(6)拡張袋のあれこれ

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『豪炎覇道』の狙いを外すつもりで始めたダンジョン探索だが、何もそれだけが理由というわけではない。

 折角の機会なので現在のクランの状況を確認するという目的もある。

 とはいえ一度に全員の戦闘やサポートの状況を見ることができるわけではないので、幾つかの班に分けて行動させることにした。

 普段からパーティを組んでいる組はいいとして、ソロで活動している者たちはそれぞれ臨時のパーティを組ませる。

 ただし臨時とはいえ普段の仕事によっては組ませる機会が多い冒険者同士で組ませているので、初めましてのパーティに組み込まれるメンバーはいないはずだ。

 一パーティ六人としてそれが八パーティで計四十八名が、交代しながらダンジョン内で探索をすることになる。

 ソロの冒険者数名は残ることになるが、そちらは馬車を中心に作っている仮拠点の防衛となる。

 俺たちもパーティ単位で探索をすることを考えているので、仮拠点を空にすることは出来ない。

 

 数名のソロの護衛に加えて、二パーティが不測の事態に備えて仮拠点で休憩となる。

 一応仮拠点を置く場所は魔物が出現しにくい場所にしているが、絶対ではないのでこちらも必要な措置になる。

 もっとも仮拠点に魔物が突撃してきたとしても、二パーティが必要になる事態はあまり起こらない。

 ――というのが第二十層から数層までの攻略の方法になる。

 

 一応第三十層を突破ということが目標になっているので、一日は全体探索、その次の日は移動と決めて動いている。

 階層の後半になると出て来る魔物に対処することが難しいパーティも出て来るので、そうなった場合は複数パーティで対処することになっている。

 いざとなれば俺自身が出ればいいと皆が理解しているので、ほどよい緊張感を保ったまま攻略が出来ている……ように見える。

 第二十六層を超えて来ると普段ソロのメンバーは連携不足から対処が難しくなっているように見えるし、サポーターたちも素材の採取に手間取る姿がちらほら見え始めていた。

 

「――順調といえば順調だけれど、やっぱりサポーターが遅れて来たかな?」

 第二十六層で移動しながら皆の動きを見ての感想に、御者席の隣に座っていたラウが反応してきた。

「この辺りで採取することはほとんどないからなあ。基本的には、拠点に持ち帰ることが仕事になるな。あとは時間をかけてばらすことになる」

「うーん。となると今後は二十台後半でも剥ぎ取りができるようにすることが課題かなあ」

「本気か? ここまで来れるパーティも中々ないぞ? あとは剥ぎ取り用のナイフなんかも用意しないとならんが」

「装備関係はクランの経費でどうにかするとして、パーティの攻略状況は今後改善すると思うよ」

「マジか。その理由は?」

「シーオまで来るにはもう少しかかると思うけれど、ヒノモトで拡張袋が一般販売されることになったからね」

 ある意味で特大の情報に、ラウが目を見開いて驚いていた。

 

 拡張袋はマジックボックスに比べて入れられる量が段違いに少ないが、それでも流通に関わる分野で大きな変化が起こるのは間違いない。

 この世界で流通という考え方はあまり発展してないけれども、商売に関わらず冒険者にとっても拡張袋があるなしで大きな違いが出るのは間違いない。

 最初の内は限られた者しか手にすることができないだろうが、それでもいずれは手に入れることができるかもしれないという期待は大きいはずだ。

 ある意味では戦略的な物資になるだけに、最初は国がその権利を握って管理していくことになるだろう。

 

 最初の内は混乱を避けるためにも、まずはそれで構わないと考えている。

 問題は国ですべてを握って戦争なんかに活用されていく可能性があることだが、それはどの国でも条件が変わらないので今までと違いはあまりでないと考えている。

 それにヒノモトで生産が可能になったと知られれば、自国での開発研究も進むはずだ。

 そうなれば生産量もさらに増えて、一般に流れる量も多くなる――そういう流れを期待してる。

 

 ――とはいえそれはあくまでも順調に事が進んだ場合のストーリーでしかない。

「拡張袋か。こっちにまで回ってくれればいいが、間違いなく大商人やら貴族が握るんだろうな」

 ラウが言ったように、最初の内は金のある者が多くを集めることになるだろう。

 たとえ分配で冒険者などに国が回したとしても、それを金で買い取るということは普通に考えられる。

 そしてそこまでの動きを止めるつもりはないし、止められるものではないだろう。

 

「まあ、そうなるだろうね。ただ長く見積もっても数年といったところだと思うよ」

「何故だ? 持てば持っただけ利益になることは分かり切っているんだから、誰だってそうするだろう?」

「それはね。出回る数が少ないから成り立つんだよ。今ラウが使っている剣だって、権力者が独占すれば反乱なんて起きにくくなる。でもそうなってはいないよね」

「……剣のように、一般の技術者でも作れるようになるということか」

「そういうこと。たぶんどこかの国で、商業ギルドにレシピの権利を握らせて売り始めたりするんじゃないかな? 多くの魔道具士がそれを買い取れば、間違いなく一般の流通に出回るようになるよ」

「それは……確かにそうなってほしいところだな」


 夢のある話ではあるが――ラウがそう感想を漏らす気持ちも分からなくはない。

 拡張袋のような戦略的に使える魔道具が、国に握られてしまって冒険者にまで回ってこないなんてことはいくらでもある話だから。

 そのことを考えると、早々簡単に一般に流通することはないだろうということは誰でも想像できる。

 とはいえ、こちらとしてもそんな状況を黙って見ているつもりはない。

 

 そもそも開発に成功したヒノモトのツガル家では、既に一般へのレシピの販売を始めることを視野に入れて動いている。

 ツガル家での試みが上手く行けば、流通の活性化に伴って領地の発展が見込まれる。

 それを見た他家が、それを黙って見ているはずがない。

 そしてヒノモト全体で拡張袋が作られるようになれば、国力そのものが増加することもあり得るだろう。

 そうなったときに、遠く離れたシーオ各国が黙って見ているとは思えない。

 ――という流れが今のところ考えているシナリオなので、まずはそのまま見守ることにしている。

 

 そんなことは口に出すことはなかったけれど、わざと楽観的に見えるようにラウに答えを返した。

「少なく見積もっても数年後には状況は変わっていると思うよ」

「そうか? それならそれでいいんだが」

「それに、拡張袋が広く出回るようになったら勝手にこっちで渡すということもできるしね」

「それは……また騒ぎになりそうだな」

 言っている意味が分かったのか、ラウはわざとらしく頭を抱えるような仕草をした。

 国が権利を握っている状況でポンとそんなものを渡されても――そう考えたからこその仕草だろう。

 おれは俺も理解できるので、さすがにいきなりそんなことをするつもりはないけれど、場合によってはやることもあるだろう。

 もっといえば、クランが窓口になって一般販売を始めても構わない。

 

 目的はあくまでも技術力の底上げなので、拡張袋を作るためのレシピが一般に広まることが一番重要なことになる。

 そのために時には国家の思惑を越えなければならない可能性もあるので、そこは注視していきたい。

 できることならユグホウラが表に立つことなく、このままの流れで行って欲しいと思うが上手く行かないことも考えておかなければならないだろう。




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m(__)m

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