(9)伝達
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ノスフィンの守護獣を通して場を用意してもらったのはいいのだけれど、初っ端の国王の行動により空気が凍り付いてしまった。
一応王の態度が改善したことから固まった空気は解けてはいるが、未だぎこちなさは残っている。
特に筆頭宮廷魔術師の視線が、あり得ないものを見たようなものになっていることが気になる。
とはいえ、最初の邪魔者を見るような視線よりははるかにましだが。
今はどちらかというと、信仰の対象そのものを見てしまったというような反応にも見える。
祈りを捧げ続けて来た神が目の前に現れると、こんな感じになるのではないかと思われるほどだ。
……実際にそんな反応をした人を見たことがあるわけではないので、あくまでも感覚的なものだけれど。
それに対してヘディン組の子爵と魔法使いは既に何かを突き抜けてしまったのか、既に平静を取り戻しているように見える。
こうなってしまうともうどうしようもないので、改めて本題に入る事に決めた。
「一応確認ですが、極秘で伝えることがあると言ったのは伝わっていますか?」
「勿論です。ですので、今回の件で関わっている者の中から少数を選んでおきました」
「あ~。そういうことですか。わかりました」
国王に悪気がないことは最初から分かっていたが、やはりちゃんとした意図が伝わっていなかったようだった。
こちらとしては国王なり守護獣に歪みのことを伝えて、何かが起こった時に対処してもらえればそれでよかったのだ。
とはいえ国という大きな組織を運営している以上は、何かが起こる前に対処しておきたいという気持ちもよくわかる。
これからは意思の疎通もしっかりと出来るようにしておかないとダメかと反省しつつ、起こってしまったことは仕方ないので守護獣を見て歪みのことを話すことにした。
「ノスフィン。彼らは歪みについてはどれくらい知っているかわかる?」
「ふむ。ほとんど知らないと考えた方がいいだろうね。さすがに存在くらいは知っているだろうけれどね」
ノスフィンは守護獣の名前だ。
全てではないけれど、シーオ(西欧諸国)の中で守護獣がいる国では、守護獣の名前がそのまま国の名前になっていることが多い。
特に、ノスフィンのように古くからある国ほどその傾向が強くなっている。
それはいいとして、今問題なのは歪みのことだ。
予想はしていたけれど、やはりあまり一般的には伝わっていないようだった。
「――シーオ諸国ではあまり歪みが重要視されているわけではないようですわね」
「アイリ、そう言ってやるな。そもそもこっちは巫女の存在が少ないはずだからある程度は仕方ない」
「そうなのですか?」
「まあ、以前と変わっていなければ、だけれどね。その辺はどうなのかな?」
「ご明察だ。一応、見える聖職者がいるにはいるが、実害がないので放置されているらしいね」
「守護獣という実在の神に頼り続けてきた結果かな」
多少の非難を込めて
歪みが人族の生活に影響を与えることがないのは事実なので、それ以上追及するつもりはなかった。
シーオは既にユグホウラの影響力からは離れているので、こちらであれこれ考える必要もない。
それよりも今は、ヘディンの生活を守るためにも歪みの動きについて伝えておく必要がある。
「――というわけで、歪みが地脈の流れに乗って例の魔法陣に集まってきていることは確かだ。今までの例を考えれば実害があるとは思えないけれど……これ以上はそちらに任せるよ」
「……なるほど。密かに伝えたいというのはそういうことだったのか」
「そういうこと。歪みが一点……今回は四点かな? 数はいいとして一か所に纏まって集まっていることだけは確かだ。あとは管理をすべき君がどうするかを決めることだろうね」
「それはそうだが……私にもよくわからないのだがね?」
「こっちに答えを期待しても無駄だよ。初めての事態なのはこちらも同じだからね。そういう意味では高みの見物をさせてもらうよ」
ヘディンを守るために動いているのはあくまでもクランという存在があるからで、それ以上のことは働くつもりはない。
というか、ノスフィンに言ったとおりに、ユグホウラにとっても初めての事態で結果がどうなるかは分からない。
となるとこの辺りの地域を魔力的に支配しているノスフィンがどうにかするしかない。
そもそも集まった歪みが現実に物理的な被害をもたらすのかどうかも分かっていないので、これ以上の助言もしようがない。
ノスフィンがヘディンなど知らないと言ったところで、こちらとしてはどうこうする気もない。
「四か所につくられている魔法陣もそうだけれど、歪みもノスフィンが対処すべき問題だからね。頑張ってとしか言いようがないかな」
「やれやれ。随分と冷たいな」
「何を当たり前のことを。ユグホウラからの独立を望んだのはそちらなんだから苦情は受け付けないよ」
「だそうだよ、ヴィー。歪みのことはともかくとして、魔法陣は国でどうにかするんだね」
「もとよりそのつもりですので、全く問題ございません。……むしろ関与したいと言って来るもかとも考えていたのですが……」
「それはないので、安心してください。私たちが興味を持っているのは魔法陣ではなく、歪みの方ですので。国としても対処できないような問題ではなさそうなので、変に口を出すつもりはありませんよ」
「それを聞いて安心いたしました。筆頭。それで問題ないな?」
国王からの問いに筆頭宮廷魔術師は「ハッ!」と答えていたが、それでもこちらが気になるのかチラチラと見ていた。
その視線はどちらかといえば関与してほしいと言っているようにも見えたが、気付かない振りをしておいた。
「こちらから伝えたかったのは以上になりますが、他に聞きたいことはありますか?」
「聞きたいことならば色々とあるが、今回の件に限ってとなるとな。あなたの態度で我が国がやっていることも間違っていないと確信できているので、特にはないな。……言っておくがこの方に対する個人的な問いはなしだからな」
国王が最後に言った言葉は、俺たちに対してではなくこの場にいる関係者に対してへの釘刺しだった。
これによって何かを聞きたそうにしていた筆頭宮廷魔術師が開いた口を閉じていたことは、しっかりと確認することが出来た。
まあ、個人的なことを聞かれたとしても答えるつもりはなかったけれどね。
さすがに国王から直接止められて、この場で確認するようなことはするつもりはないように見える。
俺たちにとっての面倒事は個人情報を詮索されることなので、国王が止めてくれている限りは大丈夫……だと思いたい。
時に忠実な配下というのは、「主のために」ということを言い訳にして余計なことをすることもあるので油断はできないが。
もっとも知られたら知られたで、だからどうしたという気持ちもある。
むしろ余計なことを知って肝を冷やす思いをするのは相手側になるはずなので、止めても無駄だという考え方もある。
どちらにしてもこの場にいる者たちの余計な行動を止めるのは国王の仕事なので、こちらからどうこうするつもりは今のところはない。
本来の目的である歪みの動きについては守護獣に伝えたので、既に彼らへの要件はなくなっている。
あとは彼ら自身がヘディンに向けられた悪意に対処すべきことなので、これ以上余計なことをするつもりはない。
一応歪みについての調査は続けるつもりなので、新しいことが分かれば伝えることもあるかもしれないけれど。
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※お正月の三が日は更新をお休みさせていただきます。
次話の更新は1/4~になります。
是非ともフォロー&評価よろしくお願いいたします。
m(__)m
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