(24)当主の独り言
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< Side:兵家長介 >
そもそもの始まりは、いつもの報告時に殿から話を伺った時のことだ。
人を下がらせてから二人きりになった後に、いきなり
わずかに身を固くして何事かと話を伺えば、マキムクのギルドで少々問題が発生しているとのことだった。
それを聞いて最初に浮かんだことは、そんなことでというものだった。
何しろタマモ様から直接言の葉を賜ることなど、足利の殿であってもそうそうあることではない。
何事か重大事が起こったのかと身を構えてみれば、ギルドのことと言われ拍子抜けしたのは仕方ないであろう。
とはいえ放置できないことであるのは事実。
頭の中でどう対処すべきか幾つかの案を考えていると、殿がさらに話を続けた。
どちらかといえば、そちらのほうが問題が大きいのではないかと頭を抱えたくなった。
何しろ傍流とはいえ兵家の名前を許している家が絡んでいるのだから他人事と眺めているわけにはいかなくなかったからな。
さらに詳しく話を聞けば、今までの話以上に着目すべきことがあるのがわかった。
問題を起こしている娘が絡んでいる冒険者だという話だが、そんなことよりもその冒険者が直接守護様とのやり取りができるという話を聞いたときは何の冗談かと考えた。
藤原家を除けば御家の当主でさえ気軽に会うことなどできない守護様に直接伝言をして、さらに足利家の当主に渡りをつけるなど一介の冒険者に出来ることではない。
それどころかヒノモトに済んでいる人族の誰にもできることではないと言っても過言ではないのではないか。
殿の興味もその冒険者に向いておるようで、出来得るならば家臣に迎えたいと仰せであった。
ただし絶対に無理・無茶だけはするなとも釘を刺されたが。
下手をすれば守護様の怒りを買いかねないともなれば、そう仰るのも当然だとは思うが。
儂としても全く同感なので、わざわざ眠れる獅子を起こすつもりはない。
殿の下を辞してから様々な指示を出して情報を集めてみれば、ギルドが考えていた以上に酷かったことがわかった。
さらに問題の娘も、儂であればとっくに切り捨ててもおかしくはないような所業を行っておった。
それらの報告を受けてみれば、殿から話を聞いた時には多少なりともあったかばい立てする気持ちも失せてしまった。
それどころか、兵家の名前を使ってよくぞここまで勝手をしたとすぐにでも罰を与えたくもなったわ。
とはいえ此度の件に関わっているのは、殿でさえも慎重にと言って来る相手だけに勝手をすることはできぬ。
だからこそある程度の調べで繋ぎを取ったのだが、返ってきた答えは「一介の冒険者が対応するべき問題ではない」とは。
早い話が全てをこちらに任せるという意味であろうが、それだと殿の希望にこたえることができぬ。
どうにか一度だけでも会って話ができないかと使者を再度送ってみたところ、色よい返事がもらえたと聞いてホッと安堵できたわ。
そうして形を整えて会ってみれば、どこが一介の冒険者かと思わず口に出して言いそうになってしまったわ。
当人もそうだが、連れている護衛もとんでもなかった。
一目見れば魔物が姿を変えたものだということはわかったが、それは大した問題ではない。
問題なのは、ここにいる兵を全て集めても全く敵わない相手だということだ。
よくそれだけのものを気軽に連れて歩けると思ったが、後から話を聞けばそこまでの相手だと見抜けていなかったそうだ。
何故儂にだけ分かったのかは分からないが、敢えて知らせたのかもしれないと考えておる。
とはいえ、むやみやたらに手を出せる相手ではないことが分かっただけでも十分な収穫であった。
この時点ですぐに強引な士官の誘いは止めて、友誼を結ぶことを優先にしたことは言うまでもない。
件の冒険者と別れてすぐに殿にも報告をしたが、よくやったとお褒めの言葉を頂けた。
かの者らが何の目的でこのタマムシにおるかは分からぬが、これまで通りこちらから余計な手出しをしなければおかしなことにはなるまい。
出来ることならより関係を深めたいところではあるが……少し方法を考えてみるか。
津軽の嫡女さえも連れた彼らが目立つことは控えているようなので中々に難しいところだが、このまま何もせずに置くということは考えられぬ。
幸いにして北斗一刀流との繋がりは出来ているということなので、そちらから繋がりを作るのもありだろう。
事が事だけに慎重に進めなければならぬが、あまり心配しすぎても仕方あるまい。
あとはギルドと例の娘のことに関しては早急に進めなくてはならぬ。
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< Side:キラ >
兵家の動きを察したわけではないだろうが、例の食堂に関してもすぐに動きがあった。
一言でいえば、刀魔混流の者が訪ねてきて借金を盾にすぐに返すか、道場で働くかを迫ったらしい。
その場では答えられないと言うとすぐに引き下がってくれたそうだけれど、数日の期日を言いつけて答えを出すようにと言ったとのこと。
さすがにそこまでされればこちらが話したことが事実だと実感したのか、すぐに北斗一刀流を通して会いたいという連絡が来た。
刀魔混流は食堂の動きを見張ってはいるだろうが、こちらがやっていることは法に触れるわけではないので、逃げ隠れせずに正面から堂々と会いに行った。
結論からいれば食堂の店長(女将さん)はこちらからの資金を受け取ることに決めたようで、それも事前に話をしていてある程度のことは事前に決めていたと思われる。
一応他にも伝手がないかなども当たってはいたようだけれど、さすがに店を開くときに借りていた金をポンと出せるような知り合いはいなかったようだ。
そもそも最初に金を借りたところもこのようなことになるとは思わずに刀魔混流に借用書を流していたようで、後から話を聞いて何か思うところがあったようだ。
とにかく借用書に書かれている分の金銭を用意してから数政老人と一緒に店に向かうと、店長から深々と頭を下げられた。
「――この度はご迷惑をおかけします」
「いいのですよ。そもそもこちらから持ちかけた話ですしね。立会人は宗家殿ということで構わないでしょうか?」
「構いません。むしろこちらからお願いしたいくらいです」
「ホッホ。無論、そのつもりで来ておるからの。まあ、悪いようにはなるまい。この者どもは金には困っておらぬ様子だからの。羨ましい限りだ」
「宗家殿もその気になれば稼げるでしょうに」
数政老人ほどの腕があれば、ダンジョンに単独で潜ってそれなりの額を稼ぐことができるはずだ。
彼がそこまで裕福ではないのは、道場の維持やら一部の門下生を養うために使っている金があるからだったりする。
ダンジョンでの稼ぎが頭打ちになっていることもそれに拍車をかけているのだろうが、決して困窮しているというわけではない。
一応借用書に書かれている分の金銭は用意しておいたけれど、向こうが何を言い出してくるのかは分からない。
そのため刀魔混流の使いが来る時には、こちらも一緒に立ち会うことも条件の一つに入れておいた。
さすがに乱暴狼藉を働くとは思えないけれども、おかしなことを言い出さないとも限らない。
店長が対処できないことを言いだすかどうかは分からないが、念のためということで納得してもらった。
もっとも店長はそれなりに気が動転しているのか、そこまで忌避感を示していたわけではないのだけれど。
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是非ともフォロー&評価よろしくお願いいたします。
m(__)m
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