(17)探索開始

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 北斗一刀流への指導を開始してから一週間ほど経っていた。

 この日はダンジョン探索を行う予定になっているのだけれど、一点だけいつもと違ったことがあった。

 それが何かといえば、北斗一刀流の門下生が二人加わっているのだ。

 二人とも道場で初めて数政老人と会話したときにいた人で、当然のように師範としての資格を持っている。

 この二人がいる理由は二つあって、一つは数政老人が見たように俺たちのダンジョン探索の仕方を確認させたいということで、もう一つは指導に対する礼の一つとなる。

 二人は一人が年が二十代前半と若めで、もう一人が三十台となる。

 二十代のほうが三郎で、三十台は政宗と紹介された。

 北斗一刀流というよりは数政老人の思惑としては、俺たちがやっているサポーターを含めた探索の仕方を学ばせるという目的もあるらしい。

 

 ダンジョン探索のやり方は別に隠しているわけではないので、同行者が増えても問題はない。

 むしろどちらも刀を使って戦うということで、前衛が増えることのほうがこちらにとっては実りが多くなる。

 せっかくなので二十層まで探索をしたいと提案したところ、数政老人からこの二人を紹介されたというわけだ。

 逆に言えば二人とも二十層まで行けるだけの実力はあるということだろう。

 

 普段より二人増えたこととマキムクダンジョンでは初めての長期遠征ということで、今回は例の馬車を導入しての探索となる。

 高性能な馬車を見られることになるけれど、もし足利家を含めた上層部に報告されたとしてもシーオ以上に問題はないと考えている。

 いざとなれば、タマモなりルファなりに出てきてもらうつもりでいる。

 もっとも数政老人の様子を見る限りでは、そこまでの事態にはならないとも考えている。

 

 北斗一刀流の二人は馬車の性能に驚いたりしていたが、それはいつものことなのでさらりと流して終わっている。

 マキムクダンジョンでは十層ごとに転移陣が用意してあって短縮できるようになっているが、馬車を利用する場合は人だけのパーティとは別のものを使うことになっている。

 それは何かダンジョンとしての特別な理由があるからというわけではなく、大きくて場所を取りがちになる馬車組と分けることでより多くの冒険者を利用できるようにしているためだ。

 これもまた一週目の人生の時にルファから相談を受けた内容であり、どうすれば多くの冒険者をダンジョン内に取り込めるかを考えた結果で気づけばこうなっていた。

 

 そして第一層にある転移陣を超えて第十層から第十一層に移動しようとした時に、アンネリがこんなことを言い出した。

「新しく参加しているお二人に言いますが、まずは見ていてください。そして見るべきはキラの魔法ではありません」

「どういうことでありますかな?」

 唐突すぎるアンネリの言い分に、政宗さんが困惑した様子で聞き返していた。

「はっきり言ってしまうと、キラやオトが使う魔法は異質すぎて参考にはなりません。見ていれば分かりますが、おそらく二十層までは前衛はただの作業にしかなりませんから」

「……どういうことですかな」

「ここで言葉でどうこう言うよりも、戦うところを見てもらったほうがはやいとおもいます。見ればすぐに理解できると思いますので、まずは向かいましょうか」

 同じ問いを繰り返した政宗さんだったが、アンネリは具体的なことは何も言わなかった。

 言葉通りに見たほうが早いということなのだろう。実際にその通りなので、俺からも何か言うことはない。

 

 ――そして第十一層で戦闘が行われた後のこと。

「なるほど。十分に理解いたしました。確かにこれは参考にはなりませぬな」

「な、なんなんですか、今の魔法は!?」

 諦めにも似たような言葉で政宗さがそういい。三郎さんは多少大げさにいえば、目が剥きそうなくらいに驚いていた。

「だから言ったではありませんか。キラやオトが使う植物の魔法は、はまれば相手が何もできなくなってしまうので他のメンバーの役割は後処理だけになります」

「……はまるということは、はまらないこともあるというわけですな?」

「それは当然です。ただしまだ結果は見ていませんが、おそらくキラの場合二十層までは何の問題もなくクリアしてしまうかと思いますよ」

「その先になったら今の魔法は使えないということでしょうか?」

 驚きっぱなしの三郎さんはおいておくとして、政宗さんはすぐに現実的な方向で考え始めていた。

 

 この辺りは人生経験の差というべきなのか、すぐに切り替えできるというのはそれだけ色々な経験を積んでいるということがわかる。

「そうなります。今回は目指すところが二十層なので、キラが本気で動けばほとんど出番はないということになります」

「困りましたね。そうなると私たちがここまで来た意味が……」

「ですから宗主も連携をよく見るようにと言ったのだと思いますよ。それに今は初めてだったのでお見せしましたが、これからしばらくキラが動くことはありません」

「することがなくなるからですか」

「それもありますが、子供たちの訓練にならないからですね。今のメインはあくまでもそちらですから」

 今回も子供たちがメイン出来ていることには違いがない。

 ただし戦闘も行うがそちらはメインではなく、今回はサポーター役をメインにしてもらうつもりだ。

 数政老人もそれを見せたがっていたので、ちょうど良いだろうと考えている。

 

「子供たちがメイン……ということは、あなた方は?」

「もちろん参加しますよ。特に十五層あたりからは子供たちが前に出ることもなくなるでしょうから」

「それはでは我々は子供たちのサポートになりますか」

「戦闘以外にもやることはたくさんありますから、意外に忙しいですよ」

 特に俺に関しては戦闘に参加するとそれだけで終わる可能性があるので、ダンジョン内での仕事はサポーターとして動くことが多い。

 全体に目を通して指示を出すということもやっているが、もう既に何度か通っているので声出しをしなくても動けるようになっているのだ。

「お二人はしばらくこちらのやり方を見ているのがいいと思います。どちらにしても戦闘に参加してもらうのは後半からになるでしょうから」

「それは何とも……いいのか悪いのか判断がつきませぬな」

「うちはかなりやり方が特殊ですからね。まずは見てもらってそれを学んでもらうことが仕事とお考え下さい」


 そもそもが、最初のうちは戦闘員としては考えていなかったので全く問題ない。

 数政老人もそのことは考慮に入れていたので、それで構わないと言っていた。

 今二人が戸惑っているのは、あえてそのことを二人に言っていなかったからだと思われる。

 何もかもを言葉で教わるのではなく、自分の目で見て確かめろということを実践しているのだろう。

 

 とにかくそんな前置きから始まった第十一層の攻略だけれど、最初は感心だった二人の表情が真剣なものに変わるのはすぐだった。

 戦闘そのものだけではなく、その後のサポートも含めて全ての流れが手早く終わらせられるようになっていると理解したのだろう。

 驚きの言葉もなく真剣な表情でこちらのやり方を見ているその様は、数政老人が言わんとしていたことを理解しているように見えた。

 これから先には二人にも戦闘に参加してもらうことになるけれども、この分だと子供たちがいる『意味』をしっかりと理解してくれるはずだと安心するのであった。




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m(__)m

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