(7)調整と観察

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 ダークエルフの里の傍にあるダンジョンの第一層と第二層は、ごく普通の自然のトンネルで繋がっている……ように見える。

 だが不思議なことに、第一層と第二層の間では魔物の往来は特別なことがない限りは発生しない。

 その特別なことというのは、ダンジョンの暴走だったり魔物の大氾濫スタンピードだったりする。

 ダークエルフの里はしっかりと管理されたダンジョンになるので、よほどのことがない限りこれらのが発生することはない。

 俺が二周目を始めるまでの間にたったの一度だけその特別な事例が発生したそうだけれど、その際は眷属たちと協力して対応した結果さほど大きな被害は発生しなかった。

 とはいっても人的被害は出ているので、被害が軽微だったとは口が裂けても言えないだろう。

 ちなみに参加した眷属たちにとっては『ボーナスタイム』だったようで、下位世代の貴重な経験値になったようだ。

 そんなことはダークエルフたちに言えないので、これは後から聞いた話になる。

 

 とにかくダンジョンにまつわる話をしながら第二層に入った俺は、早速とばかりに地脈の力を利用して枝根動可を使ってみた。

 ……のはいいのだけれど――、

「これは、参ったな……」

「凄いとは思いますが、何か問題点でもあったのでしょうか?」

 話にきく枝根動可の魔法を見て感動していたアーロが、渋い顔をしている俺に気付いて不思議そうに話しかけてきた。

「問題だらけだねえ。本当なら拘束だけされているはずだったんだよね」

 そう言った俺の視線の先には、細切れになって本来あるはずの魔石さえ見当たらない惨状が広がっていた。

 

「それは、また……」

「かなり威力を押さえたつもりだったんだけれど……中々調整が難しいなあ」

「やってみたいことというのは、そういうことでしたか」

「これも含めて、だね。といってももうちょっとましだと思っていたから、苦労しそうだなあ。これは」

 

 地脈の力を取り込んで魔力として使えるようになったお陰で、かなり一度に込められる魔力の量が増えている。

 それを調整したうえで普段使っている魔法を使うことになるのだけれど、その調整の加減が中々に難しいことが分かった。

 この分だとゴブリン程度だと魔力を使うという意識をせずに拘束することができるはずだ。

 より具体的にいえば、今まで使っていた魔力がコップ一杯くらいだとすると、これからは一センチ程度の水を入れる感覚でよくなる。

 いくら何でもそれはないだろうと意識のどこかで働いてしまったことが、今回失敗した原因だろう。

 次はもっと使う魔力を絞るイメージで、と心の中で次の戦闘に挑むことにした。

 

 ――そして次の戦いでは先ほどの戦闘の反省を生かして、かなり使う魔力を押さえてみると……。

「ふう。こんな感じか」

「凄いですね。手足の先まで縛り付けているお陰で、全く動けないようです」

「まあ、ゴブリン程度だったらこのくらいのことは出来るよ」

 話しかけてきたのはアーロだったけれども、女性三人も「凄い」とか「話に聞いた以上だよ」とか言っている。

 

 そもそも一周目の時でもダークエルフの前で枝根動可を使った機会はそこまで多くなかったはずなので、どういう伝わり方をしているかが少し気になった。

 長の話では半ば伝説に足を突っ込んでいるような状態らしいので、大げさに伝わっているのではないかと考えていたのだ。

 ところが四人の様子を見る限りでは、むしろ抑えられて伝わっている気がした。

 ゴブリンを拘束するくらいのことはごく当たり前にやっていたことなので、このくらいで驚かれるとは思っていなかった。

 その認識の違いが気になって、着いて来ている四人にそのまま疑問をぶつけてみることにした。

 

「少し申し上げにくいのですが……」

「いいよ。昔話みたいに伝わっているのは理解しているから、気にしないで言ってみて」

 俺がそう促すと、エリサが申し訳なさそうな顔になりながらこう言ってきた。

「里では今に精霊様の魔法が伝わっていないのは、話ほどに強くはなかっただろうからだと……」

「なるほど、そっちか。里で魔法が失伝しているのは、戦闘で使えない魔法で威力もないから伝わっていないということだね」

「は、はい。そうなってしまいます……ね」

「あ、ごめん。別に怒っているわけじゃないからそんなに恐縮しないで。むしろ、そうなってしまうのも当然だと思うよ」


 少し気になるのはダークエルフはヒューマンと比べて寿命が長いので、若い彼らの祖母祖父世代だと俺が精霊だった時に生きていた可能性は高い。

 そうした世代から具体的なことを聞いていなかったのか、ということが頭をよぎった。

 その問いをそのまま彼らにして見ると、返ってきた答えは「年寄りの話だからと軽視されがちになっています」とのことだった。

 特に戦闘において若者の動きについてこれない年寄りのことを聞かなくなるということは、ダークエルフの世界でもあることらしい。

 

「――世代間ギャップみたいなものか。その辺りは長寿であっても変わらないのかな」

「どうでしょうか。変わらないものは変わらない……と思いたいですが、今回のようなことを考えるとやはりあるのでしょうね」

「『人』として生きている以上は、どうしたって個人差は出て来るからね。その差が世代間で大きくなるのは、ある意味仕方ないのかもね」

「……そうかも知れません」


 そんな会話をしながら第二層を進んで行く。

 肝心の枝根動可に関しては、回数をこなすごとに段々と慣れていった。

 そして第二層が終わり、第三層への入口に近づいた時には違和感なく威力を調節できるようになっていた。

 これならどの相手が出てきても大丈夫だろうと、そのまま第三層へと進むことにした。

 

「――よし。どうせだったら君らの戦い方も見せてよ。普段も一緒に潜ったりしているんだよね?」

「常に一緒というわけではありませんが、組んだりすることはありますね。――どうする?」

 アーロが後ろを歩いていた女性三人に問いかけると、体を動かしたくなってきたとすぐに同意してきた。

「キラ様ほどの魔法は使えませんが、よろしいのでしょうか?」

「そこはね。ダークエルフの戦い方がどんなものかを知りたくなっただけだから、むしろ普段使っている魔法なんかを使ってくれると嬉しいかな。とにかく普段通りの戦い方で」

「「「わかりました」」」

 女性三人は普段から行動を共にしているらしく、息を合わせてそう答えた。

 男性はそれに乗り遅れて、少しばかり苦笑をしていた。

 

 丁度いいタイミングということで、第三層に入ってからはダークエルフたちが数回戦闘を繰り返した。

 その戦闘も決して見劣りするようなものではなく、かなり洗練されているように見えた。

 大陸方面のギルドのランクでいえば、Bランク相当の実力はあるように思える。

 彼らもダークエルフの中では実力者といわれるだけあるらしく、ダンジョン内で戦い慣れているということもあるのかもしれないが。

 

 ちなみにダークエルフの戦い方は、他の人族のものとほとんど変わり映えのしないものだった。

 少しばかりダークエルフ特有の魔法を使ったり近接戦闘をしたりするのではないかと期待していたのだけれど、さすがにそんな都合のいいものはなかった。

 ただし普段から眷属に触れる機会があるダークエルフだけに、強い魔物という存在は常に意識している戦えているようだった。

 その意識があるだけに、第三層で軽く戦えてもお気楽気分にはならずに、まだまだ先を目指すという気概が感じられた。




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m(__)m

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