(3)準備完了

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 長時間霊体の状態のまま地脈の中にいることは肉体の方にも悪影響があるようで、一時間ほどでガイアとの会話を終えて元に戻った。

 体力的にはそこまで疲れがあるわけではなかったけれど、午前中は広場に行って温泉に入ってのんびりしてから午後は再び訓練をすることにした。

 ガイアからは「個々人によって感覚が違うから説明ができない」と言っていたけれども、その言葉だけでも幾つかわかることがある。

 特に俺の場合は、一周目が世界樹だったことでより特殊性が増していると考えている。

 ここでポイントになる――と考えているのが、最初に地脈に触れるために必要だったことが魂の状態になっているということだ。

 俺の場合は、それに世界樹を通って行ったということが加わる。

 地脈に触れるときに世界樹を経由したということは当然のように帰りも通っているわけで、地脈に触れて一緒に持って帰ってきた魔力もその影響を受けているというわけだ。

 要するに人の身体の状態であっても、世界樹のことを意識しないといけないというわけだ。

 

 ――というわけで早速訓練……の前に、移動する間に考えていたことを試すことにした。

 要は世界樹を経由すれば魔力の変換がされるのであれば、同じようなことをすればいいわけだ。

 その『同じような』ことを疑似的に起こすために、ちょうどいいものがある。

 普段から魔力の通りがいいから杖代わりに使っている精霊樹からもらった枝を通せば、世界樹を通るのと同じ状態になるのではないかと考えたのである。

 

 そして地脈から取った魔力をいきなり自分の体に入れるのではなく、敢えて手に持っている枝から吸い込むようなイメージで体内に取り込む。

「……おおう。こんなにあっさり上手く行くか。一応、魔法も発動……できたな」

 いつもよりも遥かに力強くしなやかな木の枝がスルスルと生えていくのを見て、枝根動可がしっかりと発動できたことが確認できた。

 明らかに今までのとは違って一段も二段も上の威力になっている。

 下手をすると一周目の世界樹の精霊だった時とそん色がないか、それ以上の魔法になっていた。

 この魔法を使ってダンジョン攻略をすると、かなり奥深くまで――というよりもソロで踏破もすることが可能かもしれない。

 

 そんなことを黙ったまま考えていると、様子を見ていたラックが近寄ってきて話しかけてきた。

「主、随分と威力が上がりましたね。以前よりも力強くなっているのではありませんか?」

「ラックもそう思う? まだ慣れていない状況でこれだから、使い慣れてきたらもっと上がると思うよ」

「それはそれは。やはり主は主ですね」

「……褒められている気がしないなあ。けど、まあ、言いたいことは分からなくはないかな」

 世界樹の精霊だった時も色々と工夫を重ねて枝根動可の質と力強さを増していっていた。

 その頃のことを思い出しての言葉だと分かるだけに、嫌味な感じはせずにむしろくすぐったさを感じて少しだけ笑ってしまった。

 

 この時近くにはシルクもいたが、彼女は黙ったまま話を聞いていて笑っていた。

「とにかく精霊樹の枝を使う……あれ?」

「主? どうかしましたか?」

「精霊樹から貰ったから精霊樹の枝だと思い込んでいたけれど、もしかしなくても世界樹の枝になっている?」

「お気づき出なかったのですか? 以前、世界樹が進化した時に一緒に変化していたようですね。長期間傍にあったので変わったのではないでしょうか」

 今の今まで気づいていなかったのだけれど、ラックやシルクは既に気付いていたらしい。

 精霊樹も世界樹も似たような葉をつけるので、見た目だけでは気付かなかった。

 改めて見てみると、明らかに纏っている魔力が世界樹のものになっている。

 もしかすると地脈からの魔力の変化が上手く行ったのは、使った枝が世界樹のものになっていたからかもしれない。

 

 そこも気になるところではあるけれど、今はそれよりも折角使えるようになった地脈からの魔力を使った魔法を上手く使いこなせるようになることが先決だ。

 まだ何が起こるか分からないのでラックとシルクには離れてもらって、再び枝根動可を使って訓練を再開する。

 一度成功して慣れたのか、その後も九割以上成功させることができた。

 残りの一割は最初の頃に制御に失敗したもので、後半は失敗することなく発動させることができるようになった。

 

 

 夢中になって訓練したため日が暮れる前に急いでホームに戻った。

 眷属が傍にいる限り夜に移動しても迷うことはないのだけれど、無駄に危険な状況に身を置くつもりはない。

 というわけで手ごたえ十分でホームに戻ると、そこではアイが一つの報告を持って待ち構えていた。


「――魔法陣の発動準備ができた」

「あれ? もう? まだ一日しか経っていないよ?」

「魔法陣の研究は済んでいた。あとは設置するだけだったから半日もあればできる」

「そういうことか。それなら早速……は、もう時間が遅いか。明日発動してみようか」

「新しい魔法の訓練は?」

「そっちは大丈夫。ある程度は上手く行ったからね。あとは繰り返して密度を上げていくだけかな」

 

 一口に魔法の発動といっても、タイミングや効果のブレなど細かいことを指摘すればいくらでも問題点は出て来る。

 枝根動可でいえば、発動できる枝の数だったり、そもそもの強度だったり、動かすスピードなど気にすることを上がればきりがない。

 使いこなすためにまだまだ訓練するべきところはいくらでもあるので、ここからは時間をかけてやっていくつもりだ。

 それよりも歪みを効率的に回収するための魔法陣ができたのであれば、そちらを先に確認しておきたい。

 アイもそれが分かったのか、すぐに了承してくれた。

 

「発動の準備はできているから、あとはタイミングを合わせるだけ」

「タイミングは合わせる必要あるのかな?」

 ふと思いついた疑問だったが、アイは少し首を傾げてからすぐに左右に振った。

「別に連動させているわけじゃないから同じタイミングにする必要はないと思う」

「そう。だったら明日は敢えてバラバラに発動してみようか。一つだけでどうなるのか見ておきたいし。徐々に効果が加わった時にどうなるのかも見ることができるよね?」

「わかった。だったら一時間ごとに発動するように指示する」


 魔法陣の発動は眷属たちが行うようなので、その辺りは自由に変えることができるそうだ。

 それならバラバラに発動してどうなるかを確認しておきたい。

 別に同時に発動してもいいのだけれど、今後も追加していくことを考えると同時発動は後からでも出来るので明日すぐにやらないといけないわけではない。

 もっともそれはバラバラの発動でも同じなのだけれど、そこは折角の思い付いたことなのでまずはバラバラで実行することにした。

 

 四つ同時に設置したのはヘディンでの件があったからだけなので、今回の実験で同じようにする必要はない。

 そもそも魔法陣自体も大きく変わっているので、同じくする意味がないともいえる。

 とにかく方針は決まったので、明日は一時間おきに東西南北の順に魔法陣を発動することになった。




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m(__)m

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