(20)面倒事その2
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食堂の店長に事情を話して状況を理解してもらったのはいいとして、すぐに金銭的な支援をするということにはならなかった。
そもそも店長からすればこちらが持ってきた話が本当のことだと確信もしていないだろう。
いくら数政老人が一緒にいるとはいえ、刀魔混流が本格的に店を狙っているということのほうが詐欺的な話に思えるだろう。
もっといえば北斗一刀流とこちらが組んで何か嵌めようと考え……ているとは思わないが、どこまで本当の話なのかは確認しようとするだろう。
それは当然のことだと思うので、こちらも一度目の話で具体的に動こうとは考えていなかった。
店長の「考えてみます」という言葉にすぐに同意したのは、ここで店長を追いつめても何の意味もないと考えたからだ。
店長が考えている隙に刀魔混流が何かしらを仕掛けてきたとしても、こちらのバックアップがあると分かっているだけである程度落ち着いて対処できるはずだ。
そのことも狙って顔合わせだけをしておいたので、とりあえずは悪感情を持たれなかっただけでも成果があったと思う。
刀魔混流も借用書的なものを手に入れてすぐに動くかと考えていたけれど、すぐには動かなかった。
何かを警戒しているのか、あるいは準備をしているのか。
借用書を手に入れるためにそれなりの金銭が動いているはずなので、手元にあるだけで満足するということはないだろう。
そういう意味では、まさかツケを認めるためだけに手に入れたとも思えない。
今すぐに動くつもりはなさそうだが、何かきっかけのようなものがあれば動くともいえる。
そのきっかけが刀魔混流側にあるのは確かだけれど、それが何か分かっていないのでこちらも迂闊には動けない。
最近急成長しているといわれている刀魔混流では、派閥争いのようなものがあるのかもしれない。
いっそのこと刀魔混流のことを丸裸にするまで情報収集をすればその辺りも分かるだろうが、今のところはそこまでする必要はないと考えている。
これから先は基本的に刀魔混流が動かないと事態は進まないので、店長から頼まれない限りはこれ以上のことをするつもりはない。
それはいいのだけれど、刀魔混流についての問題に対処しているうちにもう一つ面倒なことが起こりつつあった。
それが何かといえば、例の受付嬢がこれまでとは別の意味で絡み始めたのである。
きっかけは、恐らく『大樹の頂』が第二十層を超えたという話を耳にしたためだろうと思われる。
北斗一刀流の門下生と一緒に探索をしていても特に口止めなどはしていなかったし、転移陣辺りで他の冒険者に目撃もされていたので噂として広まったものと思われる。
それ自体は特に隠していないので問題はないのだけれど、受付嬢が手の平を返したように近寄ってきたのだ。
これまでの態度からすれば真逆の対応ともいえるのだけれど、よくもまあそこまで変われるものだと思えるくらいに変わった。
今までのことについては記憶からなくなってしまったのかと思うくらいで、逆に感心してしまったくらいだった。
そんな状況なので、しばらくロックオンされている俺はギルドには近づかないようにしている。
……のはいいのだけれど、この日も疲れた顔をしてギルドから返ってきたアンネリとアイリを見て、思わずこう尋ねることになった。
「やっぱり相変わらず?」
「ええ。よくもまあ、あそこまであからさまな態度が取れると逆に感心できるくらいよ」
「周りの引いている視線に気づいていないのが、いっそ潔いと言わざるを得ませんわ」
「うわー。なんだろうか。やっぱり俺も一緒に行った方がよくない?」
「「それは駄目よ(ですわ)」」
二人が苦労していると知って一緒に行くべきだと提案したが、即座に二人から拒絶された。
俺が一緒に行くことで、余計に状況が悪化すると考えているのだそうだ。
『大樹の頂』が第二十層を超えたことで、ランク相応の実力があることを遅ればせながらも例の受付嬢も気付き始めた。
そこでの態度変更であっただが、それは俺に対してだけではなく常に一緒にいる女性陣にも及んでいた。
ただし女性陣に対しては、より厳しい態度を取るようになっていた。
最初のうちは冷たい視線を向けるとかその程度だったのだが、今では嫌味の一つや二つも言ってくるようになっているらしい。
ここまで来ると騒ぎが起こるのが面倒とか言っていられるような状況ではなく、いっそのことギルドに報告してしまおうかという話も出たが今のところは様子見をすることにしている。
そもそも周りにいる冒険者が気付いているということは、ギルドの職員が気付いていないはずがないのだ。
となると何かしらの対処をしてくれるはず……と思いたいわけで、それを待ってからでも遅くはないだろうという考えだった。
とはいえここまで来ると、そんな悠長なことを言っていられるような状況でもなくなっている。
「――仕方ない。一度ギルドにクレームを入れるか」
「あの様子を見る限りでは、意味があるかは分からないけれどね」
「当人はもうどうしようもないよね、あれは。ギルドがどういう対処をするかは分からないけれど、こっちが迷惑していると認識してもらうだけで十分だよ、今は」
「あの子に近づかれて喜んでいると思われている可能性もありますわ」
そんなバカなと言いたくなるようなアイリの言葉だが、こちらも態度をはっきり示していなかっただけに絶対に無いとは言えない。
そのためにも一度ははっきりとクレームを入れたほうがいいだろう。
それでギルドがどうするかは、ギルド側の問題でしかない。
しかもそれであの受付嬢が諦めるとも思えないが、それはもうどうすることもできない。いくらなんでもこの程度のことで暴力的な手段を取るつもりもないし。
「放置しすぎた結果があれか……。面倒になると分かっていてもしっかりクレームなり入れておいたほうが良かったかね」
「それは結果論じゃないかしら。まさか二十層を超えた段階でこんなことになるとは思っていなかったもの」
「だよなあ。それにしても極端すぎるとおもうんだけれどねえ……。二十層を区切りにする何かあったのかね?」
「興味があるなら調べてみたら?」
「いや。ただでさえ食堂関係で動いてもらっているからね。これ以上はいいかな」
ユグホウラの諜報部隊は俺が好き勝手に使ったところで、組織全体が危うくなるようなことにはならない。
むしろ好きに使ってくれたほうが暇をする部隊が無くなるので良いとまで言われている。
それでも「こんなことで」と思ってしまうのは、やはり生来の性格のせいかもしれない。
「それにしてもあれだけあからさまなのに、一部の冒険者から人気があるのはなあ……不思議でならないなあ」
「それはこっちが言いたいことよ。見た目が良ければなんでもいいのかと思ってしまうわね」
「うーん。同じ男だけに完全否定できないところが辛いけれど、そんなのは一部だけだから……と思いたいね。もしくは本気で惚れてしまったか、か」
「それは……女性も同じかもしれないわね。こればかりは周りがどうこう言ってもね」
こと恋愛感情に関しては、沼にはまり込むと分かっていても止められないことがある。
それは男女どちらも同じことが言えるわけで、あの受付嬢にも一定数のファン(?)がいるのは紛れもない事実だ。
問題なのはそのファンたちが何かを仕掛けてくる可能性もあり得るわけで、どちらにしてもできる限り関わりたくないと思うのは仕方ないだろう。
ギルドに文句を言うことでどうなるかは不透明だけれど、このまま放置するわけにもいかず覚悟を決めてギルドに向かうことにした。
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是非ともフォロー&評価よろしくお願いいたします。
m(__)m
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