(4)問い

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 結論からいえば、四つの魔法陣の設置は何事もなく予定通りの動作をすることが確認できた。

 果たして歪みを自然の回収ではなく人工的に回収することが良いことなのかは分からないが、それについては長期間の観察をしないと分からないだろう。

 もっとも歪みの回収のために巫女という存在がいること自体、人工的に回収することが悪いことだとは考えていないのだけれど。

 問題が発生するとすれば世界樹の処理能力を上回る歪みを回収した時だと思うが、今のところはそんな様子も全くないので問題はないと思う。

 これは感覚的なことだけれど、恐らくエゾで発生している歪みを常に回収し続けたとしても問題なく処理できると考えている。

 それだけ前回の進化で世界樹の能力が上がっているわけだが、あくまでも感覚的なことなので実際にやってみないと分からないこともあるだろう。

 そのためにも、魔法陣の設置は段階を踏んで行うことにしているのだから。

 もし歪みの回収量が多すぎて世界樹内で処理が滞るようであれば、魔法陣を止めたうえで以前やったように俺自身が世界樹の中に入って処理を促してやればいいはずだ。

 

 訓練を続けながら二、三日様子を見ていたが、結局何も起こらずにスムーズに歪みの回収が行われた。

 このまま半月ほど様子を見て、問題なければ新しい魔法陣を増やしていくつもりだ。

 ただし歪みの回収と処理に問題がなかったとしても、魔法陣を半永久的に維持するためには管理が必要になる。

 そちらの問題はアイが解決してくれるので、魔法陣自体は今後も順次アップデートされていくようだ。

 

 それから歪み回収の魔法陣を設置したことによって、一つだけ新しい問題が起こる可能性がある。

 禁足地を除けば世界樹周辺では、巫女たちがフィールドワークとして歪みの調査を行っている。

 今回魔法陣を設置したことによってその辺りの歪みが減ることになるのだけれど、調査を行っている巫女たちが問題が起こったのかと認識しかねない。

 そのため魔法陣で半自動的に世界樹に向けて回収していることを、ダークエルフの里にいる巫女頭に知らせておく必要がある。

 

 魔法陣を起動してから四日目の朝に、何も起きていないことを確認してからダークエルフの里へ向かった。

 その足で長の屋敷に向かうのではなく、そのまま巫女頭の元へと直行した。

 長の所には、巫女頭に話をしてから向かうつもりでいる。

 建前上は、巫女とダークエルフはどちらが立場が上というものはなく、あくまでも巫女たちが修行場として場所を間借りしているということらしいので前後しても問題はない……はずだ。

 

 とにかく巫女頭に会いに行くとすぐに面会の許可が降りた。

 たまたま対応してくれた巫女が以前にも会っていたので、俺が世界樹と関わりが深いと分かっていたのも大きいのかもしれない。

 それはともかく、用意された部屋で巫女頭と軽く挨拶を交わしてすぐにホーム周辺に置いた魔法陣のことを話した。

「――というわけで、もしかすると禁足地境界あたりでは歪みの出現が減るかも知れませんので、ご安心ください。いや。ご安心くださいというのも変ですか」

「ホホホ。確かに、話を聞く限りでは変かも知れませんね。ですが、事情は理解いたしました。巫女たちの巡回ルートも変えたほうがいいでしょう」

「いや。むしろそのままの方がありがたいですね。実際に減るかどうかは、きちんと確認しないと分からないことですから。勿論、強制するわけではありませんからお任せいたしますが」

「そうですか。確かに確認は必要でしょうね。では当面は今まで通りで継続いたします」

「ありがとうございます。それに、魔法陣は今後も増やしていくつもりですのでそれに合わせてルート変えてしまうと、いずれ行く場所がなくなりますよ」

 冗談めかして言うと、巫女頭は笑ってくれた。

 

 巫女たちにしてみればエゾ内で巡回を行いつつ歪みの確認をすることは、修行のうちの一つだ。

 それがなくなるということは、エゾ内でやれることがなくなってしまう、というと少し大げさだけれど目的の一つが無くなってしまうことには違いない。

 エゾ内から歪みが一掃されると巫女の存在意義が無くなる――とまでは言わないまでも、修行場としては物足りなくなるのは間違いないだろう。

 もっとも例の魔法陣を設置したくらいでエゾ内から全ての歪みをなくすことなど不可能だというのが俺とアイの見解だったりするのだが。

 

「一つお伺いしたいのですが、よろしいでしょうか?」

「なんでしょう?」

「そもそも世界樹様が歪みを集めて何をされているのか、私どもには伝わっていないのですがお教えいただけますか?」

「ああ、それね。というか、歪みを変換して魔力に変えているということは?」

「それは初代様より伝わっております。お伺いしたいのは、その集めた魔力をどうされているのかということなのですが……」

「あれ? そこは伝わっていないのですか。といってもそんなに難しく考える必要はないですよ。歪みを魔力に変換したあとは、そのまま拡散しています」

「拡散……とは?」

「そのままの意味ですよ。歪みのままだと生き物は魔力として使えないですから、皆が使える魔力に変えて周辺に広めているのです」

「皆が使えるようにするために変換をしているということですか」


 より正確にいえば世界樹というフィルターを通しているので、世界樹の魔力に変わっていたりする。

 そもそも世界樹はマナを回収して魔力に変換して周囲に拡散しているので、世界樹に取り込まれた歪みもそれに同等の働きをするということになる。

 問題なのは世界樹に回収されない歪みがどんな働きをするのか、未だにはっきりとわかっていないということだろう。

 もしかすると爵位持ちが歪みを回収して魔力に変換する作業は、プログラムでいうところのバグの修正に当たるのではないか――という話がプレイヤー間で出ていたりするけれど、本当のところは分かっていない。

 そもそもプログラムに発生しているバグの場合は、放置しているとプログラム自体が動かなくなってしまうこともあり得るので歪みとは違うという意見もある。

 どちらにしても詳しいことは分かっていないので、あくまでも比喩としてのたとえとしてプレイヤー間では話がされている。

 

「そうなりますね。もっとも世界樹だけがその役目を負っているわけではないようですが」

「それは?」

「おや。ヒノモトだとタマモがいるのでわかりやすいのではありませんか?」

「では、守護獣様もそのお役目を負っていると?」

「そうなりますね。ただし守護獣がいない地域でも魔力は存在しています。もし短慮を起こして守護獣などいなくても良い……という考えの者が現れるとどうなるか」

「……どうなるのでしょうか?」

「こればかりは私にもわかりませんね。案外今と変わらず魔法が使えるのかもしれないですし、使えなくなるかもしれません」


 世界から爵位持ちがいなくなった場合はどうなるのか――そういう議論はプレイヤーの間でも行われていたが、当然のように答えは出ていない。

 そもそもマナを魔力に変換できる存在がいてこその世界なので、もしいなくなったらどうなるのかという話をしても仕方ないのだろう。

 世界樹とは何なのか――恐らく巫女頭はそのことが聞きたかったのだろうと当たりを付けたけれども、答えを持っていない以上答えることはできない。

 巫女頭もそのことを察したのか、それ以上のことを聞いて来ることはなかった。




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m(__)m

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