(7)魔法陣の出来

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 ヘディン周辺に仕掛けられた魔法の調査に行っていたアイが返って来てから状況を確認すると、非常に端的な答えが返ってきた。

「大した事、なかった」

「ええっと……? それは技術的にということ?」

「そう。規模が大きいだけで、既存の魔法(魔法陣)の組み合わせでしかない。珍しいのは呪いが使われているくらい。あとは術の向いている方向がダンジョンに向かっているくらいで」

「ううーん。そうなってくると、ちょっと話が変わって来るなあ……」

 歪みの調査で分かったことを合わせて考えると、少しばかり整合性の取れない事実がある。

 それを知らせるために、首を傾げているアイに歪みと地脈のことについて話すと考え込むような仕草をした。

 地脈関係については調べていなかった……というよりも、仕掛けられている魔法の大元になっている魔法陣が既存のものの組み合わせしかなくてあまり意識していなかったそうだ。

 

「――そうなってくると少し話が変わって来る」

「そうだよねえ。今まで知られていた魔法陣の作用に隠れたものがある可能性があるってところかな」

「そう。地脈関係は全く注目されていない」

「今まで何気なく使われていた魔法陣も、もしかすると地脈の力を使っていたとか影響されていた可能性はあるね」


 普段は表情の変化に乏しいと思われているアイだったが、俺がそう言うとはっきりと表情が変わっていた。

 既存の魔法陣も新しく見直しをしなければならないと考えていることが、その表情を見ればわかった。

 全ての魔法を見直すとなるとかなりの時間がかかるはずで、どうやって調べていくかと考えているのが丸わかりだ。

 もっとも後からアンネリやアイから聞いた話によると、アイの表情の変化には全く気付いていなかったらしいが。

 

「――まあ、今後の研究はいいとして、例の仕掛けは問題なさそうかな?」

「解除自体は今まで通りで構わない。あとは手順を間違えないことと人的被害を考慮すること」

「その程度だったら王都なり子爵側で考えているだろうから、心配する必要はなさそうだね。歪みについては?」

「それは管轄外」

「それもそうか。そうなると、やっぱり守護獣に連絡を取る必要があるかな」

「歪みが集まると何か問題がある?」

「どうかな。今まで通りの魔法の組み合わせとなると影響がないと言い切ってもいいと思うけれどね。規模が規模だけに楽観視はできないような気もするね」

「組み合わせが既存のものを使っているだけで、作用や結果は新しい。それを考慮して考えないと予想外のことが起こることもあり得る」

「そうか。そもそもダンジョンに直接影響を及ぼすなんて魔法とか魔法陣なんてなかったからね。そう考えると……悩んでないでさっさと守護獣と連絡を取るか」


 アイとの会話で、すぐに守護獣と連絡を取ることを決めた。

 歪みが絡んでいる以上は、魔力的に土地を支配している守護獣と話をすることは必須となる。

 問題はノスフィン王国の守護獣がどこまで歪みについて把握をしているかだけれど、元はユグホウラの影響範囲にあったので全く知らないということはないだろう。

 歪みのことを知っているのと知らないのとでは対応が変わって来るので、それだけでもやりやすいといえる。

 

 これでヘディン周辺に仕掛けられている魔法陣については政治が絡むだけに王都に任せることは決定していたが、歪みについても守護獣に話すことも決まった。

 なんだが全て他人任せにしていると思わなくもないが、こればかりは仕方ないだろう。

 こちらから首を突っ込むと余計に厄介なことになりかねないので、情報を与えるだけで終わらせておくのは変わりない。

 それに、歪みについての調査は今後も続ける予定なので、すぐにヘディンを離れるということにはならない。

 

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 < Side:オーラル >

 

 例の冒険者と会って以降、色々と忙しく動かざるを得ない日々を過ごしておる。

 ヘディンを取り巻く魔法についてはすぐに他国の関与が疑われることとなったため、王都主導で分析が進められておる。

 もっともいきなり王都から人が大量に来れば相手に疑われること間違いないので、現地におる儂たちが気付かれないように調査を進めていた。

 儂はその調査隊の隊長に子爵より任命されて、日々上がって来る報告を王都に知らせるという役目を担っておる。

 部下から上がって来る報告を見ていれば、仕掛けられた魔法陣に込められた魔法がどんなものかもわかってきている。

 

 とはいえ今回の魔法に対してどう対処するかは王都が決めることになっておるので、儂が口を挟むことはしない。

 ヘディンが王国にとって重要な要所であることには違いなく、簡単に切り捨てるような対応をすることはないだろう。

 その辺りのことについては子爵様が対応なさっておるので、一部下である儂が口を挟むようなことではない。

 もっとも今回に限って言えば他国の関与もあり、政治的にややこしいことにはなっていないようだが。

 

 他国の関与が疑われているのに、それに付け込んで政治闘争する愚かな者はいない……わけではないが、今回は時間が肝心だと皆が分かっているのであろう。

 ヘディンダンジョンが我が国にとって重要な場所であることは、貴族にとっては周知の事実であるからな。

 だからこそ虎視眈々と権利を狙って普段から蠢いているわけだが、さすがに他国の工作に便乗するつもりはないといったところか。

 出来ることなら普段からそうしていると貴族同士の争いも穏やかに済むはずなのだが、さすがにそれは望みすぎというべきなのであろうな。

 

 そんなことを考えつつ名乗りながら子爵様の執務室のドアをノックすると、すぐに中から答えが来た。

「入れ」

「失礼いたします」

「ああ、ご苦労。それでどうだ?」

「特にこれといって目新しいことは見つかっておりませぬ。逆にいえば、特に複雑な造りもしておらず分かりやすいとも言えますか」

「ふむ……少々意外だったな」

「どうやら『隠す』ことに特化させているようで、露見してしまうことを考えずに作られているように見えますな」

「そういうことか。我らも彼の冒険者から忠告を貰えなければ気付けなかったのであろうな」


 子爵様に話した通り、町の周囲に置かれている魔法陣は一つを除けば特に目新しいものはないように見えた。

 その一つが問題だといえば問題なのだが、すでに見つけてしまっている以上はすでにその問題もクリアしているといえる。

 むしろあの冒険者がよくぞ事前に見つけてくれたと言わざるを得ないのだが、正直をいえば変に探りを入れるとどうなるか分からないのでできる限り気にしないようにしている。

 幸いなことに子爵様からも無茶な命令は来ておらず、むしろ下手に手を出すなといわれる始末だ。

 子爵様と例の冒険者の間に何があったのかは知らぬが、何かしらの約束のようなものがあるのではないだろうかと考えている。

 

 いずれにしても今は対処すべき問題が目の前にあるのでそちらが優先……ではあるのだが、王都からの連絡がない限りはこちらも勝手に動くわけには行かない。

 見た感じでは仕掛けられている四つの魔法陣の解呪自体はすぐにできそうなので、仕掛けるべきタイミングを図っていると見るべきだろう。

 恐らく『結果』を見守っている部隊がいるはずなので、それらの捕縛部隊の配置に手間取っているとかそんなところだろう。

 魔法陣の発動自体もまだもう少し余裕があるので、こちらもまだ余裕を持って見ていられる。

 

 ――そんなことを考えていた自分自身を殴りたくなってくる事が起こるなど、この時の儂は全く考えていなかった。




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m(__)m

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