(5)色々と前準備
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ヒルダの到着からさらにその三日後。ついに件の人物が到着したという情報が、ギルドマスターから知らされることになった。
遅かったのか早かったのかは分からないけれど、こちらにとってはどうでもいい話なのであまり気にしても仕方ない。
そもそもSランクが来ようが来なかろうが、こちらができることは基本的に『待ち』であることには違いない。
下手にこちらからアクションを仕掛けるとそれだけで図に乗ってきそうな相手なので、下手に動くことは出来ない。
それはそれで面倒な相手なのだけれど、あまり気にしすぎると疲れるだけなので適度に気に掛ける程度にしている。
そして肝心のSランクさんが入ったあとの『豪炎覇道』は、トップが来たことによる騒ぎで活動そのものがあまり活発ではなかった。
ただし少し探りを入れてみると、あくまでも外向けの活動をしていないだけで中では色々と動きがあった。
やはりというべきか、狙いは転移装置であることに違いなく、それに対する働きかけをどうするかで色々と話を詰めていた。
とはいえ例のSランクさん――ガイガーは、まさしく冒険者といったような筋骨隆々な見た目通りに力押しタイプらしく、あまり策謀を巡らせるようなタイプではないらしい。
どちらかといえば、事前に勝手な動きをしたクラン員に対しての粛清のようなものを実施していたようだ。
そのお陰というべきか、これまでバラバラだった『豪炎覇道』内の動きは一気に一本化されることになった。
それに対する不満もないわけではないけれど、大手クランを纏めているだけの力はあると見るべきだろう。
そうした情報を仕入れているうちに少なくとも数日の間は直接的に動くことはないとわかったので、ここらで一つ手を打ってみることにした。
「――というわけで、クランメンバー全員で大型攻略をしに来ますので、よろしくお願いいたします」
「いや、お前。いきなり来て何を言ってくれているんだ?」
そう返してきたのは、目の前で半ば呆れた様子になっているギルドマスターだ。
「いえ。どうせ突撃してくるのが分かっているんだったら一度梯子を外してみたらどうなるのかなと。怒るなら怒るである意味わかりやすいですし」
「……ふむ。突然だったから突っ込んでみたものの確かに一つの手ではあるかも知れんな。あいつらは、お前さんのクランハウスが化け物クラスに頑丈だとは知らないだろうしな」
「そういうことです。それに、まだ王都の騎士さんたちは到着していないのですよね?」
「お前は、そういう情報をどこで……いや。そこは言っても仕方ないか。確かにそのようだな。時間稼ぎの意味もあるか」
「こちらのことを考えてくださっているのでしょうが、そもそも派手に動くのが基本の騎士に隠密みたいな行動をさせるから時間がかかっているのでしょう?」
王都から騎士が来ることは聞いていたが、未だに到着していない。
というのも今回の任務はあくまでも帝国に悟らせないということを重視しているので、それとわかる装備類は別口で送って騎士たちは冒険者として送られることになっている。
そのため慣れない任務ということになり、多少の遅れが生じているらしい。
もっとも重い重装備を付けていない騎士たちは既に王都を出発していて、遅く見積もってもあと数日で到着する。
「そこまで考えてくれるのは有難いがな。……いや。どちらかといえばクランのレベルアップを図っているのだろう?」
「それは当然ですよ。どうせだったらクラン全体で第三十層を超えてみようかと考えています」
「お前な、それは一週間どころの話じゃないだろう」
「そうですね。早くて十日、出来れば半月ほどは考えてくれるとありがたいですね」
「それはそれで早すぎないか?」
「そうですか? うちのメンバーは全員が第二十層まで転移できるようになっているので、そこまで早いわけではないと思いますが?」
「……そうなのか? それは知らなかったな」
いつか全員でダンジョンアタックを仕掛けると決めてから、クランメンバーには第二十層まで転移できるようにと指示を出しておいた。
個人で動いている分には無理なメンバーであっても、合同で潜れば到達は出来る。
稼ぎ重視ではなく速度重視で探索すれば、一週間もあれば第二十層までは攻略できるくらいの実力のあるメンバーは揃っている。
その分赤字にはなってしまうけれど、いずれは取り戻すことができるという目算もある。
こんなに早く全員で潜ることになるとは考えていなかったけれど、お陰で赤字分を今回の探索で取り戻せる……どころか上回ることができると思う。
無理をするつもりはないけれど、皆の頑張りに期待したいところだ。
「――それにしたって子供も含めて全員で三十までというのは……いや。ソロで四十まで行けるお前さんがいるんだから出来るか」
「今回、私はあまり動くつもりはありませんけれどね。勿論、注意はしていますが。他のメンバーだけでも到達できると思いますよ?」
「そうなのか? 少し無謀のような気もするが……お前さんがそう言うのなら大丈夫なのだろうな」
「朗報を待っていてください。多分、大量の素材を持ち込むことになるので、その準備もお願いしますね」
折角集めた素材もギルドに買い取ってもらえなければ意味がない。
多くの冒険者が大量に素材を持ち込んでいるギルドだけにその原資はあるはずだけれど、一度に大量に持ち込まれた場合は対応できなくなる可能性もある。
ギルドにどの程度の貨幣が用意されているかは分からないが、一つの建物の中に置いておけるお金にも限度はあるだろう。
そのことを十分に把握しているはずのギルドマスターは、俺の言葉を聞いて微妙に顔を引きつらせていた。
「ぶ、分割払い……は駄目だから、分散して持ち込むように頼む」
「仕方ありませんね。それで良しとします」
最初からそうなるだろうと分かっていたので特に考える必要もなく頷くと、ギルドマスターはホッとした表情になっていた。
第二十層から第三十層まで取れる素材となると、売れば儲けが出せるものばかりなのでできる限り引き取りたいというのが本音だろうが、原資がないと引き取れないものは引き取れないので仕方ないといったところだろう。
とにかくギルドマスターへの報告は終えたので、これで大手を振ってダンジョン探索をすることができるようになった。
クランメンバー全員で潜る準備はこの数日でしっかりとしてきたので、予定通りに明日から探索開始ができる。
ギルドから拠点に戻ってラウに確認すると、はっきり「準備完了だ」という答えが返ってきた。
「――それにしてもここまでの人数で潜るのは前代未聞だぜ?」
「そうなの? 老舗のクランとかだったらやっていそうだけれど?」
「まずこれだけの大人数の消耗品を持ち込むことができないからな。それもこれもあの馬車様様だろうぜ」
「あ~。それもあったか」
クランの備品として使っている大型の馬車は、ユグホウラの技術でマジックボックス化しているので多くの荷物を積み込むことができる。
そのため荷物がかさばることを気にすることなく多くの消耗品などを積み込むことができるのも、今回の大型アタックを実行できる理由の一つとなっていた。
もしかすると他のクランでは真似することができないダンジョンアタックになることで、注目を集めることになるかも知れない。
もっとも『豪炎覇道』という団体に目を付けられている以上は、どんぐりの背比べでしかないともいえるので無視するのが一番だろう。
いずれにしても折角の機会だからと張り切っているクランメンバーの期待に応えられるように、多くの成果を持ち帰りたいところだ。
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是非ともフォロー&評価よろしくお願いいたします。
m(__)m
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