(5)調査開始とその前の細々としたこと

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 ヘディンに残ることを決めたのはいいとして、クランメンバーのマキムクへの派遣を止めたわけではない。

 とりあえず『朝霧の梟』と『夜狼』のどちらかを送ってから戻って来ればいいだけだ。

「というわけで、どっちが先に行きたいか、決めた?」

 転移装置を設置した目的がマキムクへの派遣ということは話すと同時に、どちらが先に行くか決めておくように打診はしておいた。

 ――のはいいのだけれど、両パーティのリーダーが顔を見合わせてから何とも言えない表情になっていた。

「いや。済まない」

「話を貰ってから幾度か話し合ったのはいいが、中々決められなくてな」

 ……つまりは、どちらも先に行きたがって決着がつかなかったと。

 

 両者合わせて喧々諤々に話し合ったのが目に見えるようで思わずため息を吐いてしまったが、決められなかったものは仕方ない。

 こんなことで時間をかけるのももったいないので、さっさとこっちで決めることにした。

 一応、こちらで決めると言ったらすぐに同意してきたので問題はない。

 そもそも俺がクランのお飾りトップをやっているのは、こういう時のためなのだから。

 

 ごり押しというよりもお願いという形で決めたのは、『朝霧の梟』だった。

 あまり強い理由ではないのだけれど、決め手になったのは最初に関わったのが『朝霧の梟』だったからというだけのことだ。

 実力的には今でも『朝霧の梟』の方が上ではあるのだけれど、そこまで差があるわけではないと事務員代わりの眷属から聞いている。

 どっちを選んでも変わらないのであれば、先に知り合ったほうが優先順位を上にした。

 

 『朝霧の梟』と『夜狼』のメンバーも俺が決めたことならと、特に理由を聞いて来るようなこともなかった。

 後からアンネリやアイリから聞かれたが、そんなものかと納得していた。

 それはともかく、無事に派遣するパーティが決まったので、次の日には転移装置を使ってマキムクに向かうことになった。

 本来であれば遠方に向かうために色々と準備が必要になるのだけれど、今回は向かう先に拠点もあるので身の回りにものを用意するだけで十分だ。

 

 そのことを伝えると商人の護衛などで遠方に向かうこともある冒険者だけあって、すぐに用意はできていた。

 消耗品やなんかもあちらで買えばいいので、旅をするという感覚はほとんどないはずだ。

 そうしたことを言い含めてある程度用意すべきものを伝えると、こんなに身軽でいいのかと首を傾げていたのだけれど。

 

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 マキムクへの転移は、当たり前ではあるが一瞬で終わった。

 転移装置を使うのは初めてだろうが、ダンジョン内には転移の罠もあったりするのでそこまで大きな戸惑いのようなものも無かったようだ。

 もしかすると転移酔いのようなものが出るかもと警戒はしていたのだけれど、それすらも起きた様子はなかった。

 

『朝霧の梟』のメンバーは、久しぶりに会った子供たちに感激していた。

 これからダンジョンで一緒に探索することになるはずなので、できる限り仲良くやってもらいたいところだ。

 もっとも『朝霧の梟』は、サポーターの使い方については慣れているはずなのでそこまで心配はしていない。

 これまでの期間で子供たちに教えたことが多々あるのでもしかすると齟齬が出るかもしれないが、その辺りは上手くやってくれると期待している。

 

 マキムクですべきことは事前にハロルドに伝えているので、問題はないだろう。

 俺もヘディンに戻るつもりでいるけれど、ちょくちょく様子を見に来る予定ではいるし。

 というわけであとのことは大人組に任せることにして、俺自身はヘディンへと戻った。

 戻った時には誰もいなかったが、すでに二度目の使用ということで慣れてしまったのだろう。

 

 転移装置に関しては、クランの残りのメンバーにいつ報告するのかという問題が残っている。

 転移装置自体が拠点にある以上はいつまでも秘密に出来るわけではないし、何度も出入りしていればいづれ気付く者も出て来るだろう。

 そうなる前に情報開示をしていかなければならないのだけれど、タイミングは重要になってくる。

 出来ることなら今回の件で子爵との繋がりが強くなって転移装置について認めてもらった段階でと考えているが、どうなるかは今のところ分からない。

 

 転移装置の存在を子爵に認めてもらうことは既に既定路線になっているが、そうすると問題になるのが周囲に存在が知られた時の場合だ。

 当たり前だが転移装置を使えるのはクランメンバーだけに限るつもり……というよりも、起動できるのが俺とユグホウラの権限を持っている眷属であることに変わりはない。

 となるとごく当たり前のように利用することは出来ないわけで、いくら押しかけてこられても使うことは不可能ということになる。

 そんな状態で一々押しかけられても面倒なので、拠点の周囲には侵入者を拒むための結果を魔道具を用意して起動してある。

 

 そもそも起動することができない以上は無理やり押し入っても意味がないのだけれど、それを一々周知するのも手間になるだけだ。

 あとはそれを知った権力を持った様々な人々が来る可能性も考慮している。

 いずれにしても子爵からはユグホウラに関係した場所ということで公表してもらうつもりでいるので、その上でどこまでの人が押しかけて来るかはよく分からない。

 もしかすると子爵やこの国の国王が転移装置のことを隠し続ける選択をする可能性もあるので、杞憂になる可能性もあるのだけれど。

 

 そんなわけで『朝霧の梟』を送った翌日には、ヘディンから少し離れた場所にある問題の仕掛けがある場所……ではなく、そこからさらに二、三キロほど離れた場所をうろついていた。

 何故そんなことをしていたかといえば、ヘディンに残った目的である歪みを見つけるためだ。

 歪みは探してもまったく見つからないこともあればすぐに見つかることもあるので、根気のいる作業となる。

 とはいえそこは巫女として修行を続けていたアイリという存在がいたため、割と簡単に見つけることができた。

 

「――うーん。特に何か異常があるようには見えないかな」

「そうですね。これだけ見ても他との違いはあるように見えませんわ」

 そもそも例の仕掛けが発動してからできた歪みなのかどうかも分からないので、その前後で変化があったかどうかも確認はできない。

「出来ることならもう少し近づいてみたいところだけれど、相手に警戒される可能性があるとそう簡単にはいかないかな」

「他の冒険者だって討伐依頼で近づいているでしょうから、多少は大丈夫じゃない?」

「そうなると次は適当な依頼を見繕ってから来た方がいいかな。……最初からそうしておけばよかったか」

 今更なことを思いついて反省していたが、他の面々も思いついていなかったから同罪だろう。

 今回は周辺にある歪みがどうなっているかを確認したかっただけなので、必要なかったともいえるが。

 

 それからも他にも幾つか歪みを確認してみたが、これといって変わった現象が起こっているような歪みはなかった。

 これだけ大きな仕掛けで魔力が使われているのに変化がないとなると、少し当てが外れた気分になった。

 事前にしていた予想なら何かしらの変化があると考えていたのだけれど、早々都合よくいかないということなのだろう。

 もしかすると今回の仕掛け自体が気付かれないように様々な縛りがかけられているので、歪みに影響が出ていないという可能性はある。

 いずれにしてもこれから色々調査することによって、新しく分かって来ることも出て来る……はずだと思いたい。




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m(__)m

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