(25)色々回収

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 店主が刀魔混流の使者にお帰り願ってから数日後。

 予定通りに刀魔混流から使者が複数人の取り巻きを連れて再び来た。

 しっかりと予定通りに来るのは律儀というべきか、あるいはまさか予定が覆されるとは思っていないのだろう。

 見た目にも機嫌よく開店前の店にやってきたその使者は、俺たちがいることで一瞬訝し気な表情になっていた。

 とはいえやることは変わらないと思い直したのか、店長に結論を促すように以前話した内容をそのまま繰り返していた。

 ここで見ものだったのが、店長の言葉を聞いた使者の表情だった。

 聞いた言葉が信じられないと言いたいのか、お化けでも見たような顔になっていた。

 普通に霊体などの魔物が存在する世界だとあまり通用しない表現ではあるが、とにかく驚きが色々と混じったような顔だった。

 

「――――どういうことですかな?」

「ですから借用書に書かれている分の金銭は用意しましたので、しっかりとお返しいたします」

「な、何故!?」

「店をそのまま続けて言いと仰る方がいらっしゃったので、そちらの方に用意していただいたのです」

 店長の言葉を理解したのか、使者はこちらを見て怒りの形相でこちらを見てきた。

「き、貴様か!」

「はい。その通りですが。折角お気に入りのお店ですので、なくなっては困るのですよ。聞けば借金に困っているということでしたので、少しばかりお助けした次第です」

「余計ないことを! 刀魔混流の邪魔をするとどうなるのかわかっているのか!?」

「どうなるのでしょうか。具体的に教えてください。――ああ。その前に、まずは手続きを済ませるようにお願いいたします」


 刀魔混流の名前を出して脅されたが、大した問題にはならないだと思う。

 もし多くの門下生を使ってこちらに武力的な手出しをしてくるのであれば、改めて衛兵なりに突き出せばいい。

 刀魔混流の名前でどうにかすると考えているのかもしれないが、既に兵家の当主との繋がりもあるのでおかしなことにはならないだろう。

 むしろ、そのことを知らないこの使者および刀魔混流が割を食うことになる。

 

 どうぞご自由にという態度が気に喰わなかったのか、使者は歯ぎしりしそうな顔になってこちらを見てきた。

「貴様!」

「はいはい。いくらがなり立てても無駄ですから、さっさと証文を出してください。金銭は――ここに」

 後ろを振り返ってラックを見ると、すぐに背後からジュラルミンケースのような頑丈な入れ物を出してきた。

 そのまま蓋を開けると、しっかりと証文に書かれている分の金貨が用意されていた。

 滅多に一度に見るような金額ではないので、使者も含めて刀魔混流の面々の視線がそこに集まる。

「一応言わせていただきますが、借主が返したいというのを受け取り拒否することは出来ませんからね?」

「そんなことは分かっている!」

 本来貸した金が返って来ることは債権者(貸した人)にとってはいいことなのだけれど、本来の目的が果たせないだけに悔しそうな表情を全く隠せていない。

 

 その顔を見れば、ここに来てこんな横やりが入るとはと言いたいことは分かるが、それに付き合う必要はない。

「きちんと額面通りの金額を用意しましたが、後から足りなかったと言われても困りますので、ここで確認をお願いします」

「そ、そのようなことは後ですれば……」

「はっきり言わせてもらうと、あなた方が信用できないので後でというのは駄目です。ここで確認するか、時間がないというのであればそのまま商業ギルドで確認してもらうかにしてください」

 商業ギルドではちょっとした手数料を払えば、かさばりがちになる金貨や銀貨の類を集計してくれるというサービスがある。

 それはお互いにいちゃもんを付けられないようにするために、よく利用されているサービスだったりする。

「……わかった。ギルドに行って確認しよう。証文の受け渡しもそこでいいな?」

「勿論です。お互いのためにも第三者を挟んだ方がよさそうですからね」

 相変わらずの表情のままの使者に、こちらはできる限り涼しい表情になるようにしておいた。

 

 これだけのことを仕掛けておきながら頭に血が上るのが早すぎると思わなくもないが、武をまとめている組織の関係者だけにこんなものだろう。

 もしかすると目の前にいる使者たち以外にこの絵を書いた者がいるのかもしれないけれど、ここに来ていない以上はどうすることもできないはずだ。

 とにかく刀魔混流の使者たちは、目の前にあるお金に目がくらんだのかは分からないがすぐにでも商業ギルドに行きたがったので、そのままギルドのある建物へと向かうのであった。

 

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 < Side:刀魔混流関係者 >

 

「――それでそのまますごすごと帰ってきたわけか。肝心のことは何もできずに」

「何もできずというの言い過ぎだろう! 少なくとも金は返ってきた!」

「ハア……。もういい。お前に期待した私が馬鹿だったと諦めるしかないのだろうな」

「な、なんだ、その言い草は! あの状況だとお前ができることもなかっただろうぜ!」

「そんなことは聞いていない。大体、一度伸ばしたのだから二度目もあると言って帰って来ることもできただろうに……お前にそんなことをいっても理解できないか」

 さっさと去れと促すと、例の食堂への使いとして送った奴は渋々と部屋から出て行った。

 

 そもそもの計画では、ダンジョン遠征なりで料理をする担当を引き抜くというのが大きな目的だった。

 それがただ借金を回収してきたというだけでは、ほとんど意味をなしていない。

 一応多少なりとも金利分の儲けは手に入れることができたので、全くの損というわけではないのだが。

 だからといって、あれだけの金額をポンと払う人物が出て来るという結果は予想していなかった。……少し調べる必要があるかもしれんな。

 

 ――――そんなことを考えながら書類整理をしていると、今度は役人が少し慌てた様子でやってきた。

 それなりに立場がある相手なので、ある程度は下手に出る必要がある。

「突然、どうされました?」

「どうされましたか、ではない!」

 予定の無い訪問など珍しい相手だけに聞いたのだが、その役人はそれどころではない様子で半ば怒鳴るようにそう言ってきた。

「お前が何をしたのかわからんが、突然監査が入ったぞ! しかも刀魔混流を名指しでだ!」

「な、なんですと!?」

 役人の言葉を聞いてすぐに「やばい」という言葉が脳裏をよぎった。

 

 例の食堂に持ちかけていた借用書は、目の前にいる役人と共謀して少しばかり金利を高く表記していた。

 もともとこちらの引き込む予定だった相手の借用書にそんな細工をしたのは、万が一にも返されることがないようにということと、便宜を図ってもらっているこの役人に袖の下を渡すためだった。

 その目論見は半分失敗したことになるのだが、増えた分の金利は貰っているのでこちらが損をすることはない。

 ただ問題なのは、監査が入ったということはその増やした金利のことが表ざたになるかも知れない。

 簡単にばれるような細工をしているわけではないが、目の前にいる役人が慌てているということはそれなりに目利きのある者が担当しているということだろう。

 

「ど、どうにか帳簿を処理して……」

「出来るものならやっている! 奴ら狙いすましたかのように、問題のあるものだけを持っていったぞ! いまさら改ざんなどできるはずがないだろう」

 なんてことだと思うが、今更どうすることもできない。

 改ざんができないということは、こちらが手を入れていた書類に関しては既に監査が手にしているということになる。

 

 このままだとこれまで行ってきたがばれる可能性が非常に高い。

 役人の口調からしても最初から分かっていて狙い撃ちしたのだろう。

 何故ばれたのだと思わなくもないが、そんなことを考えている暇はない。

 いまはどうやってこの危機を乗り越えるべきかと頭を巡らせた。




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m(__)m

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