(4)それぞれの対応

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 < Side:オーラル >

 

 キラという冒険者との話し合いを終えた儂は、急ぎ足で子爵の下へと向かった。

 あの冒険者のところに向かった時には子爵が警戒している人物を見極めてやろうというつもりでいたのだが、今はそんな気分は吹き飛んでしまっている。

 彼自身のこともそうだが、そんなことよりもヘディンに向かっている悪意の方が問題だ。

 何よりもヘディン単独で解決すべき事案でもないため、子爵様には急ぎ王都に連絡を取ってもらわなくてはならない。

 今回の件はどう考えても他国の介入があると思われるので、王都に知らせる必要がある。

 王都からの結論が来る前に例の魔法が発動するとなった場合は、その前に抑えないといけないのは当然だが。

 

 速足で乱れた呼吸を落ち着けてから急ぎ繋ぎを取った子爵様と対面をした。

「――例の冒険者はいかがであった」

 あのことを知らぬ子爵様は、すぐにそのことを聞いてきた。

 国王でさえも気を使われるという冒険者だけに、子爵様がそのことを気にされるのは当然のことだと思う。

「ハッ。……一言で申せば、化け物というのがふさわしいかと」

「化け物、か。そなたが言うことだ。誇張はないのであろうな」

 子爵様は何とも微妙な顔をされたが、これに関しては嘘偽りなく自らが感じたことを話している。

 実際キラを前にしてあの魔力を見てしまったならば、儂ほどの実力者であればすぐに気づくであろう。

 自分ではどうやっても勝てる相手ではないと。

 

 そんなことよりも、今の儂には子爵様に急ぎ報告しなければならないことがある。

 キラについて悩む様子を見せる子爵様だったが、少なくともヘディンに対して悪意を見せる様子のない相手のことよりも先にしなければならないことがある。

「それよりも子爵様。例の冒険者――キラが連絡を取ってきた理由をお話いたします」

「そういえば、何か火急の用があるということだったな。どんな話だったか?」

「それは――」

 子爵様から促されて儂が見聞きしたことを全て話したが、話が進むごとに子爵様の顔色が目に見えて変わってきた。

 貴族としてはそのすぐに顔に出すところを直すべきだと思うが、この件に関しては致し方ないとも思う。

 儂でさえもキラから話を聞いた時には顔色を隠せていなかったのだから、子爵様のことを責めることは出来ない。

 それほどまでに重大事が起こっていると認識できているだけでも、さすがはヘディンを治めている武の貴族だと言えるのかもしれない。

 

 一通り話を終えても子爵様はしばらく考え込んでいた。

「――念のため確認するが、今しばらく時はあるのだな?」

「そうですな。早いと一週間。長くなるとひと月は大丈夫かと。ただし、より詳細に調べようとすれば、これを仕掛けた者が何かしらの方法で早める可能性はあります」

「決めるときには一気にか。それに……確かにこちらで一方的に動くわけには行かぬな。そなたの言う通り取り急ぎ王都に連絡を取ろう。……もしかすると守護様が動かれるかもな」

「それは……」

「考えられんことでもないであろう? ダンジョンの暴走に繋がる可能性のある事だ。守護様自ら動かれても私は不思議に思わないな」

 確かに子爵様の仰るとおり、今回の件をしれば守護様が直接動かれる可能性もあるだろう。

 それを王家が良しとするかは別問題だが、そんなことは子爵様も理解されているように見える。

 それならば、儂がここで余計なことを言う必要はない。

 

