(8)戻って色々

§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§




 < Side:キラ >

 

 結局クラン全体で第三十層まで攻略するのに、約二十日ほどかかってしまった。

 予定では長くても半月と考えていたので大分伸びてしまったけれど、その分の収穫はあった……と思いたい。

 長い間、閉塞空間に閉じ込められた状態で何度も魔物に襲われるという危機を乗り越えて来たのだから仲間意識が強くなるのも当然かもしれないが。

 これぞつり橋効果かと思わなくもないが、あれは恋愛に限った言い回しなので今回には当てはまらないのかな?

 とにかくこの時期にクラン内での仲間意識を高められたのは、戦闘の技術的な問題が解決したことよりも重要だと考えている。

 例のクランの問題がすぐにでも起こると分かっているだけに、このタイミングで強化できたのはちょうどよかったともいえる。

 

 さらに付け加えると、長期間ダンジョンにいたということはそれだけ多くの魔物を狩ったということになる。

 その場合、『大樹への集い』の強みである空間拡張をほどこした馬車を利用して、増えた分だけ魔物をギルドに持ち込むことが可能になる。

 一言で言ってしまえばその分売り上げも多くなるというわけで、クランとしても個人としてもウハウハになるわけだ。

 ちなみに狩った魔物はクランのものになるが、利益の中からいくらかを臨時収入として渡すことになっているので、皆張り切って魔物を狩っていた。

 

 今回はあくまでもクランでの攻略となっているので、普段のように狩った者あるいはパーティのものというわけではなく、一旦はクランのものとして徴収している。

 最初はそのシステムに不満も上がっていたようだが、今ではそれが当然だと受け入れてくれている。

 適度に休憩をしていても臨時収入が入って来ることは分かっているので、しっかりと休むことができる。

 そしてその休憩のお陰で戦う時にはしっかりと実力が発揮できると、特に魔力管理をしなければならない魔法使い系はありがたがっていた。

 

 ――というわけで、地上の拠点に戻ってからカールやラウと一緒に冒険者ギルドに清算しに向かった。

 最初はいつも通り窓口で清算しようとしたのだけれど、そこでまず量が多すぎだと言われてギルド専用の解体場所へと案内された。

 そこでポイポイと狩った魔物を出していくたびに担当者の顔が青くなっていき、最終的にはギルドマスターが呼ばれる事態になった。

 そして山となっている討伐済みの魔物を見たギルドマスターはといえば、

 

「――お前たちなあ。限度というモノを覚えてくれ。カールやラウは十分に知っているだろうに。キラと一緒に行動しておかしくなったか?」

 驚きを通り越して呆れさえ見せるギルドマスターに、カールやラウはそっぽを向いていた。

 二人とも稼ぎが増えると喜んで魔物を狩っていた側なので、どうこういえる立場にないことは自覚しているようだった。

「やっぱりあり過ぎますかね?」

「量もそうだが、それよりも一体丸々持ち込むこと自体あり得ないんだよ。例のあれがあるくらいだから拡張系の道具も持っていておかしくはないが、それにしてもな……」

「それについては今後数年で改善されるはずですので、ギルドも対応を考えたほうがいいですよ」

「何……? どういうことだ!?」

 驚いて詰め寄るギルドマスターを見ながら、そういえば拡張袋の件については話していなかったと思い出した。

 とはいえ、いずれは本部経由からでも入って来るはずの情報なので、敢えてここでは濁しておくことにした。

 

 笑って誤魔化したのを見て何かを察したのか、ギルドマスターは特にそれ以上は何も聞いてこなかった。

 その代わりではないだろうが、目の前の魔物の山を対処することにしたようだった。

「どうせお前らのことだから、まだまだあるんだろう? そのすべてを一気に処理することなどできんし、何よりもそんなに一度に買い取ることなどできん。リスト化とかしていないのか? それなら何から買い取るかを決めることができるな」

「勿論していますよ。どこで誰が狩ったのか、後々の評価にするつもりでしたので。次行くときには、書記とか連れて行った方が良いかもと思いましたね」

「そんなことまでしていたのか。細かいというべきか、律儀というべきか……お陰で助かっているから文句はないんだが」

「ただ複写まではしていなかったので、少々お待ちください」

「ああ、それくらいは待てるさ。それまでここで出されている一部は引き取っておこうか。――聞いていたな?」

 ギルドマスターがそう言いながら担当者に視線を向けると、コクコクと頷きながら数体の魔物を指さしていた。

 どれもこれも低層で倒した魔物だったのは、さすがというべきだろうか。

 

 今回の探索で狩った魔物は大量なので、複写するのは時間がかかる。

 最低でも数時間はかかりそうなので一度拠点に戻ってから――と考えていたらギルドマスターからお呼びがかかった。

 どうせ用事は『豪炎覇道』の件だろうとすぐにわかったので、カールやラウも一緒に案内された部屋に入った。

 魔物の討伐一覧の複写は進めておかなくてはならないので、他についてきていたメンバーにお願いして知らせに行ってもらっている。

 

 そして部屋が変わって開口一番に、ギルドマスターは少し疲れたような表情になってこう言ってきた。

「わかっているとは思うが、例のSランクの件だ」

「わざわざそう仰るということは、何か向こうからアクションがありましたか」

「ああ。三度ほどな。……全く。言われたとおりにダンジョンに行っていると言っても、いつ戻って来るんだの一点張りだ。そんなもん分かるわけがないだろうに」

「ああ~。もしかしなくても、話が通じない系ですか」

「もしかしなくてもそうだな。性格なのか、あえてやっているのかまでは分からなかったがな。一応、頭脳系の奴を連れていることも確認しているが、ダミーなのかどうかまでは分かっていないな」

「そうですか。その間、『激流』さんはどうしていましたか?」

「さてな。一度だけダンジョンに潜ったという話は聞いたが、それ以外は特に何も聞いていないぞ。……おっと。ギルドマスターが冒険者個人の話をしてはまずかったな」

 今更過ぎる言い分に思わず苦笑を返してしまったが、どうせこれも相手激流から話していいと言われていることなのだろうと察した。

 

 問題のSランクさんはどう控えめに言っても脳筋系だと分かったのだが、ある意味ではホッとしている部分はある。

 仲間の冒険者たちがどう考えてもそっち系で行動していたので、恐らくトップもそうだろうと予想を立てて行動していたのがどうやらドンピシャだったらしい。

 このまま突っ走ってくれたほうが、国(騎士)としても対処しやすいことになるだろうとギルドマスター共々予想を立てているそうだ。

 ギルドマスターから話を聞いた限りでは間違いなくそうなるだろうと思うので、こちらも注意はしつつ予定通りに行動することにした。

 

 そもそもこちらとしては待つことしかできないので、たとえ向こうが策謀を巡らせてきたとしてもやれることは限られている。

 今のところ『豪炎覇道』からは何もされていないというのが現状なので、いきなりこちらから殴りこみに行くこともできない。それをすればこちらが犯罪者になる。

 正直なところ話が通じない相手と会話をするのは疲れるので嫌なのだが、いつまでも逃げ回るわけにはいかないので仕方ない。

 ギルドマスターの話を聞く限りでは、数日と経たずにこちらにやって来るはずだ。

 

 どうも向こうはごり押しだけしてくるようなので、決裂することは分かり切っている。

 あとはどう決着をつけるかだけなので、その辺りは折角来ている国の騎士さんたちに頑張ってもらいたいところだ。




§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§


是非ともフォロー&評価よろしくお願いいたします。

m(__)m

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る