(6)里の魔法

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 始めは様子見ですぐにダンジョンに潜るつもりだったけれど、少しだけ余裕をもって潜ることにした。

 折角人数が増えたことと久しぶりに潜るダンジョンなので、時間をかけて調査をしようと考えたのだ。

 もっとも時間をかけるといっても日帰りで、まる一日かけて探索することにした。

 ただしそれだと時間が余ってしまうので、長と話をしたあとは里で管理している畑を見学させてもらうことにした。

 その際にダークエルフの農夫たちが使っている魔法も見せてもらったりしたが、俺が知っているものとあまり変わりないように思えた。

 ダークエルフが使っている魔法は緑の魔法ではなく、そこから普通の(?)魔法使いが使えるように改良されたものになる。

 これは一周目の時に色々と研究を重ねた結果使えるようになったもので、ダークエルフ魔法使いの努力と研鑽によるものだ。

 ダークエルフの農夫たちはそのことを誇りにしているらしく、今でも大切に受け継いでいるようだった。

 

 農夫たちが使っている魔法は、一周目の時にダークエルフが使えていたものよりも洗練されているように見えた。

 より目的別に細かくなっているというべきか、これまでの間に研究を積み重ねてきたことが分かる結果になっている。

 これほどの魔法、よくぞ開発した魔法使いが隠さずに公開されているなと思ったら、なんと農夫たちは定期的に集まって魔法の勉強会が開かれているらしい。

 そこで開発された魔法が今も伝わっていて、より農業に特化した魔法となっているそうだ。

 

 ある意味で農業ギルドのようなものかと納得したのはいいけれど、そうなってくると戦闘系の魔法が失伝していることが逆に気になってきた。

 そこで翌朝集まったダークエルフたちに、その質問をそのままぶつけてみた。

 すると返ってきた答えは、仕方ないといえば仕方ない、戦闘系特有の事情によるものだった。

「――戦闘を仕事としている者たちは、技術がそのまま命に直結しますから秘匿する傾向が強いのですよ。開発した技術を教えるとすれば弟子とかになりますか」

「ああ~。そういうことか。もしかしなくても争いごともあったりするんだ」

「そうなりますね」

 少し寂しそうな顔をしてそう答えて来たのは、女性三人のうちの一人だった。

 

 一周目の時はダークエルフの里も千人程度だったので、辛うじて里人全員が顔見知りと言えるような状態だった。

 だが数が多くなればなるほど疎遠になる関係も出てきて、争いごとも増えていった。

 結果として戦う必要のある者たちは、自分自身の技術を秘匿する傾向が強くなってきたというわけらしい。

 それでも里を守るという最大の目的は果たせているので、悪いことばかりではないということなのだろう。

 今までそれで上手く行って来たらしいので、俺がそのことに口を挟むつもりはない。

 ここで余計なお節介をすれば、折角上手く回っていた里の運営が破綻することになりかねない。

 

 少しばかり寂しい裏事情を知ってしまったけれども、敢えてそこは深く掘り下げずにすぐに話題をこれから行くダンジョンのものに変えることにした。

「そういえば君たちは冒険者みたいだけれど、里にはギルドはないよね?」

「はい。里には衛兵が戦闘員としていますが、外に出て魔物を狩る者を冒険者として区別しています。セプトやノースで登録をしている者もいますが、私たちはまだです」

「あれ? 里に住んでいるのに、そっちで登録している人もいるんだ」

「長なんかは、外貨が稼げるとむしろ推奨していたりしますね。そのまま里を出て行く者もいますが、数はさほど多くはありません」

「里に閉じ込められていると感じて飛び出す人もかなりいるんじゃないかと思っていたんだけれどね」

 俺がそう言うと、何故か四人は同時に顔を見合わせてから代表して唯一の男性が言いにくそうな顔になってこう言ってきた。

「里の生活水準が低ければそうなるのでしょうが、明らかに里の方が上ですから中々出て行こうと思わないのでしょう。……精霊様のお陰ですよ」

「え。えーと……? ――ああ、そういうことか」


 一緒に行動している四人のダークエルフは、俺が元世界樹の精霊だということは理解している。

 その上でわざわざ付け加えたということは、本気でそうだと考えているということだ。

 ただ本人としてはそんなことをしたつもりはない……と思ったのだけれど、少し考えればわかることだった。

 そもそも冬の植物の開発から始まって、蜂蜜なんかの甘味もユグホウラから好きな量が入って来る。

 

 少なくとも食生活という意味においては、他の人族の町のほうが劣ると言われて思い当ることがある。

 確かにこれまで見て来た町や村は、そこまで生活水準が高いとはお世辞にも言えるものではなかった。

 勿論、それはあくまでも一般庶民の話であって、貴族や王族になってくると変わって来るのだろうが。

 そんな生活を登録したばかりの冒険者がいきなり出来るはずもなく、里に戻って来るというのも分かる気がする。

 

 四人のダークエルフは、すでに長に紹介された時に名前も聞いている。

 一人だけの男性はアーロで、残り三人の女性はそれぞれエリサ、ヘリュ、イロナとなる。

 エルフは美形という噂に違わず、皆顔面偏差値が高い。

 そもそもこの地に移住してきたダークエルフは、全員が美形だったのだから当然の結果ともいえるが。

 

 とにかくその四人と里の様子を話しながら目的地であるダンジョン入口にまでついた。

 里から歩いてに十分ほどの場所にあるこのダンジョンは、魔物の氾濫が起こらないように冒険者たちが適度に間引いている定番の場所になる。

 これまで見て来たダンジョンよりは数は少ないが、里の冒険者たちの姿が何人か見える。

 同じ冒険者ということで顔見知りも多いのか、四人もそれぞれに話しかけられていた。

 

 俺が元世界樹の精霊であることはそこまで広まっていないのか、他のダークエルフからはあまり注目されていない。

 どちらかといえば、四人がお守りで興味本位でダンジョンに来ているどこかのお坊ちゃんという視線で見られている気がした。

 そもそもダークエルフから見れば短命なヒューマンで、しかも日本ヒノモト系の顔立ちということで設定年齢よりもさらに若く見られているのだろう。

 四人が護衛だと見られるのも分からなくはない。……一応眷属たちも着いて来てはいるのだけれど。

 

 周りの視線のことは気にしていても仕方ないので、さっさとダンジョン内に侵入した。

 里の傍にあるダンジョンは自然型で、入口はそのまま自然の洞窟のような見た目になっている。

 中も第一層は洞窟になっていて、灯はダンジョン特有の光で照らされていた。

「――定番に漏れずに、第一層はさほど強い魔物は出ないって聞いたけれど?」

「はい。ここに来る仲間も依頼で間引きをするためにいるだけで、それ以外は素通りするのがほとんどです。勿論、初心者は別ですが」

「それじゃあ、魔法の試しだから第一層はスルーしたいんだけれど、いいかな?」

「お任せします。私たちにとっても旨みがある場所ではありませんから」

 第一層はスライムやゴブリンといったド定番の弱い魔物が出てくるだけなので、そのまま通り抜けることに決めた。

 第二層からはそれなりに手ごたえのある魔物が出て来ると事前に聞いているので、本番はそこからになる。

 

 もっとも本番といっても魔法を試す場所としてという意味で、格上か格下かでいえば後者になるのだけれど。

 どちらにしても第一層に居続けても意味はないので、真っすぐに次の層に向かうための新しい『入口』を目指した。




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m(__)m

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