(6)歪みへの影響

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 調査初日から問題点が見つかったので、それに対処すべくギルドで適当な依頼を受けてから調査を再開することになった。

 正直、そこまで問題を起こしている相手に気を遣う必要があるのかと思わなくもないけれど、子爵家の邪魔をするわけにもいかないので仕方ない。

 権力には近づきたくはないが、自分たちは好きなことを好きなようにやるでは無責任すぎると思うので、それくらいの手間はかける必要はある。

 もともとそんなこと知ったこっちゃねー、と言えるくらいの性格であれば気にもしないのだろうけれど、残念ながら気にしてしまう性格なので避けることもしない。

 というわけで帰りの道中に翌日ギルドに行こうと話していたのはいいけれど、拠点に戻ると少し予想外の人物が待ち受けていた。

「――あれ? アイ? どうしたの?」

 眷属のアイは旅には同行していないが、時折事前連絡をくれたうえで装備品やら消耗品を持ってくることはある。

 しかし今回の訪問は事前に聞いていなかったので、少し驚いてしまった。

 

 前回来てからそこまで日が経っていないのに現れたアイは、聞けば納得できる回答をくれた。

「町に珍しい魔法が仕掛けられたと聞いたから来た」

「ああ、なるほど」

 どうやらヘディンに仕掛けられている悪意のある魔法が珍しいので、その調査のためにやってきたようだ。

 

 様々な道具や施設を作っている人形ドール種のトップだけに、今回使われている魔法が気になるのだろう。

「調査するのはいいんだけれど、相手に見つからないようにしてね」

「分かってる。いざとなったら人形のフリをすればいい」

 基本的に人形種は戦闘種ではないが、アイほど突き抜けると戦闘種といっても過言ではないのでそちら方面では心配する必要はない。

 ただし、やり過ぎる可能性はあるのでそのことをし指摘すると、微妙に心配になるような答えが返ってきた。

「……本当に大丈夫?」

「ただの冗談。最初から隠形なりを使って近づくつもりだから見つかる心配はない」

「だったら大丈夫か」

 微妙に分かりにくい冗談を貰ったのだけれど、それはスルーすることにした。

 

 普段は研究室に引きこもっているイメージのあるアイだけれど、実のところフィールドワークも大事だと主張して結構動き回っていたりする。

 もっともこの世界でのフィールドワークは、魔物を倒すための旅だったりするのだが。

 そんな感じで採取目的で色々なところに行っているアイは、魔物との戦闘を避けるために隠密系のスキルが充実しているらしい。

 いざ戦闘になれば他の第一世代の眷属と同じくらいに強いのだが、戦いは面倒と断言して避けているので、魔物としては変わり者種族だと思う。

 

 とはいえアイが興味を持ってくれたということは、例の仕掛けについてはこちらで調べる必要がなくなった。

 逆にいえば、アイが調べて分からないことはこちらで調べても分からないので、完全お任せで後から報告を聞けばいい。

 他人任せはどうかと思わなくもないが、その分歪みの調査に時間を割けるので有難くお任せしようと思う。

 アイもそのつもりがあったのかは分からないけれど、結果は後から知らせると言ってくれた。

 

 これで歪みの調査に時間を使えることになったので、改めてギルドで適当な依頼を受けておく。

 カモフラージュのための依頼ではあるけれど、未達成にするつもりはないので適当に処理……をするつもりでいたが、サクッと眷属が片付けてくれた。

 ちなみに常に同行しているラックたちではなく、この辺りの魔物の出現調査をしている〇世代の眷属がやってくれた。

 魔物の出現調査といっても一気にそこまで大きく変わることは珍しく、ほとんど開店休業状態らしいので喜んで討伐依頼に必要な魔石と部位を集めてくれている。

 

 そんな万全の状態なので、こちらは心置きなく歪みの調査を行うことができていた。

 そして調査を開始してから四日ほどが経った。

「――うん。例の魔法と歪みの関係が地脈に関係しているのはほぼ間違いないかな?」

「そうですわね。正確には出現した歪みが、地脈に乗って魔法に喰われているというべきでしょうか」

「私としてはアイリに地脈が感じ取れているほうが驚きだったのだけれど」

「そう驚くことではありませんわ。そもそも巫女としての修行に、地脈の力を感じ取るというものがありますから。勿論、巫女全員ができるわけではありませんが」

 今回の調査で判明したのだけれど、アイリは地脈の力を感じ取ることができるそうだ。

 残念ながら俺のように正確に『視える』わけではないらしいが、ある程度は分かるそうだ。

 それだけでも巫女としてかなり評価される能力であるだけに、アイリが本当に意味でエリート街道を進んでいたことが分かる。

 

 そんなアイリの評価はともかくとして、今は歪みの現象の方が重要だ。

 歪みが何らかの方法で地脈の流れに沿って例の魔法に喰われているのは話に出ているのは間違いない。

 とはいえこの魔法を仕掛けた相手側が、歪みを意識してそういう仕掛けを作ったわけではないだろう。

 アイの調査によって現段階で分かっていることは、例の仕掛けが周辺から魔力を集めるようになっているということだ。

 その対象のほとんどはヘディンの町に住む就任に向けられているようで、毎日毎日ほんの僅かな量の魔力を人族から奪っているらしい。

 奪われる側も表現としては血の一滴を取られているという感じなので、全く気付かないまま日常を過ごしているというわけだ。

 そんな性質があることから歪みもそれに巻き込まれているだけで、恐らくこの仕掛けを作った側はそんなことが起こっているとは考えてもいないはずだ。

 

 そもそもシーオにおいては、ヒノモトほどに歪みの存在が知られているわけではない。

 歪みを扱っている巫女という存在が一般的なヒノモトにおいても一般的に知られているわけではないので、今回の魔法を作った者が意識して歪みを取り込むようにしたとは思えない。

歪みを取り込むようになっているとはいえ、それが魔法に何らかの影響を与えているかどうかは分かっていない。

「――これは予想だけれど、全く関係なく吸い込まれていると考えたほうがいいんだろうな」

「それは何故ですの?」

「そもそも歪みは魔法や自然現象に影響が与えていないというのが定説だから。魔法に取り込まれたとしても、影響を及ぼすとは思えない。あるとすれば、魔法が解除されたり発動した後だろうなあ……」

 今のところ何も起こっていないが、一か所に集められた歪みが今後どんなことになるかは不明だ。

 もしかすると大量に集められたことによって、何かしらの悪影響を周辺に及ぼす可能性もないわけではない。

 

 これに関してはこちらができることは何もない――というよりも出来るとすれば一つの存在しかないと思わざるを得ない。

「やっぱり王国の守護獣には連絡をしておいた方がいいだろうな」

「でもそうすると一気に消されてしまう可能性もあるわよ?」

 守護獣に知らせるのは必須だとしても、知らせてしまうとアンネリの言うとおりに一気に物事が動いてしまう可能性が高い。

 一言でいえば、守護獣が動いて折角色々観察できる機会を潰されてしまうかもしれない。

 とはいえこのまま知らせないで黙っておくと、後で何をされる(言われる?)か分かったものではない。

 

 それが分かっただけでも今回は良しとするしかないだろう。

 あとは魔法の仕掛けを調査しているアイがどうするかだが、それこそ守護獣と直接やりとりしてもらった方がいいかも知れない。

 というわけで、これまでの調査結果を引っ提げてこれからどうするべきかを決めるためにアイと話をすることに決めた。




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是非ともフォロー&評価よろしくお願いいたします。

m(__)m

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