(2)ヘディンの異常

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『朝霧の梟』と『夜狼』のメンバーの驚きは、数十分も経てば静まっていた。

 今回の転移装置での移動は、その二つのパーティにしか教えていないのでそれ以上の混乱が起こることはなかった。

 転移装置を使ってここまで移動してきたのは、自分が使って安全であることを見せるためだ。

 このあとはどちらかのパーティにマキムクまで移動してもらって、そのままダンジョン攻略をしてもらうことになっている。

 これらのことは事務員代わりの眷属を通して知らせているので、既にどちらが先にマキムクに向かうかは決めてあるはずだ。

 地元密着のパーティであるだけに、他の地域にあるダンジョンの攻略についてはどちらのパーティもすぐに興味を示していた。

 別のダンジョンの攻略をするにあたっての一番の問題は長距離移動をしなければならないことで、それが転移という形で解決されるなら別ダンジョンにはいってみたかったのだろう。

 思わぬ形でそれが解決されることになったと喜んでいたという報告があった。

 

 そんなわけですぐにでもどちらかのパーティを連れてマキムクへととんぼ返り……と行きたかったのだけれど、マキムクについて数分もしないうちに厄介そうなことに気が付いた。

 いつもならそんな厄介は避けるのだけれど、さすがに多くの人に影響されそうだと思うと無視することは出来なかった。

「――エルゼ、ラナ。そろそろ落ち着いたと思うけれど、ちょっと質問いいかな?」

「取り乱しすぎてごめんなさいね。団長」

「全くだよ。あたしとしたことが」

「いや。それはまあ、予想できていたことだから別に良いんだけれどね」

 エルゼとラナは、それぞれ『朝霧の梟』と『夜狼』の魔法使いになる。

「そんなことよりも、前来た時と変わったことがあるんだけれど気付いていない?」

「さて……? いきなりそんなことを言われてもね」

 少しばかりぞんざいな言い方のラナだが、これが彼女の口調だと分かっているので何か含むことがあるわけではないことがわかる。

 逆にいえば、同じように首を傾げているエルゼと共にヘディンの状況に気が付いていないということだ。

 

 二人が本気で気が付いていないと理解できたので、今度はアイリを見ながら聞くことにした。

「アイリ、どう思う?」

「はい。私も少し前まで気づいておりませんでしたわ。ですが気付いてからは、これがヘディンの有り様なのかと思っておりました」

「あ~。始めて来たからそれは仕方ないか。でもさすがにここまで来るような都市はないと思うよ」

「そうですね。確かに、言われてみれば異常だと分かりますわ。アンネリも気付いていないようですが……」

「アンネリはね。そっち方面の訓練はしていないから仕方ないかな。エルゼとラナに聞いたのは、これが起こったのがいつなのか聞きたかったことからなんだけれど、そもそも気付いていないみたいだから仕方ないね」

 アンネリが気付いていない以上は二人に聞いても分からないかもしれないと考えての問いだったけれど、案の定、明確な答えは返ってこなかった。

 

 それはそれで仕方ないことなのでいいことなのだが、さすがにアイリと二人だけで意味不明な会話を続けても仕方ないとヘディンで起こっていることを説明することにした。

 今のヘディンは、あからさまに人の手によって魔法的な仕掛けが施されている。

 町の近くにあるダンジョンに対して悪意を持って刺激するような何かだ。

 さらに詳しいことはきちんと調査しないと分からないだろうが、恐らくダンジョンを暴走させるような仕掛けがあるはずだ。

 

 ダンジョンそのものに働きかけるということとヘディンダンジョンの規模を考えれば、そんな単純な仕掛けで事を起こせるわけではない。

 大規模な仕掛けになればなるほど周辺にいる魔法使いにすぐにばれる……はずなのだが、今のヘディンにある仕掛けは巧妙に隠されていてエルゼとラナの反応からも分かるように誰にも気づかれていないようだ。

 仕掛けの中に町に住む人々の意識の方向性をわずかに逸らすようにしたり、町そのものにある魔力をそのまま利用しているようで、気付きづらくなっているように感じる。

 これほど大掛かりな仕掛けが一個人なり小組織で作れるとは思えないが、それはこちらが考えるようなことではないだろう。

 

「――というわけで、このまま見捨てるつもりはない……んだけれど、やっぱり子爵に知らせた方がいいかな?」

「それは勿論そうなるでしょうけれど……本当にそんな仕掛けが?」

 そう聞いてきたアンネリの顔が若干青くなっているように見えるのは決して気のせいではないだろう。

 さほどヘディンに思い入れのないアンネリでさえそうなのだから、周りで話を聞いていた『朝霧の梟』と『夜狼』の面々はそれ以上に厳しい表情になっている。

「残念ながら、ね。――全く。こんな魔法を開発するくらいならもっと建設的な方向に力を入れればいいのに、と思うよ」

「人の行いとはかくも醜いものですわね」

 アイリが冷静にそんな指摘ができるのは、俺や同行してきている眷属たちと同じようにアンネリ以上にヘディンに対する思い入れが無いからだ。

「本当にね。まあこれだけ大掛かりな仕掛けだから、今後は対策もしっかりとされるだろうけれどね。それはともかく、今はこれの対処をしないといけないかな」

「だからこそ、為政者へ積極的に関わるわけですね」


 俺があまり積極的に為政者に関わる質ではないと分かっているので、アイリはすぐに子爵に結び付けたことに疑問に思っていたのだろう。

 こんな面倒な魔法が開発されてさらに発展するとなると面倒でしかないので、できる限り早めに対処することになる。

 そうなってくるとやはり子爵の力は必要になってくるわけで、貴族とは関わりたくないなんてことを言っている場合ではない。

 せっかくできた以前の繋がりはまだ残っているはずなので、今回は積極的に使わせてもらうことにした。

 

 とはいえしばらく姿を見せていなかったこちらが直接子爵の屋敷に顔を見せると、目立ち過ぎてこの仕掛けを施した相手に気付かれるかもしれない。

 というわけで、最初の接触は諜報部隊を使って密かに接触することに決めた。

 とりあえずはヘディンに俺たちが戻ってきていることと町に厄介なことが起こりかけていることを知らせるだけで十分だろう。

 あの子爵なら密かに連絡を取ったというだけで、こちらの求めることを理解してくれるはずだ。

 

 話を聞き終えて少ししてから、アンネリが確認するように聞いてきた。

「――そうなるとしばらくヘディンに滞在することになるのね?」

「予定には無かったけれど、当面はそうせざるを得ないだろうなあ……。子爵の対応次第ではあるけれど」

「町全体のことだけに、統治している貴族が動かないとどうしようもないものね」

「こっちから密かに動いてもいいんだけれどね。どうせだったら巻き込んでしまった方が良いかな」

「これだけのことをするんですもの。国家クラスだと思えば、そう考えるのも当然よね」

 子爵が動かないのであれば、このまま関係者だけを連れて逃げてしまうという考えがあることもアンネリは理解できているらしい。

 今この場でそのことを言わないのは、『朝霧の梟』と『夜狼』の面々が確実に反対することが分かっているからだ。

 彼らの町に対する思いはそれなりにあるので、ギリギリまでどうにかしようと粘るはずだ。

 

 だからこそ貴族を巻き込んでしっかりと解決するように、国レベルで動いてもらうことを前提にして考えている。

 幸いにしてヘディンを取り囲んでいる魔法的な仕掛けは、半月やそこらで起動するようなものではないことくらいはわかる。

 それならば子爵が対応できる時間もあるだろうと見込んでいたりもする。




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