第12章

(1)宴会と訓練

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 ヘディンでのゴタゴタが片付いてから数日後には、転移装置を使ってマキムクへ戻った。

 ただし俺自身がマキムクにいたのは一晩だけで、翌日にはユグホウラのホームに向かった。

 一人で戻ったのは、ユグホウラとしてやっておきたいことができたからで、それに向けての話し合いを第一世代の眷属たちとしようと考えたためだ。

 さすがにその話し合いにアンネリやアイリを加えるのは違うと考えたので、連れて来るのは控えたのである。

 あとは個人的に地脈関係の訓練を進めておきたかったということもある。

 こちらは隠すつもりはないのだけれど、場合によっては危険を伴いこともあり得るので気が散らないようにするという目的もある。

 さすがに地脈の力を引き上げたりして暴走することはないとは思うが、それでも何があるのか分からないので気を使うのに越したことはない。

 訓練して失敗したところを見られるのが恥ずかしいということもあるけれど、それはそれ、である。

 

 ――というわけで、ユグホウラのホームでの話し合いが始まった。

 といってもそこまで堅苦しいものではなく、久しぶりに全員を集めて会食的なことをしつつ雑談をしようという目的もある。

 そもそも第一世代の眷属たちは食事を必要としないので、会食が必要かといわれるとそうでもないのだけれど。

 ただし全く食事をしないというわけではなく、前世の俺の影響で娯楽的に楽しむことは覚えているので、むしろ後半戦は騒がしくなることが常だった。

 

 俺が二周目を開始してからはそんな会食も減っていたので、ここらで久しぶりにやろうと呼びかけたらすぐに全員が集まってくれていた。

「お楽しみは後にするとして、最初はちょっとした提案というか報告をするね」

「主様。そこまで申し訳なくされるひつようはありません。そもそもは、こうした報告があるからこその会食です」

 いきなりお楽しみではないことを謝ると、クインからそんなことをする必要はないと冗談混じりに怒られてしまった。

 他の皆も俺とクインの会話が半ば冗談だと分かっているのか、楽しそうに突っ込んでくるだけで雰囲気が悪くなるようなことにはならなかった。

「コホン。それで業務的な話だけれど、ちょっとホーム周辺に魔法陣を仕掛けることになったから、破壊しないで欲しいんだ。詳しくはアイから」

「わかった。設置する魔法陣は――」

 そこからは、アイがヘディンで起きた事件で使われていた魔法陣を改良したものを設置することを説明し始めた。

 皆、必要なことだと理解しているのか、特に反対するような者はいなかった。

 

 そもそもヘディンで使われていた魔法陣は、簡単に説明すると魔力を集めてダンジョンを狂わせるようなものだった。

 その際に歪みも地脈を利用して集めていることがわかったので、それを利用して世界樹に歪みを自動的に集められないかと考えたのである。

 アイに相談してからその改良ができたと報告があったので、それを早速使ってみようというわけだ。

 これが上手く行けばエゾ内で設置数を増やしていき、ゆくゆくは世界中に広げていくつもりでいる。

 

 問題になるのは世界樹内での歪みの処理が追い付かなくなることだけれど、それは様子を見ながら続けることになっている。

 といっても眷属たちは世界樹が歪みを処理できているかの確認はできないため、こればかりは俺自身が来て確認する必要がある。

 ただし、最初の内はちょくちょく見に来るつもりでいるけれど、大丈夫だと確認できればそこまで頻繁に来る必要はなくなるはずだ。

 設置する魔法陣を増やした時に確認は必要になるだろうけれど、ある程度何回か繰り返していくうちに限界量も分かって来るのではないかと考えている。

 

 魔法陣を設置することで期待できるのは歪みの回収効率が上がることだけれど、その上で何が起こるかは今のところやってみないと分からない。

 恐らく回収した歪みから変換されてできる魔力が増えて魔石の作成量が増えるのではと期待しているが、それも想像の範疇でしかない。

 回収できる魔力が増えることによるデメリットが発生する可能性もあるかも知れないけれど、そこは今のところ考えていない。

 そもそも魔力が増え過ぎで困ったことがこれまでなかったので、何が起こるか全く想像できない。それに、何も起こらないかもしれないし。

 

 魔法陣の設置に関しては、基本的にアイにお任せになる。

 ただし世界樹の様子を見ながらの設置になるので、そこはきちんと俺自身が確認しなければならない。

 そのためしばらくの間はホームに頻繁に帰って来ることになってしまうが、これは仕方ないだろう。

 お陰で、しばらくの間ダンジョンへの長期遠征ができなくなってしまった。

 

 ただし長期遠征ができなくなるのは俺だけで、他のメンバーには行ってもらっても構わないつもりでいる。

 折角『朝霧の梟』の面々に来てもらっているのだから、慣れているメンバーと一緒に長期遠征に行くのもありだろう。

 どうせだったら、俺がいない場合を踏まえての連携を鍛えてもらおう。

 カールがいればその辺りも考えて動いてくれるはずだと期待している。

 

 魔法陣に関する諸々の話を終えた後は、宴会へと突入した。

 一応酒類は用意されているが、眷属たちが酔うことはないのでそこまではっちゃけた内容にはいつもならない。

 とはいえ羽目を外すという意味では楽しそうにしているので、宴会を止めるという選択肢はない。

 なによりも、その雰囲気を楽しむのが大切だと考えているので。

 

 宴会を終えた翌日は、地脈を扱うための訓練を行った。

 普段からちょくちょくやってはいたが、本格的な訓練は久しぶりになる。

 普段の訓練は魔力操作を行いながら地脈を探っていくことなので周囲に気付かれずに行えることが利点だが、そこまで本格的というわけではない。

 わざわざメンバーと離れて個人訓練をすることにしたのは、見られたくないからというのもあるけれど周囲に気を使わなくても済むからということが大きい。

 

 ホームから少し離れた場所に移動したのは、何が起こってもいいようにという配慮もある。

 この辺りは冬の植物が反映しているところなので、動植物にもあまり影響がないということで選んでいる。

 地脈も適度な太さがあって、訓練するにはもってこいの場所だったのだ。

 周辺の土地が多少痛んだとしても、冬の植物の繁殖力はかなり強いのでどうにかなるだろうという目論見もある。

 

 周辺では幾人かの眷属が様子を見ているけれど、それは気にすることはしなかった。

 訓練では何が起こるか分からないのだけれど、眷属たちがどうにかなるような被害があった場合は、自分自身もろくなことにはなっていないだろう。

 それにそこそこの距離は取ってもらっているのと、外部から魔物などの余計な邪魔が入ることを防止してもらっている意味もある。

 それがあるからこそ、こちらも安心して不安定な訓練に挑めるというわけだ。

 

 ――いつものように地脈と繋がってから、その力をある程度のところまで引っ張り上げる。

 ここまではいつもやっている訓練と変わらない。

 いつもであればここでいくらか体内に取り込んで循環させたりしているのだけれど、今回はそれをせずに表に出してそれを何らかの魔法を行使する。

 それができるようになれば自らの魔力を使わずに、魔法という現象を起こすことができるようになる。

 

 ……と口で言うのは簡単だが、地脈から吸い上げた魔力を実際の魔法として行使するというのが難しい。

 地脈の魔力は体内にある魔力とはどこかが違っているようで、何かしらの変化を起こさなければならない。

 その変化をどのように起こすのか、というのが今回の訓練の肝となる。




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m(__)m

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