(4)見学者
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< Side:アイリ >
どういうわけか、キラ様がマキムクのダンジョンマスターの依頼を受けて戦われることになったと話を聞いてから五日が過ぎました。
そもそもダンジョンマスターとお知り合いであることに驚いたのですが、どうやらアンネリも聞いていなかった様子。
私だけ聞かされていなかったのかと思いましたが、キラ様が少し問い詰めるとあっさり「教えるのを忘れていた」と返してきました。
その言葉に嘘があるかどうか、残念ながら私では見抜けませんでしたが、アンネリも嘘はないだろうと言っておりましたわ。
恐らくユグホウラの眷属様方を除けば、アンネリが一番キラ様と付き合いが長いはずなので、恐らくその言葉に間違いはない……と思います。
もしそれが嘘だったとしても、大した問題ではないとは思います。
キラ様がダンジョンマスターと知り合いだったとしても、ダンジョンの探索は続けておりましたので何かしらの約束事はあるのでしょう。
もしダンジョン探索すること自体に問題があるのであれば、マキムクに長期間滞在するなんてことは最初から計画しないはずですから。
そんなことよりも、今の私はアンネリと一緒にとても面ど……大切なお役目を務めておりますのでそれどころではありません。
ただお役目といっても別に押し付けられたとかそういうわけではなく、これから行うキラ様の戦いを見学するための場所で色々と顔合わせが必要になっただけです。
その顔合わせの相手がとても信じられない相手だったので、恐縮することになっただけですわ。
何しろマキムクダンジョンのダンジョンマスターとヒノモトの守護獣であるタマモ様を筆頭に、御家の当主様方が勢ぞろいしているのです。
それなりの期間、キラ様と一緒に行動させていただいている私に注目が集まるのは当然といえるのかもしれません。
そのことは、アンネリと共にタマモ様から皆様に紹介された時点で諦めました。
タマモ様の紹介と共に既に面識のある方々を除いた当主様方の視線がお父様に集まったのですが、苦笑しながらも頷いておりましたわ。
幸いなのはキラ様のお仲間と紹介されたクランのメンバーは、用意された椅子に座って大人しくしていることでしょうか。
さすがに彼らに、御家の当主様方の相手はさせられませんから。
頼まれても嫌だと拒否しそうなメンバーではありますが、さすがに直接言葉に出すと不味いことは理解しているので、下手に興味を向けられないように黙っていると言ったところでしょう。
恐らく私やアンネリに余計な仕事を増やさない為にも、不必要な話はしないようにしていると思われます。
私たちがいる部屋には御家の当主様方とその護衛らしき者たちが数名ずつ、それから兵家の皆さまがいらっしゃいます。
それ以外にはクランの者たちがいますが、こちらは我関せずで離れたところで座っているので良いでしょう。
それよりも兵家の当主とその跡取りらしき男の方がいらしていますが、揃って引きつったをしています。
いくら足利家の中でも指折りの家だとしても、さすがに御家の当主が勢ぞろいした場などそうそうないので緊張するのも分かりますわ。
そうして皆様の顔色を観察していると、お父様に話しかけられました。
「――さて、アイリ。そろそろ説明してもらえないかな?」
「説明と仰られましても、むしろ私の方が詳しい話は知らないと思いますわ」
「む……? そうなのか?」
「ええ。私たちはキラ様が戦われるということで呼ばれただけです。むしろタマモ様から直接招待された皆様方のほうが事情は詳しいかと存じます」
「……むう。そういうことなら確かにそうなるであろうな」
お父様がうなりながらそう仰ると、ご当主様方は微妙に納得した顔になっていた。
微妙な顔なのは、恐らくタマモ様からの説明もそこまで多くはなかったからなのだと思われます。
もっともタマモ様が言葉少なめに皆様方をここへ招待したのは、恐らく言葉で論じるよりも直接目で見たほうが早いと考えられたからでしょう。
私がさほど情報を持っていないと知ると、他のご当主様方は興味を失ったのか闘技場へと視線を移されておりました。
今私たちがいる場所は観客期のような造りになっていて、見えやすい場所に戦うための場所が用意されております。
そこでこれからキラ様が戦われるということになるのでしょう。
ちなみにタマモ様――の名代として来られているイチエ様は、ダンジョンの関係者らしき者とその闘技場で楽しそうにお話をされております。
そうこうしているうちに、キラ様が闘技場へと姿を見せました。
多少遠目ではありますが、あまり緊張はされていないようです。
そういえばこれだけ近くにいる私も、キラ様が緊張されている姿は見たことがほとんどありません。
自然体といえば聞こえがいいのでしょうが、それ以外にも何かありそうだと思えるのはこれまでの付き合いからそう思えるのでしょうか。
「アレがそうか……?」
「随分と若いのう……」
「本当に大丈夫か?」
「あのような者のために、タマモ様が……?」
キラ様が登場されたのを見て、半数以上のご当主様方がそのようなことを申し上げておりました。
ただしお父様を始めとして、直接キラ様と関わったご当主様方は否定的なことを申されている皆様方を見て何とも言えない表情になっておりす。
確かにキラ様は見た目だけで見るととても一流の戦士とは見えないのでそういう感想が出るのも当然でしょう。
それにお父様はともかくとして、藤原や足利のご当主様も本当の意味でのキラ様ご自身の強さを知っているとは言えないと思われます。
お父様も藤原様も足利様も敢えて他のご当主様方に説明するつもりはないのか、視線をキラ様に向けたままでした。
その様子を見ていた他のご当主様方も、不満そうな顔をしながら再び視線をキラ様へと向けられました。
その視線の先では、キラ様がイチエ様やダンジョン関係者と何かを確認するようにお話しされております。
私たちにはその声は聞こえませんでしたが、恐らくこれから行われるはずの戦いについて細かいことを話されているのだと思われます。
それも時間にして数分もかからずに、また新しい動きがありました。
キラ様が登場された入口とは反対側にある入口から今回対戦する相手になるであろう魔物が登場したのです。
魔物といってもダンジョンの魔物であるには違いなく、ダンジョンマスターの配下であるためいきなり襲って来ることはなさそうでした。
出てきた魔物は一つ目の巨人族で、野生で会えば問答無用で襲って来るような力が強い魔物です。
その魔物について持っていた知識はその程度でしたが、さすがに日々領内に出て来る魔物に関する情報を得ているご当主様方は、すぐにあの魔物がなんであるか見抜いたようでした。
「――おい。まさかあいつを相手にするのか!?」
「本気か? イチエ様もどの程度の強さか分かっているであろうに」
「一体何のつもりで――」
やはり一様に否定的な意見を口にされたのは、キラ様のことを存じていないご当主様方でした。
ですが、こちらの声は全く聞こえていないのか、闘技場内のやり取りは淡々と進んでいるように見えます。
そしてついに、ここからが戦いの始まりと言わんばかりにイチエ様と見届け人らしい魔物が少し離れた場所へと移動します。
やがて闘技場の中央には、キラ様と一つ目の巨人だけが残されていよいよ戦いが始まるのでした。
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