(3)熟練魔法使い
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ヘディンの異常については、直接子爵へと連絡することにした。
とはいえ既に家とは微妙な関係になっているアンネリが直接動くことは出来ず、仕方なく諜報部隊に動いてもらうことにした。
ただし動くといっても、ヘディンだけの目に触れるようにちょっとした手紙のようなものを置いておくことにしただけだが。
それだけでこちらの目的と意図を読んでくれると期待してのことだったけれど、子爵は見事にこちらの要望通りに行動してくれた。
手紙の中には「町の安全に関わることで、密かに連絡が取りたい」といことと「信頼のできる魔法使いを密かにクラン拠点に寄こしてほしい」とだけ書いておいた。
子爵がその手紙をどこまで信用してくれたは分からないが、実際に拠点に来た魔法使いが子爵の片腕とされる人物だったことからわざわざ子爵当人に確認するまでもないだろう。
しかも拠点まで来たその魔法使い――オーラルは、こちらの要請に従って自身に軽く認識を阻害させるような魔法をかけていた。
そこまでするとは思っていなかったので多少驚いたのは、心の中にしまっておくことにする。
「これはまた。子爵様は随分と信用してくださったようですね」
「それもこれもお主からの連絡が原因だと聞いているのだがな? そして、このような世間話をするために呼びつけたわけではあるまい?」
どうもオーラル老は、ほとんど事情を知らされずに送り込まれたのか、少し白毛に変わりつつある眉を顰めながらそう言ってきた。
多少機嫌が悪そうに見えるのは、決して気のせいではないだろう。
もし俺たちがユグホウラに直接関係があるという話を聞いていなければ、彼にしてみればたかが冒険者に何故ここまで気を使うのかと考えていてもおかしくはない。
「確かに仰る通りですね。そもそもここまで『魔法使い』に来てもらったのは、書面で話をしても信用してもらえるか分からなかったからですから」
「……ふむ。まずは話を聞いてから判断しようか」
「ごもっともです。では早速ですが、あなたほどであれば遠見に相当する手段はあるはずです。それで東西南北それぞれ十キロほど離れた場所を確認してください。主に呪いに重きを置いて」
「遠見か。さて、どうしたものか」
俺が「呪い」と言ったところでオーラル老は眉を顰めていたが、すぐにどの魔法を使うかを考え始めていた。
ちなみに対面した瞬間からオーラル老はこちらをチラチラと確認していたが、決して気のせいではないはずだ。
その仕草から俺自身が纏っている魔力の質を見ているのだと分かったが、敢えてそれを止めることはしない。
魔力の質を見ることでこちらの実力を察してくれるのであれば、話が早く通じてむしろこちらにとっては有難い状況になる。
その推測が当たっているのか、オーラル老はすぐに遠くを確認するための魔法を使い始めた。
本来であれば離れた場所に魔法を行使するにはそれなり以上の腕が必要になるのだけれど、それをあっさりと実行したことでかなりの腕があることはわかる。
もっともそれがなかったとしても、こちらもオーラル老の纏う魔力を見ることである程度の実力は分かっているのだけれど。
とにかく今問題になっていることを確認してもらうために十分な腕を持っているはずだ。
こちらの実力を理解しているのか、最初の不満そうな顔はポーズだったのか、オーラル老は素直に魔法を使い始めた。
実力のある魔法使いであれば秘密の一つや二つはあって、周りに魔法を使っているところを見られるのを嫌がることも多いのだけれど、オーラル老はそういうタイプではないようだった。
あるいは最初から隠すことは諦めているのかもしれないが。
どちらにしても、こちらの要請通りに魔法を使ってくれたことは有難い。
「なっ……!? こ、これは……」
まずはじめに東側に向けて魔法を使ったオーラル老は、すぐに焦りの表情を浮かべた。
ただしその表情を見せたのは一瞬で、すぐに残りの三方向についても確認を始める。
オーラル老は最初の一つ目で状況を理解してくれたようで、残りの三つに関しては推測を確信に変えるために魔法の行使をしているように見えた。
四方向全ての確認を終えてしばらく目を瞑ったまま黙っていたオーラル老は、やがて眼を見開いてこっちをしっかりと見ながら聞いてきた。
「――いつからお気づきでしたか?」
言葉遣いに微妙に敬語が混じっているのは、敢えてそうしていることがわかった。
「大差ありませんよ。昨日こちらに着いて、昨夜のうちに子爵様に手紙でお知らせした位ですから」
「だとしても……いや。言われなければ儂では気付けなかったのは間違いあるまい。やはり儂では叶いませぬか」
「さて、それはどうでしょう。こちらもたまたま昨日遠方から移動してきたから気付けたようなものですから」
「ふむ。そういうことにしておきましょう」
何やら含むような視線を向けてきているのは、恐らくこちらの微妙な言い回しに気付いているからだと思う。
恐らくオーラル老は俺たちのことも調べたうえでここまで来ているはずなので、いつからヘディンの町にいるのかという不自然さも分かっていると思われる。
そんな違和感を全て飲み込むという視線を見せたオーラル老に、こちらはそれ以上を望むつもりはない。
そんな考えが見抜かれたのかは分からないが、オーラル老が再び口を開いてこんなことを聞いてきた。
「して、この情報をもたらしたお主たちが望むものはなんであるか?」
「正直なところ突然のことだったので、特に褒美は決めていませんでした。ただ出来ることならこれからもそれなりに便宜を図ってもらえればと存じます」
「……なるほど、便宜か。わかった。その線で主に伺いを立ててみよう。これからについては?」
「これ以上、こちらで関わるつもりはありませんよ。もしどうしても手に負えないというのであれば手を貸すのはやぶさかではありませんが、あなたがいらっしゃるのであれば対処は可能でしょう」
「そうだな。あとは政治的な問題か……」
「それこそ一介の冒険者が関わるようなことではありません」
きっぱりと言い切ると、オーラル老は何とも複雑な表情を浮かべていた。
冒険者が政治に関わるつもりはないというのは正論であり、むしろ為政者側が拒否するような案件だろう。
ただし直接対面したことで俺の実力をある程度確認できたオーラル老としては、あまり自由にされてもらっては困ると言いたいのだろう。
もっともその辺りのことは子爵から十分に言い含められているのか、特にそれ以上何かを言って来ることはなかった。
ヘディンにまとわりついている悪意に気付いた以上は、オーラル老自信も忙しくなるのでこちらに構う時間ももったいないはずだ。
ここからは時間勝負だということは理解できているのか、オーラル老はすぐにクラン拠点から出て行った。
正体を隠してくるように言った意味も理解していて、帰りもしっかりと姿隠しの魔法を使っていた。
「これでとりあえずはいいかな?」
「大丈夫なのでしょうか?」
そう聞いてきたのは、シーオのことがあまりよくわかっていないアイリだった。
「問題ないと思うよ。最後の最後まで隠しきるという目的で作られた魔法は見事だけれど、大元は大したものじゃないからね。ばれたらすぐに解除できるようなものだし」
「見つからないことが問題であって、見つかってしまうと対処は可能ということね」
俺に続いてアンネリが補足すると、アイリも納得した様子で頷いていた。
誰がこんなことを仕掛けたかなどはオーラル老に伝えたように政治的な問題なので、今のところこちらが関わるつもりはない。
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※オーラルは五十代です。
「年とって物事をよく知っている人」という意味の方で使っています。
是非ともフォロー&評価よろしくお願いいたします。
m(__)m
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