(5)教育
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< Side:キラ >
大木の幹よりも太そうな腕が、ゴォという音を立てて目の前を通り過ぎていった。
とはいえ見た目からは想像もできないようなそのスピードには驚いて飛びずさっていたが、内心ではそんなものかと考えていた。
少なくとも太い腕が目の前を通り過ぎるのを観察するだけの余裕はある。
少し大げさに飛びずさったのも、こちらに余裕がないと相手に思わせるためだ。
正直にいえばそこまでせずにさっさと片付けたいと思わなくもないが、多少遊んでやってくれと言われている以上は仕方ない。
本当であれば、枝根動可を使って相手を縛り付けるといういつものパターンで仕留めたいところだけれど……まあ、いいか。
怪力が主体の魔物は力押しというのが定番パターンではあるけれど、一つ目の巨人は単調なものではなく緩急を交えた複雑な攻撃を仕掛けてきている。
とはいえ研究しつくされた攻撃かといえばそうでもなく、やはり力に頼った方法であることに違いはない。
これが熊種のファイ辺りであれば魔法を交えた攻撃をしてくるのだが、どうも目の前の巨人は攻撃魔法は使えないようだった。
もっともその分の魔力を身体強化に極振りしているようにも見える。
ブンブンと音を立てて通り過ぎていく腕を観察しながら続けること五分ほど。
ようやく一つ目の巨人の攻撃が収まった。
とはいえ巨人の呼吸が乱れているという様子はないので、ただ単に気まぐれで止めただけだろうと少し距離を空けたところで油断なく相手を観察する。
そんな状態が数十秒ほど続いてから、ついに相手が別の意味で動いた。
「キサマ、ドウイウツモリダ?」
「ええっと……? どうって、なんのこと?」
「何故、攻撃シテコナイ。キサマナラ、ヨユウダロウ」
「いや。仕方ないじゃないか。ルファからは『しばらく遊んでやってくれ』って言われているんだから」
「キサマ! 人ゴトキガマスターノコトヲ、キヤスクヨブナ!」
ブワッと殺気を膨らませる相手を見ながら、思わずそっちに反応するのかと的外れなことを考えてしまった。
どう見ても脳筋っぽい巨人なだけに、バカにするなとかそちら方面で怒って来るかと考えていた。
さすがにダンジョンの魔物というべきか、戦闘中であってもルファに対する忠誠心は高いらしい。
「いやー。そう言われても、ルファ本人からそう呼べと言われているからねえ。勝手に変えてもいいのかな?」
「ウググ」
そのうめき声(?)を聞いて不覚にも可愛いところがあるなと思ってしまったのは、眷属たちで魔物という存在に慣れているからだろうか。
勿論、そんなことはおくびにも見せることはなく、いつでも不意打ちが来てもいいようにしてはいるのだけれど。
「ソ、ソレヨリモキサマ! サッサト攻撃シテコイ!」
「え、嫌だよ? 武器持ってないし、素手で君の分厚い筋肉を通り越してダメージを与えられるわけがないし」
「マケヲミトメルノカ」
「そんなわけないから。頑張って攻撃して来てね」
別に攻撃せずににらみ合うだけでもいいのだけれど、一つ目の巨人は性格的にそんなことはしないだろうと考えて挑発してみた。
すると案の定、一つ目の巨人は逆上して無言のまま先ほどと同じように腕力に頼った攻撃を繰り出してきた。
……のはいいのだけれど、いつまでも先ほどと同じことを繰り返してもルファからの依頼は達成できるわけではない。
力やスピードがあるのは勿論のこと、体力も文字通り化け物じみているはずなのでまる一日以上同じことができるだろう。
さすがにそれは今回の『見学者』の皆さまにとっては、色々な意味で面白くない展開になるはずだ。
そこから体感で一分ほどチョロチョロと逃げ回りながらどうしようかと悩んでいると、ふと思いついたことがあった。
その思い付きを実行できるか今いる場所から地脈に接続できるかを確認してみると、問題なく接続できることがわかった。
それが分かればあとは実行するのみだとばかりに、地脈から得た魔力を使って攻撃魔法を使ってみる。
これから使う予定の魔法は、人族の中では初級から中級と分類されている攻撃魔法になる。
「ハッハッハ。ムダ、ムダダ!!」
こちらが攻撃手段として使っている魔法は巨人には全くと言っていいほど効果がないらしく、腕ではじかれるなり躱されたりしている。
なんとも脳筋的な手段だと思わなくもないが、『力』を極めた魔物だと考えれば、むしろこれほどふさわしい姿はないとも思える。
それによくよく観察してみれば、巨人が腕ではじいている魔法は初級で、躱している魔法が中級だということも分かってきた。
魔法の威力を瞬時に見分けているのは凄いと思うけれど、恐らく本能なのか経験なのかで反射的にやってのけているだけでもすごいと思う。
これでルファが心配するほどの増長がなければ、間違いなく幹部か側近の一人として取り上げられただろうに。
だからこそ、ルファが教育するようにとこちらに頼んできたのだろう。
たしかにしっかりとした『分別』がつけられるようになれば、これほど頼もしい部下は中々得難いというのも分かる。
魔法を放ちつつ巨人の攻撃を躱しながら、ちらりと観客席を見た。
そちらではヒノモトのお歴々とクランのメンバーが、この戦闘の様子を見ている。
その中の一人にアイリがいて、少し楽し気な表情を浮かべながらこちらを見ていた。
巨人の攻撃を躱しているだけの時は忙しそうに何かの説明をしている雰囲気だったのだけれど、今はお歴々が静かになっているのか解説すらしていないようだった。
それをみてそろそろいいかと判断した俺は、今までと違って足を止めた。
それに気づいた巨人が何故だかつられるように攻撃を止めたが、それに付き合う必要はない。
というわけで地脈から得ている魔力を使って、そのまま枝根動可を発動する。
これまでなかった魔法を使われた巨人は、面を喰らったのかほんの少しの間だけ棒立ちになり、見事に自在に動く多くの枝に絡め取られる結果となった。
「オ、オイ! ナンダコレハ!?」
「いや、何と言われても。拘束魔法ぐらい魔物にもあるでしょうに」
枝根動可は拘束だけに使えるわけではないけれど、メインの目的として使っているのは間違いない。
縛り上げる力を上げれば一つ目の巨人の身体であっても断ち切ったりすることもできるが、今回はあくまでも『教育』なのでそこまでするつもりはない。
とはいえただ縛り上げただけだと巨人への教育が終わったとはいえないので、しっかりとやるべきことはやっておくことにした。
「さて。一応聞くけれど、君が
「ダマレ、ヒキョウモノ! マトモニ戦エナイノカ!」
「いや。卑怯者って……戦闘に卑怯者も何もないでしょうに。君の力でも振りほどけないって時点で詰んでいるって分からないのかな?」
少しは賢いと思っていた評価が、今のセリフで下方修正されることになった。
「でも、このままだとどうしようもないからなあ……とりあえず、折角だから魔力でも貰っておこうかな」
一つ目の巨人が他でのあり得ないほどの利力やスピードを得ることができているのは、単に肉体の力だけではなく魔物らしい膨大な魔力を使って強化を行っているからだ。
折角なので、その魔力を枝を通していただくことにした。
そして魔力という唯一無二の鎧を喪失した巨人は、先ほどまで余裕ではじいていた魔法でもダメージを受けることになり、ついには戦う意思も失うことになった。
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是非ともフォロー&評価よろしくお願いいたします。
m(__)m
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