(8)真面目な問い

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 ダンジョンを攻略している間に、アーロたちとは主にダークエルフの戦力面について主に話を聞いていた。

 町の諍いから民を守る者として衛兵(のような組織)がいて、外に打って出る兵力として冒険者がいることは長から聞いた通り。

 基本的に衛兵は人を相手にする場合が多く、冒険者はその逆となる。

 そもそも里の周辺で盗賊のような存在が出ることはないので、冒険者が人族を相手にすることはほとんどない。

 衛兵が活躍する場面も住人同士の軽い諍いくらいで、反乱鎮圧のような大きな戦いをするようなことはないと断言しても過言ではない。

 何が言いたいかといえば、基本的に戦いの才がある者たちは冒険者として活躍していくことが多いというわけだ。

 勿論、最初から衛兵を目指して訓練をしている者もいるので、絶対とは言えないのだけれど。

 里の衛兵をやっているのが引退した元冒険者たちが多いということからも、その関係性がうかがえる。

 

 衛兵と冒険者の関係性はいいとして、少し気になっているのが外の守りを固めている冒険者たちの実力だ。

「アーロたちが上位に食い込むのは予想通りとして、問題は外のことをあまり知らないことかな」

「そうなのですか?」

 話を聞いていて思わず出てしまった呟きを、アーロが拾ってそう聞き返してきた。

 ダンジョン内にいるとはいえ魔物が常に出て来るわけではなく、今はちょうど戦闘の空白時間だった。

「それが駄目とは言わないけれど、一つのところに留まっているとどうしても戦い方が固定されてしまうからね。柔軟な戦い方ができるように、出来れば離れた場所での戦闘もした方がいい……と思う」

「里の周りの環境がいきなり変わることはないのでは?」

「確かに、ヘリュの言うことも間違ってはいないね。魔物が変わるほどの環境変化ともなれば、皆も変わっていると思うから」

「では、何故?」


 そもそも里を出るという意識を持たないからこその返答に、思わず困った顔になってしまった。

 確かに里を守るという意味では今のままでも十分なのだけれど、戦闘能力を上げるという意味ではあまり褒められた状態ではないからだ。

 問題なのは、閉鎖的な考え方になっている彼らにどうやってそのことを教えるかということだ。

 正直なところお節介と言われてしまえばそれまでなので、あまり上手な説得方法は思いつかなかった。

 

「何故、と言われてもなあ……強くなろうとすることに意味があるのかと聞かれたらなんと答えたらいいと思う?」

「それは、周りにいる者たちを守るためではないでしょうか」

「そうだね。だったら守れるようにしておく、と考えるのは不思議じゃないと思うんだけれどね」

「そういうことですか……」

 詭弁と言われるとそれまでだけれど、アーロたちは考え込むような表情になっていた。

「ユグホウラに守られているから今のままで十分だ――と、そう考えるのは悪くはないと思うよ。けれどその先を目指すのであれば別のところで戦うというのもありだと思うよ」

「そう……かもしれません」

「ただなあ……。自分がこんなことを言ったと知れると長には怒られる……いや、驚かれるかもしれないかな」

「何故でしょう?」


 そう問い返してきたのはアーロだったが、女性三人も不思議そうな顔をしている。

 その表情を見れば、何故俺がそんなことを言いだしたのか、本気で分かっていないことは理解できた。

 とはいえこれは言っておかないと後々騒動に発展しそうなので、発現した者として責任を果たすことにした。

 今から言う言葉が彼らにどんな影響を与えるかもきちんと考えた上で。

 

「一言で言ってしまうと、ユグホウラに頼らない力を手に入れるということは、いつでもユグホウラから離れることができることを意味するからだね。今の長だったら当然そんなことは許さないんじゃないかな?」

 わざと彼らから視線を外しながらそう言うと、ハッと身を固くしたことが分かった。

 今の言葉が、里にとってもユグホウラにとってもかなり危ないことを意味していることをすぐに理解できたのだろう。

 何しろダークエルフの里がユグホウラの保護から離反することを意味しているのだから。

 

 少しこわばった表情になっている彼らに、今度はわざとらしく軽い調子で続けて言った。

「――と、いうこともあり得るということだけは頭の片隅に置いておいたほうがいいと思うという話だね。そんなに心配しなくても大丈夫だよ」

「キラ様……」

「だからそんな顔をしなくても大丈夫だって。あくまでもたとえ話なんだから。里がユグホウラから離反するなんて思っていないよ。少なくとも今のところは」

 

 離反したらしたで構わないとさえ思っているが、それは敢えて口にすることはない。

 そもそも、ダークエルフが世界樹の庇護から離れることを考えるとは全く思えない。たとえダークエルフたちが今以上の力を持ったとしても。

 だからこそそういう可能性があることを少しでも考えてほしいからこそ彼らに話をした。

 今はともかく、未来永劫同じ考えであり続けるとは限らないから。

 

 内に籠っていても成長し続けることは難しい。

 だからと言って外に目を向けると、世界樹ユグホウラの庇護下にあることを不満に覚える可能性がある。

 正直なことをいえば、俺自身は里のダークエルフたちが世界樹を裏切るようなことはないと考えている。

 だからこそこんな話をしてみた……のだけれど、想像以上にその言葉が刺さってしまったようだ。

 

 すっかり考え込んでしまった彼らを見て、これ以上ダンジョンの探索は止めておいたほうがいいと判断した。

「もう訓練も十分できたし、今日のところは戻ろうか」

「あっ……すみません」

「いいのいいの。ちょうど戻ろうかと考えていたタイミングだったし。ゆっくり時間を取って考えたほうがいいんじゃないかな」

「「「「ありがとうございます」」」」

 考えに没頭して戦闘の邪魔になるとは思っていないが、むしろ魔法の見学よりも今の話をじっくり考えることに重点を置いて欲しい。

 そう考えたからこそ、戻ることを提案したのだ。

 四人もダンジョンの危険性は十分に理解しているのか、こちらの提案にすぐに同意してきた。

 そして帰りは特に事故もなく、無事に里に帰還することができた。

 

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「――それは、また。悩ましい問いをしましたな」

「余計なお節介かなとも思ったんだけれどね」


 ダンジョンから戻ってすぐに長老のところに行くと、早かったことに驚かれたので中であったことを話した。

 四人に話したことは長であればとっくに悩んでいることだろうと考えてのことだったけれど、すぐにその意図を理解して少し笑っていた。

 ダークエルフ一族を纏めている長という立場だけあって、ユグホウラとの関係などは常に考えていることなのだろう。

 長としてはすでに答えを得ているからこその顔だと分かったので、こちらも世間話をするように伝えている。

 

「なんの。こちらからは話すのが難しい問題ですからな。むしろキラ殿から仰っていただいてありがたいことです」

「そう言ってもらえると嬉しいかな」

「あり得ないことですが、たとえ我らが始まりの方々を超える力を持ったとしても、世界樹様の眷属の方々を裏切ることなどあり得ない――そうすぐに答えを出せればよかったのですが……彼らもまだまだ若いということですか」

「どうだろうね。エルフのことは、エルフにしか分からないからね。どちらにしても若いうちに考えておくのはいいんじゃないかな?」


 敢えてこちらからは強制することは言わなかったけれど、長はきちんと理解したうえで「そうですね」とだけ返してきた。




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m(__)m

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