(26)本格攻略の前準備

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 例の受付嬢と食堂の問題も終わって、ようやく落ち着いた日常を取り戻すことができた。

 刀魔混流に関しては、一部役人とつるんで公文書偽造のようなことをやっていたらしく一部の捕縛者がでたらしい。

 これは人づてに聞いた話なのでどこまで正確なのかは分からないけれど、捕縛者が出たことだけは確かだ。

 こちらから兵家に働きかけて動くように仕掛けたわけではなく、もともと追っていたところ今回の件を機にこれ幸いと仕掛けたようだ。

 どこまでも他人事のように言っているが、これは別に兵家から直接話を聞いたわけではなく状況を判断して推測しているからになる。

 兵家からの接触はあれ以来一度もなく直接話を聞く機会もなかったので、こちらで勝手に判断している。

 もしかするとタマモ経由でこちらの存在が明らかになったついでに調べた経緯で、刀魔混流のことも分かったのかもしれない。

 どちらにしてもここ最近起きていた騒がしい件は終わりとなったので、改めてダンジョン探索に本腰を入れることになった。

 

「――それでどうするの? 本格的に三十層を目指す?」

「それもいいんだけれど。いや、それも含めてかな? 折角だったらクランのメンバーを呼ぼうかと思ってね」

「クランって、まさか?」

「今更だからね。拠点にに転移装置を置いて何人か送ってもらおうかと」


 以前から考えていたことを話すと、アンネリとアイリは真剣な表情で考え始めた。

 もう既に七つの御家のうち三つと関わりを持っている。

 しかもそのうちの二つは、ほぼ完全にこちらの立場が分かっている状態なのだ。

 それなら今更転移装置を自由に使ったところでどうこう言われることもないだろう。

 

「兵家や足利家から転移装置を使わせてくれと言われた場合はどうされるのですか?」

 そう聞いてきたのは、アンネリよりヒノモトの事情に詳しいアイリだった。

 確かにその懸念はあるけれども、答えは最初から決まっている。

「どうもこうもないよ。その場合はしっかりと拒否するよ。両家だけ特別扱いするつもりはないからね」

「しかしそれだとクランメンバーの滞在が許可されない可能性もありますわ」

「その時はその時だね。別に無理にマキムクにこだわる必要はない……と言いたいところだけれど、もしかするとダンジョンマスターが関わってくるかもね」

「ダンジョンマスターがですか?」

 ルファとはあれから何度か夜な夜な寝室に訪ねてきては、色々なことを話している。

 ダンジョンの奥底に留まっていた過去があるからか、ルファは少し寂しがりやなところもある。

 

「今のルファがどこまで足利家と繋がっているかは分からないけれど、多少なりとも働きかけはすると思うよ」

「あなたは……本当に。どこまで驚かせれば気が済むのよ?」

 半ば呆れた視線を向けて来るアンネリを見て、そういえばダンジョンマスターが何度も来ていることまでは言っていなかったなと思い出した。

 話をしている内容がほぼ雑談だったために、わざわざ皆に話す必要はないと考えていたのだ。

「ハハ。まあ、そういうわけだから。何か言われたらとりあえず町を離れると言ってしまえばいい。ルファが動かなかったとしても、マキムクにこだわる必要はないしね」

「それは言えているわね。マキムクダンジョンがどこまでの規模かは分からないけれど、ヒノモトでさえ他にもダンジョンはあるもの」

「面倒なことを言われないムツに戻ってもいいですわね」

「そういうこと。折角ならもっと南に向かってもいいだろうしね。というわけで、本格的にこっちに呼ぶことを考えるってことでいいかな?」

 改めてそう問いかけると、今度こそ反論は起きなかった。

 

 いつでも自由に移動できるのが冒険者の強みとはいえ、ここまであっさりと町を離れることを前提に考えることは珍しいだろう。

 中には後ろ暗いことをやっていて同じようなことを考えている者はいるかもしれないが、真っ当に(?)生きている中ではそうそういるとは思えない。

 俺がユグホウラとの関係が深いという事情があるからこそともいえるけれど、それに付き合ってくれている仲間たちには感謝しかない。

 もっとも世界各地を時間のストレスなしに転移装置で移動できるというのは、普通ではありえない強みといえるのだけれど。

 

 この中ではメンバーに入ったばかりのアイリでさえも、何かあればすぐに移動するということを違和感なく聞いているようだ。

 しっかりとムツに行けばいいと言っているのはさすがだと思うが、これはアンネリも同じなのでアイリだけをどうこう言うことはできない。

 アンネリの場合は期間を開けないと本格的に戻ることもできないので、少しばかり可哀そうだと思わなくもない。

 当人は全く気にしたそぶりは見せていないけれども、やはり戻りたいと思うこともあるはずだ。

 

 そんなことを考えていると、少し間が空いた隙を見てハロルドがとある提案をしてきた。

「ご主人様。本格的にダンジョン探索をされるのであれば、人員を補充していただき思います」

「ああ~。そっか。そのこともあったね。今更ハロルドにダンジョンに行かなくてもいいよとは言えないしなあ」

 当初は執事的な役目を負わせるつもりだったハロルドだけれど、今ではパーティの一員としても欠かせないメンバーになっている。

 前衛としての働きもそうだが、トムからサポーターとしての動きを教わった今となっては、探索の補佐的な役目の大部分を担っている。

 回復役などの消耗品の補充を始めとして、執事としての経験をフルに生かして戦闘外に関する大部分を仕切っていたりする。

 そんな役目についているハロルドを今更パーティから外すということは考えられず、複数の拠点を持っている以上はそれぞれにハウスキーパー的な人員は必要になる。

 

 以前から言われてはいたのだけれど、さすがにこれ以上先延ばしにするのも忍びない。

 というわけで考え始めたのはいいけれど、ここでアイリが少し予想外のことを提案した。

「これは色眼鏡なしで聞いて欲しいのですけれど、ヒノモトの場合はツガル家やフジワラ家、ここだとアシカガ家かヘイ家に頼まれてはいかがでしょうか」

「それは……いや。ありといえばありかな?」

 最初はそれぞれの土地の権力者に頼むとろくなことにならないだろうと拒否感が出たのだけれど、利用される可能性のことに目をつぶれば一番いい方法ともいえる。

 そもそも現地の為政者に利用される場合は、ユグホウラ関連のことにしてもそれ以外のことにしてもいざとなれば拠点をなくすと言えばいいだけのことだ。

 こちらと繋がりを持ちたいと考える為政者たちは、その程度の人員であれば喜んで用意してくれる気もする。

 

「シーオの場合はしっかりと考えてみるとして、ヒノモトの場合はやってみる価値はあるかな」

「良かったですわ。場合によっては嫌がられる可能性もありましたから……」

「いや。この程度の提案でそんなことにはならないよ」

 場合によっては、切り捨てられる可能性もあることを考えての提案だったのだろう。

 アイリの場合は特にツガル家との繋がりが強いだけに、迂闊なことを提案するとそれがツガル家への忖度だと思われかねないことがある。

 それでもしっかりとツガル家の利になることを提案してくるアイリはさすがと思うが、きちんと俺のしている線引きをしっかりと踏まえているので怒る必要もない。

 

 それはともかく、アイリの提案してくれた内容は考える余地があるのでハロルドも交えて細かく話し合った。

 その話である程度の骨格ができたので、本格的に各家に提案してみることにした。




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m(__)m

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