(7)アタック中の出来事

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 < Side:ラジオン(ギルドマスター) >

 

 クラン全体でダンジョン探索をするとキラから報告を受けてから一週間が経った。

 本来であればギルドマスターがわざわざそんなことを聞く必要はないのだが、今回は特殊過ぎる事情があるだけに前もって知らせてくれたのは正直ありがたかった。

 国の上の連中はキラのやり方に反発を持っているのも多いそうだが、奴の邪魔をせずに上手に付き合うことができれば、むしろこれほど付き合いやすい奴はいない。

 基本的に冒険者というのは一癖も二癖もあるやつばかりなので、素直にこちらの言うことばかり聞く奴のほうが珍しい。

 キラも癖は強いが、筋を通すところはしっかりと通してくれるし、国の上の連中のように無茶を言って来ることの方が

 あれで間違いなく強者なのだから、人は見た目では判断できんという言葉は実に的を得ていると思うな。

 

 まあ、キラのことはいいとして、今の問題はわざわざ帝国からやってきたSランクのガイガーについてだ。

やっこさん、ヘディンに来てからしばらく大人しくしていたのはいいとして、キラがダンジョンに潜り始めてから一週間ほどが経ってからわざわざ俺を訪ねて来やがった。

 しかもわざわざSランクという立場を利用して、すぐに俺との面会を求めてきやがった。

 ギルドマスターの仕事のうちに高ランクとの対応というのがあるからそれはいいんだが、最初から高圧的だったのはある意味で冒険者らしいとほめるべきなのだろうか。

 キラの対応を知っているだけに、久しぶりにSランクの傲慢さというのを思い出してしまったぜ。

 

 肝心のガイガーが俺のところまで来た内容についてだが、いきなり「キラという冒険者はどこへ行ったか教えろ」と来たもんだ。

 探りという言葉を知らないのかと言いたくもなったが、見た目通りの言動に諫めること自体が無駄だとすぐに諦めた。

 それに見た目に関しては、俺も人のことをどうこう言える立場にはないからな。

 ……初めて会う赤子に一目見るなり泣かれたのは、さすがに心に来るものがあったのは内緒だ。

 ガイガーは、そんな俺とタメを張れるくらいには、粗暴という言葉が似合っている風貌をしている。

 冒険者は依頼の達成度が重要であって、見た目は気にするだけ無駄なのでそれは別にどうでもいいか。

 

 見た目についてはともかく、ガイガーの問いにはきちんと対応しないといけないので、気合を入れ直して奴さんを見た。

「一応言っておくが、ギルドは冒険者個人の情報に関しては話すことはできん。それは分かっているのか?」

「ああん? そんな建前なんてどうでもいいんだよ。この俺様が聞いているんだからさっさと話せ」

 さっさと話せと来たよ、この野郎は。

 どうせだったら嫌味の一つでも言いたくなってきたので、とっさに思いついた言葉を言ってみることにした。

「ははあ、なるほど。俺は情報を集めることも冒険者の仕事の一つだと思っていたんだが、Sランク様はそんなこともできない素人だったというわけか」

「おい、貴様! 言葉に気を付けろ!!」

 そう反射的に言ってきたのは、ガイガーではなく取り巻きのうちの一人だ。

 ガイガー本人は何も言ってこなかったが、ギロリと視線を向けられたことで何を言いたいのかは言われなくても分かる。

 

 ある意味では冒険者らしいともいえる対応に妙にホッとしたところで、揶揄うのはこれくらいにしておくかと本命の言葉を告げた。

「やれやれ、余裕のないことだな。だが冒険者の情報を勝手に話すことはまかりならん。それは相手がSランクであっても同じことだ」

「どうしても言えんということか?」

 分かっているのかという態度で凄まれても、話せないことは話せない。

 ただし今回は他とは少し事情が変わっているので、事前に決めていたことをそのまま話すことにした。

「だから言っただろう? 個人については話すことは出来ん。だが、クランについては話は別だ。というか、こんなことは少し話を聞きまわればすぐに分かる事なんだがな」

「何だと?」

「奴らなら一週間ほど前からダンジョンに行っているぜ? クラン全体でだ。戻って来るのは早くてもあと五日とかになるんじゃないか? 遅ければもっとだろうな」

「……チッ。そういうことか」


 キラのクランは、全員を合わせると余裕で五十名を超えている。

 そんな大人数でダンジョンに向かえば、噂話として冒険者の話として聞くことなど簡単だろう。

 そんなことすらもしていないのかという意味を込めて、肩をすくめて見せるとガイガーは苛立った様子でこっちを見てきやがった。

 ……本当にキラと違って、分かりやすくてやりやすいな。

 

 ちなみに『大樹への集い』がクラン全体でダンジョンに潜っているということをガイガーに話すことは、キラが教えに来てくれた時点で決めていた。

 むしろそうしてくれというキラのお願いがあったからこそ、こうして気兼ねなく話すことができている。

 これで『豪炎覇道』が空き巣を狙って来るようなら、警ら隊に扮した騎士たちによって連行されて終わる。

 こちらとしてもそれで終わるなら万々歳なので、喜んで協力させてもらう。

 もっともそんな状況になったとしても、ガイガー本人が動かない限りは簡単に終わりとはならないだろうが。

 恐らく、下っ端の奴らが勝手にやったことだと突っぱねられて終わるだけだろう。

 

 できることならキラと会わせることなくさっさと片付けたいところだが、目の前にいるガイガーを見ている限りではそう上手くはいかないだろうな。

 見た目だけでいえば力押しの単純馬鹿という印象を受けるが、どことなく狡猾さを持ち合わせているようにも見える。

 もしかすると周囲にそうした人材が紛れているのかもしれないが。

 そうでなくては皇帝の勅命など受けることなどできないか。――たとえガイガーが政治的に作られたSランクだとしてもだ。

 

「そういうわけだからしばらくは諦めろ。お前さんが何の用で奴に会いたいかは知らんが、ダンジョンにいる以上はどうすることもできん。中まで追いかけるんだったら止めないがな」

「……どの階層にいるかはわかっているのか?」

「言えるわけないだろ。――と言いたいが、これもとっくに噂話になっているぞ。全体で三十まで目指すそうだ。今どこにいるのかは、さすがに分からんな」

「三十か……」


 そう呟くガイガーの顔を見る限りは、多少なりとも追いかけることを検討したと思われる。

 曲がりなりにもSランクを名乗っているのだから、それくらいのことは出来るという確信はあるのだろう。……過信ともいえるかもしれないが。

 とはいえダンジョンに行ったとしても行き違いになる可能性は高いし、何よりもガイガーはヘディンに来て間もないので第一層から潜らないといけない。

 それらの手間を考えれば、上(地上)にいて何かしらの策を練った方がいいという天秤に傾いたのか、すぐに追いかける案は打ち消したように見えた。

 

 ガイガーが聞きたかったのは本当にキラの行方だけで、それ以外のことは何も聞いてこなかった。

 これ以上は俺に話を聞いても意味がないとわかったのか、あっさりとこの場から立ち去っていた。

 今日はたまたま事務処理でギルドにいたが、それ以外の仕事で外に出ている場合も多い。

 そうだった場合、奴は大人しく待っていたのだろうか。

 

 奴が部屋の中で大人しく待っている姿を想像すると、少しばかり面白くなって思わず笑ってしまった。

 どちらにしてもガイガーの様子を見る限りでは、間違いなく一波乱は起きると思われる。

 そのことを子爵に伝えるために、机の引き出しの中から紙を取り出してペンを手に取った。




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m(__)m

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