(21)ギルドへの対処
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ギルドに向かうと幸い例の受付嬢はおらず、幾人かいる別の担当者が座っていた。
その受付に用件を告げると少しばかり渋い顔をしてからすぐに対応してくれた。
ちなみに渋い顔をしたのは俺たちに対してではなく、例の受付嬢の名前を出したからだ。
拠点を買った時の担当者とは違う担当者だったのだけれど、例の受付嬢の悪行(悪名?)は職員にしっかりと認識されているらしい。
調子に乗って言伝の最後に「この話がどこで途切れるか楽しみにしておきます」というと少しばかり苦笑していたので、その受付はしっかりと仕事をしてくれるはずだ。
そう考えて待っていると、すぐに別部屋へと案内されることとなった。
それから十分ほど待たされた結果、フロアマネージャー的な立ち位置の人がやってきた。
より具体的にいえば、依頼や買取などの複数ある窓口を統括している立場ということだ。
「――この度はご迷惑をおかけしまして申し訳ございません」
「はい。謝罪は受け取ります。それで、この後はどうされるおつもりでしょうか?」
「どう……とは?」
「いえ。このままあなたの謝罪だけで終わるおつもりですか、と聞いたつもりなのですが?」
そう問いかけるとその役職持ちは途端に視線を左右に揺らし始めた。
どうやら本気でこの場で終わらせるつもりだったらしい。
そう理解できた俺たちは、これ見よがしにため息をついて見せた。
予想できた反応だっただけに、タイミングもピッタリ合ってしまったがそれがかえって打ち合わせをしていたと相手に思わせる結果になったようだ。
「そ、それは……」
「この場であなたが謝っただけでは、彼女の行動は止まりませんよね? まずはそこから始めないと駄目だと思うのですが」
「しかし彼女が個人的にしていることを止めることは……」
「個人的にというのでしたら業務時間中に仕事に関係ない話をすること自体間違いだと思いますよ?」
そんなことを話しながら心の中で「これは駄目だ」と考えていた。
目の前にいる役職持ちが、例の受付嬢のことをどこまで知っているのかは分からない。
もしかするとさらに上にいる立場の者から何か言われていたり、あるいは忖度している可能性もないわけではない。
そう考えると彼が黒だと断言することもできないのだが、そんなことは別にどうでもいい。
問題なのはどこまであの受付嬢の影響があるのか、ということだろう。
見た感じでは彼女自身はそこまで大した働きができているわけでもないので、完全に家の繋がりに期待しているのか既に恩恵を受けているのかになるはずだ。
もしかするとそんなことは全く関係なく、役職持ちさんが自分の経歴に傷がつくのを恐れて上に報告していないだけということもありえる。
どれにしてもこれ以上彼と話をしていても実りのある答えは出てこないということだけは分かった。
未だにグチグチと言い訳めいたことを続けている役職持ちさんに、もういいと止めて続けて言った。
「――これ以上はお話を聞いても意味がないことが分かりましたので、今回はここで引き取らせていただきます」
そう言うとあからさまにホッとした表情を浮かべていたが、甘い。これで引き下がって終わりにするつもりは全くない。
それが分かっていないのか、部屋を出て行った俺たちを役職持ちさんはあからさまに笑顔を浮かべながら見送ってくれた。
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ギルドから戻って拠点へ入るなり、アンネリとアイリの怒りが爆発していた。
「何なのよ、あれは!」
「全くですわ! 事の次第が分かっていないようですわね!」
「あ~。気持ちは分かるけれど、少し落ち着こうか」
感情が振り切っている人が傍にいると逆に落ち着けるとはよく言ったもので、二人の様子を見ていたら逆に少し冷静になれた。
「けれどキラ。あれはないわよ?」
「それは分かっている。当然このままにしておくつもりはないよ。ただ今のままの状態でいくら働きかけても無駄だね。あれは」
あの役職持ちあの後でさらに上に報告しているならいいけれど、あの態度を見る限りでは期待はできないだろう。
恐らく自分のところで収まってくれたと勝手に納得して、そのままの状態になっているはずだ。
こちらがギルドから去ってくれたことで事はおさまって、例の受付嬢に関しての改善など全く考えているとは思えない。
一応、偵察部隊の一員はつけているが、意味があるとは思っていない。
勿論このまま放置するつもりは全くないので、俺は視線をアイリへと向けて聞いた。
「アイリ。この場合はツガル家を通したほうがいいかな? それともタマモがいいのかな?」
「それは……タマモ様でしょう。ツガル家を通しても所詮は家内の問題だと言われればそれまでですから」
「ギルドは一応権力からは一歩引いた存在のはずなんだけれどねぇ」
「それは今更でしょう? どうしたって現地の権力とは結び付くでしょうし、それぞれの土地で問題があることは普通だもの」
さすがにギルドの問題はどこの土地でもあることは理解しているのか、アンネリがあっさりとそんなことを言ってきた。
「それよりもここまで大人しくしていたのに、いきなり本気になっていいのかしら?」
「こっちからの釘刺しで自浄してくれることを期待したんだけれど、あの人を見る限りでは無駄みたいだからね。それにいつまでもこの問題を引きずっていたくない」
これまではこちらの持つ伝手を使うことを控えていたが、ここまで酷いと分かると時間をかけるのも無駄だとわかる。
それに、あの受付嬢はこちらが動いたのに現状が変わらないと分かると、猶更付け上がる気がしている。
そのためにも、この機会に一気に動いたほうがいいと考えている。
そのことはアンネリやアイリも理解しているのか、それ以上は何も言ってこなかった。
それよりも、この問題をどういう経由でどう対処するかに問題が置かれることとなった。
「――タマモを動かすのはいいとして、やっぱりアシカガ家に直接働きかけたほうがいいかな?」
「それは、タマモ様がどこまでギルドに重きを置いているかにもよるかと思いますわ。……守護様とはいえ、魔物であることには違いありませんので」
そう控えめに言ったのはアイリだったが、それに関しては自信を持って答えることができる。
「それは大丈夫だよ。タマモも冒険者の存在が土地の安定に繋がっていることは、理解しているからね。彼女にしてみれば人族と魔物が争うのも魔物同士で争うのも大した違いはないよ。その上で人族にとって冒険者が必要だということは分かっているからね」
「それならば、タマモ様からアシカガ家へ直接お話をされる形にしたほうがよろしいでしょう。一応ツガル家には私から話しておきますわ」
建前上冒険者ギルドは、現地の国家や貴族とは上下関係に無いということになっている。
それでも国家や貴族が、ギルドにとって大口の顧客であることには違いない。
それを考えればアシカガ家に話を通すというのは、それなりに効果があるとみていいだろう。
さらにいえば、薄いつながりとはいえ例の受付嬢はアシカガ家と全く関係がないともいえない立ち位置にいるので筋違いの抗議とはいえないはずだ。
というわけでその後も細々としたことを話してからタマモへ連絡をした。
こちらの話を聞いたタマモの反応は、呆れ半分と笑い半分といったところだろうか。
前者の呆れはギルドに対しての者だけれど、後者に関しては相変わらず騒動に巻き込まれているこちらに対するものだった。
とにかく、話を聞いたタマモはすぐに動くとあっさりと了承してくれていた。
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是非ともフォロー&評価よろしくお願いいたします。
m(__)m
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