 すぐに王都へ連絡をすると子爵様がおっしゃったので、儂はその場を辞してどう対応すべきか検討に入った。

 といっても、現段階でこちらができることは少ない。

 下手に例の魔法に介入すれば、即座にこちらに露見したことが相手方にも伝わるだろう。

 そうなった場合、発動途中の魔法を無理やりに暴走させる可能性もある。

 出来ることなら、そうなる前に抑えたいというのが本音だ。

 さらにいえば、王都がこの件に関してどう判断するかによっても対応が変わって来る。

 出来ればそうした事情を鑑みて複数の対応を考えて起きたいところだが、残念ながら子爵家にはそこまでの人の余裕はない。

 ダンジョン守護の家だけに、多くの人材を持たないという欠点が出てしまったか。

 もっともそのことは王都も理解しているはずなので、これまでのことを考えればそれも踏まえて対処してくれる……はずだ。

 

 それにしても……と、幾つかの作戦を考えている合間にキラの顔が思い浮かんできた。

 見た目だけでいえば、そこまでの実力があるような人物には見えない。

 力のある者は、大体が独特の雰囲気を纏っているものなのだが、そうしたものが一切見られなかった。

 だが魔力という点に限って見れば、何をどうすればあそこまで鍛えぬくことができるのかという感じを受けた。

 

 量は勿論のこと質でさえも、これまで目にしてきた多くの魔法使いたちとは一線を画していた。

 敢えて子爵様には言わなかったが、王都の宮廷魔道士が相対しても敵うことはないであろう。

 もしかすると彼の右後ろに立っていた女性の魔法使いでさえ、それくらいの実力があると言われても疑わなかったかもしれない。

 あれほどの実力者が地に埋もれていること自体不思議ではあるが、問題は彼らが一体どうやってこの町に入ってきたかということだ。

 

 ……いや。実際のところ既に予想はついているが、このことを子爵様に報告すべきかは少し迷うところだ。

 ただ隠し続けていてもいずれはばれると思うので、王都からの報告を聞いた際にはきちんと知らせておくべきだろう。

 いずれにしても、とんでもない人物がこの町にいることだけは確かだ。

 

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 < Side:キラ >

 

 ヘディンの町に仕掛けられている魔法について知らせた後は、子爵の様子を見ながらマキムクに戻る……予定だった。

 子爵家に対しては既に諜報部隊を忍び込ませているので、どういう対処になるかは逐一報告が入っているので離れた場所にいても問題はない。

 ただこれからどうするかを話しているときに、ふと思いついたことがあってアイリを見ながら聞いた。

「ねえ、アイリ。これだけ大掛かりな仕掛けが動いているとなると、歪みはどうなると思う?」

「それは私も考えておりました。ただあまりに未知の状況過ぎて、予想が難しいですわ」

「だよね。となるとそれも含めて確認したほうがいいか。やっぱり」


 歪みについて話し始めると、『朝霧の梟』と『夜狼』の面々が首を傾げていた。

 とはいえ俺たちに色々な秘密があることは理解しているので、何も聞かずに黙ってこちらの様子を伺っていた。

 別に秘密にするつもりはないのだけれど、正直上手く説明できる現象でもないので話すかどうかは迷っている段階だ。

 

 それはいいとしてヘディンの異常に伴って歪みがどう作用しているのか、非常に気になるところだ。

 もし歪みの動きを確認するとなると、見えると分かっている俺かアイリが残って調べなくてはならなくなる。

 クファも歪みは見ることができるが、故郷に危機が迫っていると知るとどんなことをしだすか分からないので、今回は敢えて知らせないことにしている。

「さて、どうしたものか……」

「ヘディンにある歪みはできる限り確認しておきたいところですが、出来るなら人員は分けたくありませんね」

「いっそのこと私たちは残って、『朝霧の梟』と『夜狼』のどちらかだけマキムに行って貰ったら? ダンジョン探索をするだけなんだから問題ないでしょう?」

「……やっぱりそれが一番いいか。ちょっと予定とは違っているけれど、そもそも予定外のことが起こっているんだから仕方ないね」

 こんな状況に出くわす機会がそうそうあるとは思えず、こう言ってはなんだがこんなチャンスを逃すわけにはいかない。

 結局少し予定とは違っているが、しばらくの間俺たちはヘディンに残ることを決めた。




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m(__)m

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