(5)長との話

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 巫女頭の問いかけは、今後の巫女たちの修行に対しての方針を決めるためのものだったようだ。

 ヒノモトにおいて世界樹の存在は大きいが、それ以外の地域ではユグホウラという組織の方が大きい。

 場所によっては、世界樹すら忘れ去られようとしているところもあるくらいだ。

 タマモがいる限りはヒノモトがそうなる可能性は少ないだろうが、世界樹そのものに対する信仰心が落ちてきていることは間違いない。

 世界樹が人々の信仰心の有無で存在しているのであれば気にするのだけれど、ほとんど関係のないことなので俺自身はあまり気にしていない。

 しかしヒノモト各地に散らばっている巫女を統率する巫女頭としては、やはりその辺りのことは気になるのだろう。

 ついでにヒノモトには世界樹をご神体としない巫女も存在しているところがややこしいところだ。

 ヒノモトには古来より信仰されている神々が存在しているので、それも当然のことなのだが。

 もっとも歪みの調査という意味においては所属している巫女の数が多い方がいいのだけれど、それも絶対というわけではない。

 あまり無理をして人数を増やす必要もないので、それだけは伝えておいた。

 

 巫女頭との話を終えたあとは、その足でダークエルフのギフの元に向かった。

「――お伝えいただければ、お出迎え致したのですが……」

「そういう仰々しいのは、ちょっと遠慮したいかな」

 残念そうな顔で首を振る長に、速攻で断りを入れておいた。

「そうですか。それで、今回は何の御用ですかな?」

「いや。前回来た時は少し慌しくなったからあまり詳しく話を聞けなかったじゃない。だから里の現状をゆっくり聞いてみようかなと。あとはダンジョン探索をしようかと」

「ダンジョン探索ですか?」


 ダークエルフの里に近くには、一周目の時に見つけたダンジョンが存在している。

 昔と変わらないままなのであれば、ダークエルフの戦士たちが戦闘能力を上げるために使われているはずだ。

 勿論、武器防具や生活に使うための道具作成のための素材を収集するためでもある。

 里の周辺にダンジョンが残っていることは既に眷属たちから聞いていたので、折角なので潜ってみる気になっていた。

 

「新しい魔法を覚えたので感触をつかんでみようかなと思いましてね」

「そういうことですか。お連れの方々もいらっしゃるので大丈夫でしょうが……そうだ! 折角ですからお邪魔にならなければ内に者たちを連れて行ってもらえないでしょうか?」

「ダークエルフたちをですか? 特に邪魔にはならないと思いますが、何かございましたか?」

 何故いきなりそんなことをと考えての問いだったが、長の回答は単純なことだった。

「いえいえ。現代にもかつての精霊様のお話は伝わっております。今のキラ様がどのように戦われるのか、知りたがっている者も多いですから」

「一応ダンジョン攻略ですから物見遊山は困るのですが……」

「そんな失礼なことは致しません! 一緒に行っていただくのは里でも強者を選びますので、邪魔にはならないようにいたします」

「そういうことなら……別に構いませんよ」

 少しばかり一緒に着いて来ていたラックとシルクが残念そうにしていたけれど、わざわざ断ることでもないので了承しておいた。

 

 そこから少しだけさらに詳しく話を聞くと、どうやら世界樹の精霊が使う魔法の一部は既に伝説に片足を突っ込んでいるような状態になっているものもあるそうだ。

 ダークエルフが使える魔法の中には植物の成長を促進させるためのものもあり、そうした生活に密着した魔法は残っているものも多いが、失われてしまった魔法もある。

 特に戦闘系の魔法に関しては、ダークエルフが使えないような魔法もあるので時に話に伝わる魔法の有無で議論の的になっているとのこと。

 その代表格が枝根動可だそうで、出来ることなら使って見せてほしいと言われてしまった。もともとダンジョンで使う予定だったから問題はない。

 

 邪魔にならないなら構わないと伝えると、長はすぐに準備すると言って部屋の隅に控えていた別のダークエルフに視線を送っていた。

「いや。まさかご了承いただけるとは思っておりませんでした。ありがとうございます」

「お礼を言われるようなことではありませんよ。もともと魔法の使い勝手を調べるついでに軽く潜るつもりでしたので、見学者がいても問題にはなりませんから」

「そうでしたか。ということは深層には行かれないのですね」

「そもそも準備もしていませんでしたしね。とりあえず行ってみる感じで、もしその気になれば次は深層を目指そうと思います」

「その時は、以前のようにお連れ様もご一緒になるのでしょうか?」

「どうでしょうね。まだ決めていないので何とも言えません」

 ただの思い付きで話しているので曖昧な答えになってしまったけれども、長も明確な答えは期待していなかったのか「そうですか」とだけ返してきた。

 ダークエルフの里は隠れ里的な扱いになっているので、大勢を連れて来るかどうかで迷うところだったりする。

 

 その後は最初に言ったとおりに、里の様子を話してくれた。

 興味深かったのはこれまでの間に新しい冬の作物も出来ていることで、さらにそれを応用することで夏のエゾに最適なものも生まれているそうだ。

 それらの品物は里で消費する分だけ作られていて、表には出ていないとのことだった。

 ダークエルフにしてもドワーフにしても外との関りは最低限で構わないと考えているようなので、輸出してまで儲けを出そうとは考えていないそうである。

 

 それらの話でふと気になったことがあったので、聞いてみることにした。

「そういえば、里から外に出たいという者はいないのでしょうか?」

「ここの暮らしが豊かだということは皆が理解しておりますからなあ。あまり積極的に出ようとは思わないようですな。別に里として禁止しているというわけではないのですが」

「そうなのですか。ヒノモトではあまり話を聞かなかったので不思議に思っていたのですよ」

「ヒノモトだとダークエルフは珍しいですからな。もしいたら話に出るでしょうからな」

「ええ。眷属たちに聞いてもあまり外には出ていないと言っていたので、もしかすると禁止事項になっているのかと思っていました」

「過去には里の生活が狭苦しいと表に出て行った者もいるのですが、こちらから強制することはありません。だからこそ拡張の問題が出ていたのです」

「ああ。そういえばそうでしたね」

 以前来た時には、里の拡張をどうするかの話も出ていたことを思い出して頷いた。

 

 この里にいるダークエルフたちは、元は国を追われてヒノモトに渡ってきたという歴史があるので無理に外に出ろというつもりはない。

 とはいえ既に長い年月が経っているので、一つの里にこだわることもないのではないかと考えている。

 場合によっては転移装置を使ってヒノモトなり大陸なりに移住していてもいいと考えていたのだけれど、そう簡単な話ではないのだろう。

 そこはこちらが強制するようなことではないので、長たちに任せることにしている。

 

 そんな話をしているうちに、長が出した使いの者がダンジョン探索に同行するダークエルフを連れて来た。

 内訳としては男一人に女三人で性別が偏っているが、一応深層まで行くことを考慮して選んだ結果がこの四人だったらしい。

 他にも深層まで行ける者はいるそうだけれど、手すきだったのが今いる四人だったそうだ。

 どちらにしてもやることは変わらないので、こちらとしてはあまり性別は関係はないのだけれど。

 

 ちなみに余談ではあるが、美人と評判のエルフ種だけに選ばれた四人もその評判に漏れず美形だった。




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m(__)m

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