(10)色々まとめる

§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§




 ノスフィン王たちとの話し合いからさらに数日後、魔法陣を発見してからちょうど二十日が経った日。

 ついにノスフィン王国による魔法陣解呪と関係者の捕縛作戦が決行された。

 結局その作戦には参加することがなかったので結果から言うと、解呪自体は問題なく行われて捕縛も六割の人材の捕縛を生きたまま捉えることができたそうだ。

 残りの四割の内、三割は捕縛作戦中の戦闘で死亡して、残りの一割は捕縛の網から逃げることができていたとのことだ。

 もっとも逃げた一割は敢えて逃がしたというのもあって、それを作戦の失敗に含めるかは微妙なところだろう。

 何故逃がしたのかといえば、逃げた関係者からこれを仕掛けた相手国にしっかりと情報が渡るようにしたということもある。

 何よりも生きて捕縛ができた実行犯の中に、今回の計画を主導していた人物も含まれているので計画としては大成功といってもいいだろう。

 相手もこれほどまでに完璧に抑えられるとは考えていなかったようだと、報告役になっていたオーラルから話を聞くことができた。

 

 魔法陣の処理に関しては完全にお任せ状態だったので、わざわざ報告をしてくれただけでもありがたいと思う。

 報告に来てくれたオーラルには、丁寧にお礼を言って送り出した。

 それよりも俺たちにとって問題だったのは、地脈に乗って集まった歪みがどうなったのかということだ。

 これも結論から言ってしまうと、特に大きな問題を起こすことなく一部は守護獣に処理されてほとんどの歪みは自然消滅して日常に戻っていた。

 

「――要するに、歪みが地脈に乗ったとしても特に問題はないということでしょうか」

 結果をまとめていたアイリが、首を傾げながらそう言ってきた。

「どうだろうね。そもそもあの魔法陣が無かったとしても日常的に歪みが地脈に乗るなんてことはあるのかもしれないね。大量に集まるかは別にして」

「そういうことですか。あの魔法と同じように歪みの収集を加速しただけで、あとは普段と同じということですわね」

「そうそう。魔法陣が正規の手続きに乗って解呪されたから、歪みの回収も収まって普段通りに戻ったと。集まり過ぎた分は守護獣が処理して終わった――という感じじゃないかな」

「終わってみればなんともあっけない幕切れですわ」

「まあね。ただあっけなく終わらなかったらここに住んでいる人たちに対する影響が大きすぎるから、むしろ良かったと思うべきじゃないかな」

「確かに。それもそうですわ」

 何事もなく日常に戻ったということは魔法陣が発動せずに終わったということであり、それはヘディンに住む住人達にとっては無事に当たり前の日常を取り戻したということになる。

 

 集まった歪みの影響がほとんどなかったことはいいとして、今気にしていることは別にある。

「ヘディンの問題はこれでいいとして、少しやってみたいことができたかな」

「やってみたいこと? 魔法陣関係で?」

 そう聞いてきたアンネリに頷き返した。

「そう。ちょっとした逆転の発想なんだけれどね。折角地脈を使えば効率的に歪みが集められると分かったんだから、利用できないかなってね」

「あの魔法陣を使って歪みを世界樹の下に集めるおつもりですか!?」

「同じ魔法陣は使わないよ。ただ何かしらの作用で歪みを地脈に流せることが分かったからね。それを使えないかなと考えてみたんだ」

 俺の言葉に、アイリが黙って考え込んでしまった。

 そもそも巫女が歪みの処理を行うということは自然処理とは別に世界樹に送っているということで、魔法陣を使って送っても同じではないかと考えたのである。

 

 世界樹自体も歪みの処理できる量に限界があることは分かっているので無茶はできないが、現段階ではまだまだ余裕があることは分かっている。

 それならば機械的に集めてしまっても問題ないと思う。

 機械的な処理をするための魔法陣は今回使われたものを参考にすれば、どうにかできるはずだ。

 ――というよりも、すでに研究開発するようにアイに頼んである。

 

「魔法陣を使って歪みを集めるのは理解しましたが、それだけが目的でしょうか?」

「お。アイリ、鋭い。勿論それだけじゃないよ。地脈を使った場合にどれくらい効率が上がるのかとか、今まで以上に歪みを集めた場合どうなるのかとか、色々と分かることもあると考えているかな」

「……ふう。本当に、色々と考えるのですわね」

「それが俺の役目みたいなところがあるからねえ。勿論眷属たちも俺が思いつかないようなことを進言してくれているけれど」

 ちらりとこちらを見てきたシルクの視線を気にして、少しばかり言葉を付け加えた。

 それが正解だったのか、シルクは無言のまま少しだけ口元を緩めて一度だけ頷いていた。

「まあ、歪み関係が俺の管轄なのは間違いないか。そもそも眷属たちは歪みを見ることができないし」

「そうなのですか!?」

「あれ、言ってなかったっけ? いないわけじゃないけれど巫女的な素養を持っていないと歪みは見ることは出来ないよ」


 少なくとも常に俺の傍にいる第一世代の眷属たちは、歪みを視ることは出来ない。

 これまでそれで全く問題なかったのでごく当たり前に言ったのだが、アイリにとってはそれが驚きだったようだ。

 いや。アイリだけではなく、アンネリも同じように驚いていた。

 どうやら二人とも眷属たちは当たり前のように歪みが見えていると考えていたらしい。

 

「て、てっきり眷属の皆さまは見えていらっしゃるのかと思っておりましたわ」

「眷属は世界樹を守ることが仕事であって歪みを集めることじゃないからなあ……。これまで不自由したことがないから特に問題はないんじゃないかな?」

「そうなんですか……」

「うん? なんでそこでアイリががっかりするんだ? 歪みを集めること自体は世界樹にとっても重要なことだから落ち込む必要はないと思うよ? というか必要ないのであれば、そもそも巫女なんて存在作っていないし」

「巫女を……作る?」

「あれ? そこから? 作ると言うとちょっと語弊があるけれどね。そもそも初代のユリアだって元から巫女だったわけじゃないよ?」

「初代様のことについては……半ば伝説化しておりますわ」

「あら。そうなんだ。ちゃんと記録には残っているのにねえ。やっぱり年月が経つと信じられないと思われるようになるものかね」

 人族にとっての時の流れはそんなものかと、半ば無理やりに納得することにした。

 

 それはともかくごく当たり前のように過去のことを話しているが、アンネリやアイリはすでに当然のこととして受け止めるようになっている。

 元々既に消えたと言われている世界樹の精霊と眷属たちから同じ扱いをされているので、二人にとっては今更なのかもしれない。

 そこは敢えて聞いていないけれど、聞く必要があるとも考えていない。

 敢えて言葉にしていないだけで、二人とも既に周囲にいる眷属たちの対応で色々と察してはいるはずだ。

 

 ヘディンで起こっていた問題も解決したので、これ以上長居する必要もなくなっている。

 魔法陣の研究のことも含めて、一度ホームへ戻ることにした。

 ただし今回ホームに戻るのは俺だけで、アンネリとアイリはヒノモトでダンジョン攻略でも進めてもらうつもりでいる。

 別にホームに近づいて欲しくないとかそういうことではなく、二人が来たとしても特にやってもらうことがないので暇をするだろうと考えてのことだ。

 そのことを二人に話すと納得していたが、なんとなくいつもと違う表情を浮かべていたような気がしたが、気のせいだと思い込むことにした。




§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§


是非ともフォロー&評価よろしくお願いいたします。

m(__)m

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る