閑話10 二人の会話

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 < Side:第三者(神視点?) >

 

 プレイヤーが集う広場。

 その中央には大きな公園が置かれており、そのすぐ横にはひときわ大きな建物が建っている。

 プレイヤーたちが『デパート』と呼んでいるその建物には、その名前の通りに様々な店舗が入っている。

 ただし広場にあるデパートには、プレイヤーたちが元居た世界にあるデパートとは少し違っているところがある。

 それが何かといえば、個人店舗が多いのとこの世界のとある特徴により小さなスペースで開かれている店が多いということだ。

 これはプレイヤー同士がほぼ顔見知りになっていて、口頭での注文がほとんどで終わってしまい展示スペースが少なくても住むからという理由による。

 勿論服飾系などのプレイヤーの中には独自にデザインした服を展示スペースに置いていたりはするのだが、その数はそこまで多くはない。

 展示スペースに置かれている物に関しては、たまにはウィンドウショッピングを楽しみたいという声に応える形で置かれている場合も少なくない。

 

 そんなデパートの二階の一角に、鍛冶プレイヤーの一人であるハルの店がある。

 現在プレイヤー間のやり取りはほぼオーダーメイドになっているため店に出ている装備品のほとんどは、デザインを見せるためのディスプレイと化している状態だった。

 現物として飾られている商品のほとんどは何の変哲もない鉄で打っただけのもので、ほとんどのプレイヤーが高品質の装備を付けている現在はそれらが実用品として売れることはほとんどない。

 ごくまれに弟子用としてか気まぐれで買うプレイヤーが出て来るくらいで、滅多に売れることがあるくらいだ。

 

 そんなハルの店に、一人のプレイヤーが訪ねていた。

 何かの装備を買いに来たというわけではなく、たまにやっている雑談をするためだ。

「よう、ハル。茶はあるか?」

「あのなあ、ラッシュ。ここは喫茶店ではないと何度も言っているだろうが」

「そうだったか? まあ、いいじゃないか」

 お小言を流していつも通りに飲み物を要求したラッシュに、ハルはぶつくさと文句を言いつつもいつものように飲み物を用意して差し出していた。

 何だかんだ言いながらも、店で話をする相手がいることが嬉しいのだ。

 

 ラッシュが来店してから二人はしばらく取り留めもない雑談をしていたが、ふとラッシュが思い出したように聞いてた。

「そういえば、ハルは『地脈の解放に関するメモ』は見ないのか?」

「そう聞いて来るってことは、ラッシュは見たのか」

「まあな。意地を張り続けていても良かったんだが、どうも掲示板の反応を見ている限りでは無理臭かったからな」

「キラの初登場時に匹敵するときくらいの騒ぎになっているからなあ……」

「ああ。言い得て妙だな。騒ぎの大きさ的にも似たようなものか」

 訳の分からない状況に置かれて初めて新しい世界に転生したのが人外なのはいいとして、まともに動けない植物だったというインパクトはかなり大きかった。

 ついでにチュートリアルと称した異世界に慣れさせるための期間が、最大だったこともそれに拍車をかけていた。

 今回の地脈に関する話題も、その時と同じように騒がれているのだ。

 

「――騒ぎの大きさが難しさに比例していることは分かるが、そこまでだったか?」

「そこまでだったな。メモ帳を見なければ絶対に気付けなかったぞ、あれは」

「……そこまでか。ヒントだけでも聞いていいか?」

「それは構わないが、いいのか?」

「別に意地を張り続けるつもりはなかったからな。それに、他人から直接言葉で聞いてみるのも面白いかと思ってな」

「そういうことか。それなら言うが……加減が難しいな」

「お前が良いと思ったらそれでいいぞ?」

「それは有難いが、ヒントを言うと……いや、いいか。初期の五人の中にハーズがいたのは分かるか? 霊体の」

「ああ。あいつか。確かにいたな。……そういや、それっぽいこと言っていたな。あいつがヒントか?」

「そういうことだ。キラは少し特殊過ぎてな」

「それはそうだろうな」


 何をどう納得したのか、ハルは一度頷いてからしばらく考え込むような表情になっていた。

 だが、やがて首を左右に激しく振った。

 

「――駄目だな。その線でも何度か考えてはみたんだが、やっぱりさっぱり分からないぞ」

「仕方ないな。これを言うとヒントじゃなくなるんだが、ハーズの種族はなんだ?」

「それはお前、さっき言って……いや、まさか。そういうことか!?」

「恐らくそうだ。――どうだ? 分かるわけがないと叫びたくなるのも分かるだろう?」


 どうにか地脈に触れる際に霊体になっていることが条件だと辺りを付けたハルに、ラッシュが少し揶揄い気味に言っていた。

 そして(初めて)地脈に触れるために何故霊体にならなくてはならないのかと少し理不尽に思ったハルだったが、すぐに別の疑問がわいてきた。


「初期の五人は良く気付いたもんだな。特にキラの奴は何故気付けたんだ?」

「ああ。なんでも何度か試しているうちに、世界樹に移ってからやってみることを試してみたと言っていたぞ。世界樹に移るということは魂の状態になることらしいな」

「そういうことか。あいつらしいといえばあいつらしいが……言われてみれば確かに聖職者系もそっち方面に優れていたか」

「だな。修行の一環として幽体離脱をしているところもあるらしいからな。そこから思いついたそうだ」

「普通にやっているだけだと絶対に気付かないだろうな、この条件は。他のサーバーはどうクリアしているんだか」

「さあな。そもそもSF系なんかもあるはずだから、考えても仕方ないんじゃないか?」


 ラッシュの半ば突き放したような物言いに、ハルも「それもそうか」と肩をすくめていた。

 正直なところどのプレイヤーも既に長い月日が経っていて、他のサーバーのことについてはほとんど考えなくなってきている。

 それの一番の原因は直接の交流がないからということに尽きるのだが、他のサーバー気にしている余裕がないということもあるだろう。

 今この段階で運営が「他サーバーとの交流をできるようにします」と言ったところで、恐らく何のためにと思うプレイヤーのほうが多いはずだ。

 

 現に二人が他のサーバーについて考えを巡らせたのは、この短い会話だけだった。

「それもそうか。それはともかくラッシュ。お前、幽体離脱なんて出来るのか?」

「出来るわけがないだろう。あのメモ帳を見たほとんどの奴らはそこで苦労しているはずだぞ」

「だろうな。そりゃ、阿鼻叫喚になるわけだ。俺も今から修行もどきをしなきゃならんのか」

「それなんだが、やはりというかなんというか、魔力操作の訓練が必須らしいな。なんでも魔力操作が上手くなると幽体への分離がスムーズにできるようになるらしい。生殖系からのアドバイスだ」

「ここでも魔力操作か。何が何でもそれだけは上手くなってほしいらしいな、運営は」

「ここまで来ると、仕込みというよりも何かの意図があると言っているようなもんだからな。あとは二周目以降の問題もあっただろう」

「転生しても魔力操作のやり方は変わらない、だったか。これも確かキラがきっかけを見つけたんだよな」

「まあな。魔法がある世界だからなのかは分からないが、運営が魔力操作を重視していることだけは間違いないんだろう」


 どんな職業、どんな生き物に転生したとしても、魔力操作そのものは変わることがない。

 魔力そのものが同じなのだから当然だろうと言われればそれまでなのだが、プレイヤーがこの世界を生きて行くために重要なことだと示している。

 魔力がある世界だからこそとラッシュが言ったのは、誇張でも何でもない単なる事実なのであった。




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m(__)m

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