭の血管が切れるのではないかと思うくらいに浮き出てきているが、それを見ても怖いという思いは抱かなかった。

 実力があるからこその余裕もあるのだろうが、交渉する気のまったくなさそうなガイガーを見てこちらも考えることを放棄したせいもあるかも知れない。

 

 まさしく怒髪天を突いたといった様子のガイガーを見ながら、さてこれからどうするかと考えていた。

 このままのらりくらりと躱し続けてもいいのだけれど、それだとこのやり取りが長引く可能性が高い。

 そう考えるとわざと挑発をして、さっさと不毛なこの話し合いを終わらせしまのもありじゃないかと思えるようになってきた。

 少しの間怒りで言葉を失っていたガイガーは、今では復活をして先ほどから罵声を浴びせてきている。

 その言葉は右から左に素通りしているので別にいいのだけれど、ずっと聞き続けるのも飽きてきた。

 

 必死に喚いているガイガーを見ながら『もういいか』と思えて来たので、挑発することに決めた。

 恐らく今以上に怒らせることになるけれど、ここまで話が通じない相手である以上は、もう会話による解決は諦めた。

「――先ほどからSランクを盾に色々と喚ているようですが、たかがSランク程度で全ての者が言うことを聞くなんて思わない方がいいですよ?」

「……なんだと?」

 一瞬こちらが何を言ったのか分からなかったのか、ガイガーが惚けた様子で聞き返してきた。

「怒りで耳まで遠くなりましたか。もう一度言いますので、しっかり聞いてください。――たかがSランク程度でいい気になるなよ。脳筋が」

 脳筋という言葉が通じるかは分からないが、この場合は馬鹿にしていることが通じればいいので敢えて使ってみた。

 

 目的である馬鹿にしているという意図は通じたのか、ガイガーは怒りで歯が欠けるんじゃないかと思うくらいの歯ぎしりをしていた。

 それを見て、周りにいた取り巻きたちの微妙に腰が引け始めていた。

 ガイガーにとっては、歯ぎしりが一定の怒りを超えたことを示す合図なのかもしれない。

 

「キサマ……!!」

「ハイハイ。先ほどからそれしか言っていませんよ。他に言いたいことがないなら帰ってもらえませんかね?」

「この状況が分かっていて言っているんだろうな、Bランクが!」

「残念。既に半月以上前にAランクになったんですが、そんなことはどうでもいいですよ。ギルドランクなんて、ギルド内での評価の基準でしかありませんから」

「AだろうがBだろうが、どうでもいい! この俺様に楯突いたことを後悔させてやる!」

 

 それを言うのが限界だったのか、周りの静止の声など聞こえていないのか、ついにガイガーは一線を超えて来た。

 より具体的にいえば、挟んで座っているテーブルを乗り越えてきて素手のまま殴りかかってきたのだ。

 そのスピードと身軽さは見た目では想像できないほどだったが、魔力操作による身体強化を使っているお陰だろうと冷静に考えることができていた。

 

 その理由は簡単で、殴られる直前でその拳が止まっていたからだ。

 使い慣れた枝根動可によって腕に蔓のようなものが巻き付いていて、その動きを完全に止めている。

 そして枝根動可の影響は腕だけではなく、ガイガーの体全体に及んでいた。

 爵位持ちの守護獣ですら動きを止めることができるのだから、ガイガー程度の実力でどうこうできるはずもない。

 

 身体に絡みつく枝や蔓をどうにかはがそうとしているガイガーを見ながらこれからどうしようかと考える。

 周りにいる取り巻きたちはどう動くべきか分からないのか、こちらに攻撃して来ようとしている者やオロオロしているだけの者、さらに様子を伺っている者など様々だ。

 出来ることなら動かないでいて欲しいものだが、そうもいかないだろうなと他人事のように考えるのであった。




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m(__)m

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