(9)ダークエルフ加入

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 ダンジョンから戻っての長との話し合いは続いていた。

「――――我らがこの地に定住を始めてから既に五百年経っております。流浪の時代を知っている先達も数が減ってきて、過去について知らない者も増えてきております」

「ユグホウラの存在がいらないと考える者が増えている?」

「そこまでは申しません。ただ外へ憧れる者が増えて来るのではないかと懸念しております」

「あれ? あの四人の話では、実情を知っているだけにそこまでではないと言っていたけれど?」

 彼らは里での暮らしが外と比べてもほとんと変わらないか、むしろ上だと分かっているのであまり出たいと思わないと言っていた。

「商売のやり取りなどで他の町や村を見る機会がある者はそう言うでしょうな」

「なるほど。つまりは里で暮らしていて外を見たことがない人たちが、憧れを持つようになると」

「そういうことですな。それに、ユグホウラのお力でここでの生活の基準が高くなっていると理解していない者も若干ですが出てきております。自分たちが取引してやっているんだと」

「あ~。それは、こっちではどうしようもないかな」


 圧政で押さえつけてしまうという手段もなくはないのだけれど、そんなことをせずとも大半のダークエルフは理解できていることは分かっている。

 ごく一部の者たちがそういう考えを持ってしまうのは、どの種族であっても同じだろう。

 問題はそうした者たちをどうしていくかということになるけれど、そこは里で考える問題なのでこちらから口を出すことはしない。

 一緒にダンジョン探索をした四人もそうだけれど、今の長がユグホウラからの恩恵を理解できないとは思わない。

 もっともダークエルフがユグホウラの保護から離れたいと言うのであれば、それはそれで構わないと思っている。

 現状ユグホウラが敵と戦ったとしてもダークエルフの力を借りることはないので、極端なことを言ってしまうといてもいなくても構わなかったりする。

 少なくとも長は、そのことも理解しているだろう。

 

「それに、そこまで極端な者は少ないですが、ユグホウラと世界樹を切り離して考える者はそれなりに出てきておりますな」

「それはまた」

「ああ、すみません。何もキラ様を困らせるつもりはありません。全てこちらで考えていくべきこと。むしろ出ないほうがおかしいと思うべきなのかもしれません」

「確かにそれはあるかなあ。中々難しいね」


 ユグホウラからの指示に唯々諾々と従うだけだと独自性やら独立性なんかをひっくるめて、ただの操り人形になってしまいかねない。

 ある程度の反発心のようなものがあるからこそ、一つの種として保っていけるのだろうとは思う。

 数が多くなれば多くなるほど違う考え方が出てくるのは当然なので、ある意味では自然な動きだともいえる。

 だからこそそうした人が出てきたからといって、一々粛清などしていたらただの圧政になってしまう。

 

 まあ、将来的にダークエルフがどの道を選んだとしても、ユグホウラとしてやることは変わらない。

 正直なところダークエルフが今の状態から分かれて独立しても、この地域の魔力的な支配が終わるとは思えない。

 世界樹にとっての『土地の支配』はあくまでも魔力的なものなので、人的な支配が終わったとしても影響はほとんど変わらない。

 シーオの守護獣のように新しい魔物を用意して、魔力的な支配を完全に切り離すと言い出せば敵対する可能性はあるのだけれど。

 

「――世界樹がある以上は、ユグホウラにとってエゾの地は絶対に手放せないからね。そのことだけは覚えておいてもらったほうがいいかも」

「勿論、理解しております。我々からしても世界樹を裏切ることなどあり得ない――とだけは断言できますから」

「それならそれでいいよ。それはそれとして……」

「はい?」

「いきなり話が変わるけれど、ダークエルフの冒険者のうち何人かマキムクあたりで経験を積んでみない?」

「……は? それはまた唐突なお話ですね」

「いきなり思いついたことだからねえ。すぐに答えは出さなくてもいいけれど、希望者がいるなら受け入れるよ。ただ一回の受け入れ人数には制限を付けさせて貰うけれど」

「それはそうでしょうが……いえ、確かにすぐにお返事するべきことではありませんね。少しお時間を頂けますか?」

「勿論。答えが出たら眷属の誰かに伝えてもらえればまた来るよ」


 ダークエルフの意識の変化が今後に影響を与える可能性があるという話をした後で、その変化を加速させる可能性がある提案をしたわけだが、長はいきなり答えは出すことはしなかった。

 すぐに拒否する答えを出さないところを見るに、外の世界を見せることに対しての意義を感じているのだろう。

 ダークエルフの里はユグホウラとの交易で高い生活レベルを維持できているけれど、それがいつまで続くかは分からない。

 もっと正確にいえば、世界のどこかで新しい道具なり技術なりが開発されるようなことになれば、いつ追い越されてもおかしくはない。

 

 そのことが分かっているからこそ、新しい情報が手に入る手段は構築しておきたいのだろう。

 この世界においてダンジョンが傍にある町は時に戦闘に関しては常に最先端を行くはずなので、そこに人を送り込む意義を十分に理解しているはずだ。

 それに加えてダークエルフの冒険者が、新しい地で新たな魔物と相対して新たな技術を獲得できるのであればそれに越したことはないとも考えられる。

 ダークエルフの里にとって外に人を送り込むことは、決してマイナスのことばかりではないということだ。

 

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 ダークエルフの冒険者とダンジョンに潜るようになってから数日が経っていた。

 この数日間は地脈の力を使った訓練をするために、何人かのダークエルフと一緒に潜っている。

 

 ダークエルフと一緒に潜っているのは引き続き長からの要望でもあるのだけれど、それ以外にも今後マキムクに連れて行くメンバーを決めるためという目的も加わっているようだった。

 長は――というよりも里の方針としてマキムクに冒険者を出すかはまだ決め切れていないようだけれど、もしそうなってもいいように今から一緒に行っても問題のなさそうな相手を決めているようだった。

 ダークエルフの里は長の独裁ではなく合議制のようなところもあるので、これまでの方針を一気に変えるような事態が起こったときは時間がかかるそうだ。

 これも人数が増えたことによる弊害と言えるかもしれないけれど、単に力で押さえつけて物事を決めていくよりはいいと思う。

 

 こちらとしてもこの数日間の探索で、かなり自在に魔法が使えるようになってきた。

 そのお陰か別の使い道も思いついたのだけれど、これはまた別の機会に試してみることにした。

 正直なところ今の状態でも人族を相手に戦えば力押しだけで勝つことができるので、急いで新しい魔法を開発する必要もない。

 勿論、戦闘は人族だけを相手にするわけではないので、手数を増やすためにも近いうちに試してみるつもりではいる。

 

 そしてダンジョン探索から戻った俺たちは、ダンジョン入口で待っていたらしい使者から言付けを受けて長の屋敷へ向かった。

 そこで長から「マキムクへの冒険者の派遣を始めることにした」という答えを聞くことができた。

 ダークエルフの冒険者はクランに所属することにして、そこから正規(?)の冒険者としてダンジョン探索を行うことになる。

 前衛も後衛もこなせるダークエルフの加入はクランにとってもいいことなので、提案したとおりに今後は一緒にマキムクに向かうことになった。




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m(__)m

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