(18)嫌な予感

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 合同探索は順調に進んで、なんと五日目には第二十層に到達することができた。

 予定では六日以上かかるだろうと予想していたので、確実に北斗一刀流の二人がいたから早く攻略することができたのだろうと思う。

 その二人は微妙に「ほとんどすることがなかった」と落ち込んでいたけれど、こちらからすれば全くそんなことはなかった。

 前衛二人が加わったことで確実に安定感が増していたし、攻略の速さ自体も普段よりもかなり早く進めた。

 やはり前衛が足りないことは課題だということが分かったので、『大樹への集い』のメンバーを呼ぶことを本気で考えもいいかもしれない。

 もし本格的に呼ぶのであれば、マキムクの町に(仮)ではなく本格的に拠点を用意するばきだろう。

 以前ちらりとメンバーに話したところ大人組は基本的に賛成だと言っていたので、問題はないはず。

 あとはヘディンに戻った際に、一度相談してみるべきだろうと本気で考え始めていた。

 

 北斗一刀流の二人については、ダンジョンから戻った二人を見て数政老人が満足そうな顔をしているので問題なかったと考えている。

 今後については何も話していないが、もしまた別の門下生を連れて行ってほしいと言われたら考えてもいいと思っている。

 前衛がいるいないではかなり攻略の難易度が変わってくるし、子供たちにとってもいつもと違う戦い方を見せられるのは勉強になるはずだ。

 どちらにとってもメリットがあるとわかっているのだから、断る理由がないというのが本音だったりする。

 

 そんなこんなで探索から戻った翌日。

 この日は休息日ということで、久しぶりに例のお店に食事をしに来た。

 そして店に入るなりすぐに気づいたのだけれど、店の雰囲気が以前のものと変わりないものに戻っていた。

「――そういえば、表にあの半端者がおりませんでしたわ」

 すぐに原因に気づいたアイリのつぶやきに、全員が「そういえば」という雰囲気になった。

 店に入るときには気づかなかったのだけれど、探索前は毎日のように来ていたあのごろつきたちが影も形もなかったのだ。

「飽きたのか諦めたのか、それとも別の理由があるのか……とりあえず平穏に戻ったということでいいのかな?」

「そうでしょうね。お店の雰囲気を見る限りでは、今日いきなりというわけでもなさそうだしね」

 アンネリの言う通り、どうやら俺たちがダンジョンに潜っている最中にあの男たちが来なくなったように見えた。

 

 少し気になったので配膳できた店員さんに確認してみた。

「――以前は来ていただきありがとうございます。それからあの男たちが来なくなったのは昨日からですね。原因はわからないようですが」

「ああ、そうなんですね。常連さんの誰かが動いたのかと思ったんだけれど、違ったんですか」

「もしそうだったとしても、お店には何も伝えていないようですので、こちらでは把握していないようです」

「なるほどですね。仕事中に呼び止めてすみませんね」

 軽く話をしてお礼を言うと、その店員は「とんでもありません」といって離れて行った。

 

「――どう思う」

「どうもこうもいい加減面倒になったとか、それくらいしか思いつかないわよ。組織的に動いていたなら何かあったと考えられるのでしょうけれどね」

「そうですわね。中途半端すぎてもやもやしますが、所詮は半端者ということでしょう」

 妙にごろつきに対して厳しいアイリだが、意見としては賛成できる。

 こんな中途半端なことをするなら最初からしなければいいのにと思わなくはないけれど、そんなことを考える頭があるならあんなことはしていなかったのだろう。

 

 とはいえ気になることは気になるので、少し諜報部隊にも調べてもらうことにした。

 あの男たちについては常時張り付いているわけではないので、また調査してもらう必要がある。

 とはいえすでに顔はわかっているので、調べるのはそんなに時間はかからないはずだ。

 一緒についてきたクインに目配せしておいたので、それだけできちんとこちらの意図を理解して動いてくれるはずだ。

 

 とにかく常連の店が以前の雰囲気に戻ったことは喜ばしいことなので、今はせっかくの食事を楽しむことにした。

 このまま何事もなく終わってくれればそれでいいのだけれど、今はそれを考えても仕方ない。

 周りを見る限りでは以前のことなど忘れたかのようにお客も食事を楽しんでいるようなので、これ以上余計なことをする必要はないだろう。

 ほかの面々も同じように考えているのか、少しもやもやとしつつも最後までしっかりと食べきって店を出るのであった。

 

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 クインに頼んだ調査は、半日もせずに結果が出た。

「あ~、なんだろうか。嫌な予感が当たってしまったかな」

「やっぱり面倒ごと?」

 報告を受けてからたまたま居間にいたアンネリに、ため息交じりに伝えることにした。

「あの店ね。本格的に買収されそうな感じになっているよ」

「えええ? どういうことよ」

「簡単にいえば借金があってね。その借金が刀魔混流に握られてしまったって感じかな」

「ありそうといえばありそうな話だけれど……なんでまた突然?」

 以前まではあのごろつきたちが騒いでいただけで、刀魔混流が本格的に介入してくることはなかったのだ。

 それが何故、ここにきて組織として動いたのかが不思議だというのは、アンネリではなくとも感じる疑問だろう。

 

「それね。刀魔混流はもともとダンジョンに連れていける料理人を探していたみたいだね。んで、あそこの料理人、実は以前ダンジョンに潜っていた過去があるってばれたみたいでね」

「そういうこと。これ幸いと上層部に報告して、自分たちのものにしてしまおうと。……迷惑この上ないわね」

「同感。そんなことに力を使うくらいなら、もっと訓練とかすればいいのにと思うんだけれどね」

 こんなところで愚痴っても結果は変わらないのだけれど、ついつい口に出てしまった。

「借金は店を開くときにしたとして、そんなに大きな額なの?」

「まあね。といってもあの店なら返せない金額じゃない……んだけれど、それは年月をかければという注釈がつくかな」

「なるほどね。刀魔混流がそんな悠長に期限を待つはずがないと……ありそうね」

「きっちりと期日を明記した契約だったら良かったんだろうけれどね」


 残念ながらこの世界の金貸しは、現代日本ほどしっかりとした契約に基づいて業務しているわけではない。

 場合によっては徳政令的なことがいつ起こってもおかしくはないので、しっかりと期限を区切った契約をすることのほうが珍しかったりする。

 というわけで、あのお店は刀魔混流からいつ「金を返せ」と言われてもおかしくはない状況にあるというわけだ。

 いわれてすぐに返せるだけの資金があの店にあればいいのだけれど、そもそもそんなお金があればとっくに返しているだろうと思う。

 

「どうしようもないわね。――あの店に確認しに行くのでしょう?」

「折角の人気店、潰したくはないからね。アンネリもそうだよね?」

「そうね。でもお金を出すことになるのはキラなんだから、私は一緒についていくだけよ?」

「それで十分だよ。女の人も一緒にいてくれたほうが、多少は信用もしてくれると思うからね」

「そこは『多少は』なんてつけなくてもよかったと思うわよ?」

 

 わざとらしくジト目で見てきたアンネリだったが、お互いに本気で言っているわけではないとわかっているのでそこで話は終わった。

 あとはその報告をもとに行動に移すべきだと、例の店に向かうことにしたのであった。




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m(__)m

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