(27)兵家の動き

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 < Side:兵家長介 >

 

「なんと……」

 いつものように殿に呼ばれて何を言われるのかといえば、予想外のことで思わず驚きの声を上げてしまった。

 どうやって繋がりを持とうかと苦心していたキラ殿が、マキムクの町にある拠点で人を雇いたいと打診してきたそうだ。

 まさかの向こうからの提案ではあるが、逆に何かあるのかと不安に思ってしまうわ。

「どうも我らだけではなく、津軽や藤原にも同じ提案をしているようだがな。とはいえ渡りに船とはこのことだろう」

「某もそう思います。ただ下手な者を送り込むときっぱりと切り捨てられそうですな」

「それがあるからこそ複数同時に打診したのであろう。小賢しいというべきか、慎重と捉えるべきか、判断が難しいな」

「某にはこちらを試しているというよりは、どちらでも構わないと考えているように思えますな。自ら探すよりもこちらに任せた方が良いと考えたのでしょう」

「情報の流出を抑えるためか」

「某にはそう思えます」


 ここに来ていきなり屋敷の管理をする者を用意してほしいと言って来るということは、どう考えてもそれしか思い当らない。

 その屋敷に転移装置を置くとわざわざ付け加えてくるということは、そういうことだろう。

 彼の者が転移装置を自由に設置できることについては、もはや今更としか思えない。

 ユグホウラと強い繋がりがあると分かっているのだから、そのくらいのことは出来て当たり前なのだろう。

 本音を言えばこちらで自由に使える転移装置を用意してほしいところだが、それは求めすぎというものか。

 

 こちらから求めればすぐに姿を消す妖精のようなものだと信頼のできる家臣が申しておったが、まさしくその言葉を実感している。

「……過ぎたる力を得た時にどう動くのか。真価が問われておると見るべきなのでしょうな」

「過ぎたる力か。確かに、ユグホウラはかような存在だと言えるか。折角得た新たな繋がりを断ち切るような真似をしては行かぬな」

「まさしく。――時に、求められている人材は我が家からということでよろしいのでしょうか?」

「うむ。こちらから出すと目立つことは間違いないからの。……そなたの家からでも同じであろうが」

「左様ですね。いっそのこと玉屋に任せましょうか」

 玉屋はアシカガ領内で忍びを統括している服部家の表の顔。彼らであれば上手く人材を宛がってくれるはずだ。

「……なるほど。良きに計らえ」

 殿の許可が得られたので、頭を下げた後に此度の面会を終えて退出した。


 殿の下を辞したあとは、真っすぐに屋敷には戻らずに城にあるとある部屋に入った。

 そこは一定以上の身分がある者が入れる部屋で、殿の許しがあれば服部家への指示が出せる場所になる。

「服部。おるな? 話は聞いていたと思うが、よろしく頼むぞ」

 自分以外の誰もいないはずの部屋なのに、部屋の片隅から返答の声だけが聞こえて来た。


「ハッ。しかし、よろしいのですかな?」

「さて。それはどういう意味か」

「必要とあらば工作に必要な人材を送ることもできますが?」

「ならぬ。あの相手を甘く見ては駄目だ。言っておくが、この会話も聞かれていることすら考えておけ」

「そのようなことは……」

「ない。そう言い切れるだけの自信があるのはいいが、過信は許さぬぞ。いくらそなたたちでも、その辺を飛び回っている虫を全て排除することなど不可能であろう?」

 

 半ば確信を込めたその物言いに、相手は黙り込んだ。

 ユグホウラに諜報部隊が存在していることは暗黙の了解ではあるが、その部隊の一部に虫が使われているという話がまことしやかにささやかれている。

 魔物が主体の組織であるがゆえに、それが本当であっても何ら不思議ではないのだ。

 むしろユグホウラらしい噂話だと言える。

 今回の相手はそのユグホウラと通じているだけに、ただの噂話と馬鹿に出来るはずもない。

 服部に属する者であればそのことも理解しているのか、反論することが出来なかったようだ。

 むしろここで、根拠のない自信を見せるよりもましだと言えるのだが。

 

「殿も彼の者と騒ぎを起こすことだけは望んでおらぬ。今回我らがすべきは、彼らが望んでおる人材を差異なく用意することだ。余計なことをしてはならん」

「畏まりました」

 出来ることならこんな指示を能力のある服部に出したくはないのだが、今回は相手が悪すぎる。

 守護様でさえ気を使う相手だけに、下手なことをしてはアシカガの国すら吹き飛びかねない。

 

 対話をしていた相手の気配が去ったのを感じて、こちらもその部屋から出ることにした。

 表には警備の兵がいたが、彼らには会話は聞こえていなかっただろう。

 それくらいの防備は、魔法的にも施されている。

 それすらもやすやすと乗り越えるのがユグホウラの諜報だと噂だが、実際にどこまでが本当なのか知っている者はいない……とされておる。

 

 実際にはあの冒険者が知っていそうな気もするが、だからどうしたという感じだ。

 無理をして聞き出したところで、それ以上の反撃を喰らうことが分かっている相手に手を出すほど儂も殿も愚かではない。

 問題なのはその愚かなことをしそうな輩が何人か思い浮かぶことだが、情報を握って知らせないようにしなければならないだろう。

 殿もそのことは理解しておるので、まず情報が漏れることはないだろう。

 

 そんなことを考えながら屋敷に戻ったのはいいが、少しばかりいつもよりも中が騒がしいことに気が付いた。

「――どうした? 何かあったのか」

「はっ。ダンジョン内で超越品が見つかったと話題になっております!」

 一般的に超越品とは、現在の技術力では作ることができず、加えて今まで未発見のアイテムのことを言う。

「超越品だと? どんなものだ?」

「それが物を見た目よりも多く入れることができる袋だとか」

 側近のその答えを聞いてすぐに、あの冒険者のことを思い浮かべた儂は悪くはないはずだ。

 ユグホウラは世に出回ると騒がれる品を多く世に出しておるが、その全てが再現不可だと断言されている。

 今回見つかったその超越品がユグホウラから出ていると考えて、さらにこの時期に滞在しているあの冒険者のことを思い浮かべるのは当然だと思う。

 

 ただし後にその考えは少し早計だったと反省することになる。どうやらこの超越品はマキムクのダンジョンのみならず世界各地で見つかったことがわかった。

 津軽家から殿を通してそのことを知ることになるのだが、その際に別の意味でこの超越品をダンジョンに忍び込ませた意味を理解できた。

 なんと、さっさとこの程度の品は作れるようになってほしいという願いが込められているという。

 普通に考えれば神経を逆なでされるような物言いだが、遥か彼方にまで突き抜けているといわれているユグホウラの技術力のことを知っているだけに、反論することも難しい。

 

 ここは折角の機会を与えられたので、しっかりと技家と才家にも知らせておいた。

 さすがに相手がユグホウラだと分かった時点で、両家共に黙り込んでしまったが。

 技術を司る技家にしても、学問を司る才家にしても、ユグホウラのことに関しては迂闊に手を出してはならぬと理解しておるのだ。

 ユグホウラが多くの魔物を抱えていると分かっているので、我が兵家にしても似たようなものなのだがな。

 

 いずれにしても、ここで何やら物事が動きそうな気がするのは儂だけではあるまい。

 それも全てあの冒険者のせい……なのかお陰なのかは分からぬが、あの者を知る者は誰もがそう考えるであろう。

 とにかく兵家としてはできる限りのことをするべく動くことしかできないのであろう。




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m(__)m

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