(23)兵家の当主

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 兵家の現当主は兵家長介で、鍛えた体つきをしている壮年男性だった。

 年の割にはいまだに衰えを全く見せないくらいに鍛えているように見えるけれども、兵家はその名前の通り武を統括している家でその当主だからこそということもあるのかもしれない。

 武を統括している家の当主がヒョロヒョロだったりすると、舐められることもあるのだろう。

 もっとも魔法があるこの世界では、別に体つきががしっかりしていなくても弱者ということにはならないのだけれど。

 とにかく眼光鋭くこちらを見据えてきた長介は、一通りの挨拶を済ませて席に着くなりいきなり頭を下げてきた。


「我が家に連なる家の娘が迷惑をかけて申し訳ない」

「いえ。兵家の当主に頭を下げられるようなことではありません。こちらとしてはギルドの問題の方が大きいと考えて連絡させていただいただけですので……」

「ギルドか。あれも問題ではあるが……」

 長介は、本当にそれだけかという意味を込めて視線を向けて来た。

「正直なところ本来ギルドは政治とは切り離されるべきだとは思うのですが、やはりヒノモトにおいては武家に頼むのが一番ですから」

「ふむ。そういうことか。確かに言わんことは分からんでもないな。加減が難しいところだ」

 ギルドにどこまで介入すべきかは長介にとっても悩ましいのか、考え事をするように視線を上に向けていた。

 

 長介の様子を見る限りでは、これを機にギルドに対する影響力を上げようなんてことは考えていないように見える。

 ギルドの力が下がれば相対的に魔物に対する圧力も下がることを理解しているのか、何か他の考えがあるのかは分からないけれど、これを機に実権を握ると言い出さなくて一安心といったところだ。

 魔物という人類の天敵といってもいい存在がいる限りは、どうしても国の垣根を超えた組織というのは必要になる。

 そう考えると冒険者ギルド自体は必要な組織だと皆が考えている……と思いたいところだ。

 

「ギルドの影響力が落ちた分を国が担うというのであれば問題はないのですけれどね」

「……さすがに守護様とのルートを持っているだけのことはあるな」

「言っておきますけれど、その辺の話はしませんからね。今日はあくまでもとある受付嬢に迷惑をかけられている件で来ているのですから」

「やれやれ。分かって言っているだけに厄介だな。ツガル家の嫡女がいるのもその辺が理由か?」

「どうでしょうね。全く関係ないとは言えませんが、タマモと会う前から一緒にいますから違うとも言えます。詳しく知りたければツガル家のご当主に聞いていただいたほうがいいかと思います」

「中々に厄介なことを言ってくれるな。……まあ、いい。このまま話をしていても聞けるとは思えないしな。話を戻そうか」

「話を戻すといっても、先ほども申しあげた通りあとはそちらの匙加減次第ですよ?」

「そうか? 刀魔混流のこともあるのではないか?」

 長介は、きちんと調べているぞという顔をしながらそんなことを言ってきた。

 

 さすがに直接対面するだけあって、こちらが関わっていることは全て調べ上げているらしい。

 とはいえそういうこともあり得るだろうと予想はしていたので、さほど驚くことはなかった。

「どうでしょうね。あれも微妙といえば微妙ですからね。刀魔混流もクランとしてプラスになることをやっているだけとも言えますし」

「だがお前たちは気に入らないのであろう?」

「それはあくまでも個人的な感情ですからね。わざわざ三能家の一つに介入してもらうようなことでもないでしょう」

「普通はここで頼んできたりするんだがな。……だがそなたが言っていることも確かか。それに個人で対処する手段も持っているわけか。やりずらいことこの上ないな」

 出来ることなら『恩』を売っておきたいところだがと続けた長介に、思わず苦笑してしまった。

 どうも武の家の当主だからなのかは分からないけれど、長介は直接的な物言いを好んでいるらしい。

 一歩間違えば話をしている相手が反感を買いかねない言い方ではあるが、当人の資質なのか訓練の賜物なのかは分からないけれど一切の嫌味を感じないのが凄いと思う。

 

「一介の冒険者でしかないのに三能家の当主と繋がりがあるなんて知れたら面倒なので、お諦めください」

「むう。これはまた、開けっ広げに申してきたな。あくまでも一冒険者として通すつもりか」

「つもりもなにも彼女のことが無ければずっとそのつもりでしたからね。今更変えるつもりはありません」

「……仕方ない、か。とりあえずは諦めよう。――ああ。ギルドに関しては既に進めておるので数日中に結果が出るはずだ」

「そうですか。ではまたダンジョン探索にでも行きましょうか」

「良いのか? 刀魔混流が動くのではないのか?」

「そうかも知れませんが、いきなり乱暴狼藉を働くのであれば衛兵なりが動くのではありませんか? ダンジョンに潜る余裕くらいはあると思いますよ」

「なるほどな。そなたがそれでいいと思うのであれば好きにすればいい。既に手は打っているようだしな」

 すっかり見透かされている気がするけれど、特に隠しているわけでもないので問題ないだろう。

 

 この後は軽く雑談をして昼食に誘われた。

 そこまでする必要があるのかと思ったが、そもそもアイリを連れている時点で塩対応はできないのだろう。

 こちらがいくらいいと拒絶しても、周囲から何を言われるのか分からないと言われれば断ることもできない。

 アイリも受けた方がいいと言っていたので、そのままの流れで食事もしたというわけだ。

 

 食事のあとは、すぐに兵家の屋敷を出て拠点へと戻った。

 特に大きな何かがあったというわけではないのだけれど、これもまた必要なことだと割り切っていつもの生活へと戻った。

 例の受付嬢に関してはもうこちらが動く必要はないと思われるので、あとの面倒事は刀魔混流のことだけになったと言える。

 

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 < Side:兵家長介 >

 

 キラと名乗った冒険者と会ったあとは、すぐに城へと向かった。

 向かった先には、今か今かと待ち受けていたかと思われる殿が何かしらの期待を持ってこちらをご覧になってきた。

「――どうであった?」

「さて。見方によっては普通の冒険者……ですが、事情を知っている者からすると底知れない何かがありそうな感じもしましたな」

「そなたがそこまで言うか。そこまでだという報告はなかったのだが?」

「あれは直接対面しないと分からないかと。少なくとも忍びの者が遠くから見ているだけでは分からないでしょう。ダンジョンに直接着いて行くわけにもいかないでしょうから」

 

 普段のキラは、恐らく悪くいえば無防備な素人と言えなくもない。

 ただし少しでも攻撃の意思を見せれば、手痛い反撃を喰らうことになるだろうが。

 あの者の本分は魔法らしいので、常人には分からぬ何かしらの仕掛けをしていてもおかしくはあるまい。

 それに常に背後で警戒をしていた者たちがいるので、当人がそこまで気を張らなくてもいいのだろうとも思う。

 

「そなたが認める強さを持つ冒険者か。出来るならこちらに引き込みたいところではあるが……難しいか」

「ツガル家の者がいるというのもありますが、それ以上に当人にその気が有りませぬからな。あれはこちらが本気になれば、スルスルと逃げてしまいますぞ?」

「今はダンジョン探索に精を出してくれているだけでいいと思うべきか」

 

 殿がそう結論を出すのを見て、内心でため息を吐いた。

 殿に言ったことは紛れもなく事実で、こちらが少しでも色気を出せば間違いなく逃げ出すだろう。

 今はまだ様子を見ているだけで十分。

 それだけは殿の言った通り余計な手出しをせずにおくのが良いのであろう。




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m(__)m

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