(22)兵家の対応

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 これまでは自浄作用に期待して積極的にこちらから動くことはしなかったけれど、動くと決めたあとは早かった。

 まずはタマモに連絡を取って、そちらからアシカガ家へと話をする。

 アシカガ家にしてみれば寝耳に水の話だったらしく、タマモから直接連絡が来たことも相まって騒ぎになりかけたらしい。

 ただしそこまで大騒ぎするような騒ぎでもないので、直接アシカガ家が動く必要はないと言っておいたのが効いたのか、すぐに話はヘイ家へと伝わった。

 それ以外にアシカガ家が動くことはなかったが、それでもヘイ家にとっては身震いするような事態になったことは間違いない。

 何しろアシカガ家を通しているとはいえ、ヒノモトの守護とされるタマモから半ばクレームのような貰ったのだからそうなるのも当然だ。

 しかも遠縁とはいえ血族の一人が主犯の一人と言われれば、慌てもするだろう。

 もっとも主犯といっても明確な犯罪ではないのだけれど、それだけに厄介なことだともいえる。

 

 あまりことを大げさにするつもりはないというこちらの『伝言』が伝わったのか、もともと兵家としても内々に処理したかったからかは分からないが、最初にこちらに接触してきたのは兵家に仕えている家柄の武士だった。

 シーオとヒノモトでは身分制度が違うので明確には区別はできないが、どちらかといえば執事的な立ち位置にいる人といえばいいかも知れない。

 もっともヒノモトでは、上級武士に仕えている武士が家周りのことを補佐することは珍しくはないので、正確にいえば違うと言えるかもしれない。

 どちらにしても、第一接触としてはあまり目立たない人物をよこしてきたともいえる。

 

「――ということは、御家の招きには応じられないと?」

「いえ。そうは言っていません。ただギルドの問題と例の女性に関しては別問題で、前者は一冒険者が関わるようなことではないと考えているだけです。そちらは私たちが関わる必要もないのではありませんか?」

「それは……確かにそうかも知れませぬな」

「さらにいえば、女性の方の問題はそれこそ個人的な問題であって、わざわざご当主に会う必要もないかと考えているだけです。――そのことを踏まえて一度話されてみてはいかがでしょうか?」


 例の受付嬢の問題を複雑にしているのは兵家に連なる血筋に生まれているということだけで、それを除けば処理するべきことは単純な問題になる。

 それにしてもギルドの問題に一冒険者が首を突っ込むようなことではないし、そこまで手を入れる必要もないと考えている。

 だったら何故わざわざタマモを動かしたんだと言われそうだけれど、それはまた別問題と割り切っている。

 むしろそこまで事を大げさにしないためにも、タマモを使ったといえる。

 

 接触を図ってきたその武士がどこまで話を聞いているのかは分からないけれど、一応こちらの言い分は理解したのか強引に兵家の家に招こうとはせずに素直に戻って行った。

 主人に相談してから来るとは言っていたのでまだ会うことにはなりそうだけれど、それはそれで問題ない。

 こちらとしては何事もなく例の受付嬢が普通どおりの態度になってくれることと、硬直しかかっているギルドがしっかりと運用されるようになればそれで構わない。

 ギルドの問題を兵家に投げたのは少し筋違いのような気もするけれど、例の受付嬢が絡んでいるだけにそこだけを省いて話すわけにもいかないだろう。

 

 というわけで一度は送り返した使者さんだったけれども、翌日には再び主の伝言を持って拠点を訪ねて来た。

「――『内々でという話はこちらにとっても有難い。だが一度は会って話さねばならぬであろう』これが主のお言葉でございました」

「なるほど。確かにそれはそうですね」

 さすがに兵家の当主にはこちらにタマモとの伝手があると伝わっているのか、直接会いたいという意図を感じられた。

 ただし、別に無理をしてまで拒否するような話ではない。

 兵家のような上級武士と完全に関わることを止めるのであれば、そもそもアイリの旅の同行を許してはいなかった。

 

 それはいいのだけれど、当主と会うのが内々であったとしてもこちらにも隠しておけないことが一つあるのでそれは伝えておくことにした。

「あまり大げさにはしたくないのでお招きに応じるのは構わないのですが、こちらにいる巫女は津軽家の嫡女になります。それだけはご当主様にお伝えしないと困ったことになると思いますので、お伝えしておいてください」

「それは、また……」

 アイリが直弼の長女だと伝えると、やはりその使者は驚いていた。

 当たり前であるが、御家の嫡女がこんなところで一般の冒険者に混じって冒険しているなんてことは思いつかないのだろう。

 ついでにそのことについても内々に済ませておくようにという言外の言葉は、しっかりと使者に通じたようだった。

 こちらを見る目が完全に「こいつら何者だ」となっていたが、それはまあ、仕方のないことだろう。

 

 とにかく兵家の当主との接触は内々で行うことで、ひとまずは話がついた。

 とりあえず一度は会ってその後とのことを考えようとも言っていたけれど、正直なところ直接会ってこちらの本意を確かめたいだけだと思われる。

 あとは、タマモとの繋がりがある冒険者という意味不明な存在がいることへの不信感もあるだろうか。

 それに加えて、アイリを自由に連れまわっているということも兵家の当主をさらに混乱させる要因になるのだろうか。

 

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 お互いにあまり表ざたにしたくはないというのは一致しているおかげか、屋敷に招かれたといっても表向きは冒険者に依頼することがあるという形式で対面が行われることになった。

 ちなみにこの依頼というのはカモフラージュのためだけではなく、実際に兵家が管理している土地にいる魔物についての相談もあるそうだ。

 あわよくば討伐できるなら討伐してほしいとのことだったけれど、今のところこれ以上冒険者ランクを上げる必要性を感じていないので辞退させてもらうことにしている。

 あちら側もあまり期待はしていなかったのか、あくまでも当主と面会するための理由付けとしてしか扱われていないようだった。

 それから当主と対面する前にもう一つだけ普通ではないことがあったのだけれど、それが何かといえばアイリと知人の女性と先に会うことになったことだ。

 アイリがツガル家の嫡女だと言ったことが本当かどうかを事前に確かめるために用意しておいたのだろう。

 こちらとしては、嘘をついていないので全く問題はないことだった。

 

 そのアイリは、久しぶりに会った友人と楽しそうに話をしていた。

 ヒノモトでは御家同士も含めてある程度の地位にいる家の者たちは、一時集まって勉学に励むことがあるらしい。

 元の世界でいえば貴族学校的なものとも言えなくもないけれど、そこまできっちりとした学問を学ぶわけでもないそうだ。

 どちらかといえば勉学をするためというよりも、社交をするために集められると考えたほうがいいかも知れない。

 

 久しぶりに会ったアイリの友人は兵家の女性で、こちらは紛れもなく誰かさんとは違って正統な血筋らしい。

 既に婚約者は決まっているらしく、しっかりとした身分のある相手に嫁ぐということは二人の話から聞くことができた。

 いわゆる政略結婚であることには違いないのだろうけれど、話をしている当人が幸せそうにしているのでただの家の繋がりだけで選ばれたわけではなさそうに見える。

 どちらにしても彼女のお陰でこちらの雰囲気が良くなったことだけは確かなので、有難い存在だと尽きない話をしている二人を見ながらそんなことを考えるのであった。




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m(__)m

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