(3)お誘い

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 ルファとの会話を終えたあとは、すぐに準備を整えるために動くことにした。

 話し合いの最中だとアンネリを始めとした大人組、それから『朝霧の梟』のカールとエルゼ、ダークエルフの四人に見学させようと考えていたのだが、もう一組招待することを思いついたのだ。

 その思い付きを話すとルファもすぐに同意してくれて、その準備を進めることになったというわけだ。

 その思い付きが何かといえば、折角の機会だから足利家からも何人か見学者を募ろうと考えたのだ。

 とはいえ事が事だけに、数は絞って招待することにした。

 下手をすれば役職持ちを総動員する事態になりかねないため、さすがにそれは遠慮してもらうことになった。

 ルファとしては場所さえ用意すればいいだけなので問題なかったのだけれど、こちらが後々の面倒にしかならないことは容易に想像がついたためだ。

 とにかく、出来ることなら片手で収まるくらいの数で済ませようということでルファとは話がついている。

 

 ということでアンネリたちに軽く話をしてから以前できた繋がりを使って、兵家へと連絡を取った。

 ルファを通して足利の長にも連絡が行っているはずだけれど、それとは別に兵家にも話をしておきたかった。

 兵家はアシカガ領の兵力を統率している立場なので、今回の話にはうってつけの存在でもある。

 だからこそ、出来ることなら当主くらいは来てほしいと考えていた。

 

 そんなわけで繋ぎを取ってもらって、すぐに兵家の屋敷へと向かった。

 本来一冒険者であれば会うことすらできない御貴族様ではあるけれど、すぐに会う段取りができたのは以前のお陰なのか、あるいは既にルファの『言葉』が足利家当主に届いているからかのどちらかだろう。

 そんなことを考えながら長介を待っていると、十分と経たずに俺が通された部屋にやってきた。

 兵家の当主が暇だとは思わないけれど、それにしても早すぎるとさえ思える対応の速さだった。

 

「えーと……お呼びだてして申し訳ございません」

「構わぬ。できる限り儂のようなものと関わりたくないと叶えているそなたのことだ。何か理由があってのことであろう」

 チクリと皮肉めいたことを言われたが、そこはスルーして気になったことを聞くことにした。

「おや。てっきり御家からの指示があったのかと思っていたのですが……」

「何っ!? 御家が関係しているのか?」

「御家というか……ダンジョンマスターを通しているお話になります」

「……全く、そなたは。気軽にその名前を出すことはしない方が良いぞ」

「そうかも知れませんね。ただ今回は彼がやる気になっているので、仕方ないでしょう」

 マクムクであってもダンジョンマスターの存在は知る人ぞ知るという感じになっていて、特に多大な恩恵を受けているこの町においては神に近い扱いになっていたりする。

 

 そんなアンタッチャブルな存在であるダンジョンマスターと知り合いであるという事実に、長介がため息を吐いていた。

「……そなたに、どんな繋がりがあるのかと是非聞いてみたいが、今はそんなことを聞いている場合ではなさそうだな」

「そうしていただけるとありがたいです。どうせ答えられませんから」

 長介は一般人からすれば貴人ともいえる相手ではあるけれど、既にあまり固くない口調で話す状態になっている。

 元サラリーマンとしては別に敬語で話すこと自体は苦手にしていないけれど、この時代の口調に合わせることは難しい。

 長介もそのことを理解しているのか、元から気にするような質ではないのか、そのまま受け入れてくれているのでそれに甘えている形になる。

「……まあ、いいが。それで、かの方が乗り気になっているという話とはなんなのだ?」

 そう問われたので、ルファに頼まれた内容をそのまま話した。

 といっても相手がどんな魔物になるかまでは聞いていないので、ルファから『しつけ』を頼まれたことだけを話す。

 

 話を続けるたびに長介の顔色が悪くなっていたけれど、それは気付かなかったフリをしておいた。

「――それで、そなたはそれを受けたと」

「逆にお聞きしたいですが、ダンジョンマスターから請われて断るなんてことは出来ますか?」

「……いや。出来ぬな。詰まらぬことを言って済まなかった。それで、ここに来たのは?」

「私は別にいいのですが、兵家でも誰か見学者がいた方がいいのかと提案したら受け入れてくれました」

 俺がそう言うと、長介は驚いたような表情になっていた。

「それは……いいのか? あとダンジョンマスターは……」

「いいからこそわざわざこちらまで来たのですよ。ただし人数は二人だけにしてください。事が事だけに――」

「さすがにそれ以上は言われなくとも分かる。……わかった。儂と他の誰かを連れて行くことにしよう。日程は……」

「足利家にも話が行っているのでどうなるかはわかりませんね。今のところ。近々だとは思いますが」

「それでは仕方ぬな。できる限り大きな仕事は入れないようにしておこう」

 ダンジョンマスターから足利家当主に話が行っていることを伝えると、長介は諦めた様子でため息を吐いていた。

 御家の当主が恐らく来ることから、その予定に合わせることになるのは当然だという意識が働いているのは間違いない。

 それでなくともダンジョンマスターから提案されている話なので、こちらの都合に合わせるという考えすら浮かんでいないようだった。

 

「それにしてもダンジョンマスターから『しつけ』の依頼か。大丈夫なのか?」

「さて。どうでしょう。出来ることならどうにかできる相手を出してくれることを願っていますが、そうそう都合よく進むとも思えませんから」

 適当に濁しながら答えておいたが、長介から探るような視線を向けられていることも分かっていた。

「ダンジョンマスターやユグホウラとの強い繋がりどころではなく、守護様との繋がりさえ持っているそなただ。出来ることなら失いたくはないのだがな」

「私も簡単に死ぬようなつもりはありませんよ。月並みですが、全力を尽くしますとしか言いようがありませんね」

「ふむ。それもそうであるな。つまらぬことを言って申し訳なかった」

「気になさらないでください」

 現代人(?)の感覚からすれば迂遠すぎる言い回しではあるけれど、心配してくれていることは理解できる。

 勿論、兵家の当主としての打算が働いてはいるだろうが、それでも言葉自体は本音で話してくれている。

 

 まさかこちらがルファが用意する相手を圧倒できるなんてことは欠片も考えていないようだけれど、敢えてそこを今から訂正するつもりはない。

 それを見せるためにわざわざ呼んでいるので、今のうちから知らせておく必要もないだろう。

 それに今この場には、他のどんな『耳』があるかもわかっていないのだから。

 アシカガ領内に兵家を追い落とすような勢力がいるとは思えないけれど、用心するに越したことはない。

 

 長介はそのことを感じ取っているのかは分からないが、こちらの少し突き放したような答えもそのまま素直に受け入れていた。

 もっとも長介としては、俺が「どう生き延びるのか」に注力していると考えていて、まさか「どう教育しようか」なんてことを考えているとは思ってもいないはずだ。

 もしそんなことをこの場で口にしようものなら「なんて思い上がりだ」と言われても仕方ないので、敢えて訂正することはしない。

 そもそもこれまできちんとした実力を見せてこなかったのは、こちらの思惑でもあるので常識的に考えてそう言われても仕方ない面はあるのだから。




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m(__)m

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