(16)修練開始

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 北斗一刀流の人たちに瞑想のやり方を教えることにしたのはいいけれど、何も付きっ切りで教えるつもりはない。

 そもそも数政老人を始めとした門下生たちも、そんなことは望んでいないようだった。

 彼らは彼らなりに瞑想を行っていたので、全くの素人に教えるわけではない。

 その普段行っていた瞑想に加えて魔力を意識して動かすということを理解させればいいのだから。

 問題なのは、意識的に動かしている魔力をもう一度無意識に扱うことができるようにすることなのだが。

 矛盾しているようだけれど、実際に必要なことなのでこればかりは言われても仕方ない。

 瞑想をしている最中に魔力を動かすようにするためには、どうしても最初の内は意識的にしなくてはできない。

 ただそれだと瞑想をするという行為から離れることになってしまうので、今度は無意識化でも同じことができるようにするのである。

 

 ――と、一応ここまでは口で説明をしたのだけれど、門下生の人たちの理解は半分といったところだろうか。

 頭では理解はできていても、実際にやるとなるとどういうことになるのかよくわからないという感じだった。

 さすがに剣術の門下生だけあって、先に頭で理解するよりも一気に体で理解してしまおうという体育会系的なノリがある。

 どちらにしても、それでできるようになればいいのでやり方にこだわるつもりはない。

 

 そんなことを話しているうちにいつも間にか夜になっていたので、夕飯を頂いてから彼らとの話し合いを終えて拠点に戻った。

 今後の予定に北斗一刀流の道場に行って瞑想のやり方を教えることが加わったけれど、先の予定が大きくずれたというわけでもない。

 北斗一刀流に瞑想を教えることは勝手に決めたことだけれど、アンネリやアイリは特に問題ないと笑っていた。

 彼女たちも、今後刀魔混流と何かしらのいざこざが起こる可能性があるかも知れないことをきちんと理解しているのだろう。

 

 それから数日は今まで通りダンジョンに通ったりして、普段通りの行動をしつつ道場に通う日々が続いた。

 北斗一刀流の面々に行う指導は瞑想だけなので、そこまで多くの時間が割かれているわけではない。

 というよりも、数政老人と数名はある程度の基本は出来ていたので、あとは魔力の扱いを意識させるようにすればよかった。

 そこまでできれば元々名のある道場を開いている実力者たちだけあって、自分たちで試行錯誤するという能力にも長けていた。

 

 瞑想しながら魔力を自在に扱えるようになれば、次は無意識下で出来るようになればいいわけだが、ここでオトとクファに登場してもらうことにした。

 道場の門下生たちの視線にさらされながらも物おじせずに興味深げにキョロキョロと見回していた二人は、すぐにこちらを見て聞いてきた。

「ここで瞑想をすればいいのですか?」

「うん。ちょっと人目があるけれど、できる限りいつも通りにやるように。これも修行の一つかな」

「わかったー!」

 元気のいいクファの返事に思わず和んでしまったが、どうやら門下生たちも同じ気持ちになったらしい。

 これから見本を見せてくれる相手だけに、何とも言えない顔つきでこちらを見ている。

 

 オトとクファを彼らの手本に選んだのは、二人の瞑想レベルが丁度いい段階のところにいるからだ。

 そのことは既に説明しているので、子供だからと不満を表に見せるような門下生はいなかった。

 そんな雰囲気が良かったのか、オトとクファの二人は周囲の視線にも関わらずいつものように瞑想を開始した。

「ホウ……」

「これは……」

 すぐに集中状態に入った二人に、そこかしこから感心する声が上がる。

 

 声を上げた者たちに周囲の一部から非難めいた視線が飛び交ったけれど、俺はすぐに問題ないと首を振った。

「この状態になったら多少なら声を出しても大丈夫ですよ。さすがに大声とかは駄目ですが」

「それはまた……本当にすごいの」

 俺の説明に、数政老人が小声ながらも感嘆の声を上げる。

 

 二人が瞑想をするようになってから数か月経っているが、それを「まだ」と評価するか「もう」と評価するかは意見が分かれるところだ。

 単純な瞑想としてはかなり高位の段階にいるのは門下生たちの反応を見ても分かるのだけれど、魔力操作という点で見ればまだまだといった段階だからだ。

 もっとも年相応化と言われれば間違いなくトップレベルの段階にいるだろうし、既に実戦レベルで戦えているだけあって魔力操作自体もレベルが低いわけではない。

 要はどこに基準を置いているかが問題であって、二人の魔力操作は決して低レベルというわけではない。

 

 精神集中を主とした瞑想を実行してきた門下生たちから見れば、オトとクファの瞑想はレベルが高いといえるのだろう。

 付け加えるとそのことが分かるというだけで、彼らのレベルがそれなりにあるということがわかる。

 少なくとも、他人の瞑想を見ても全く判断ができないほどではないレベルということになる。

 さすがに普段から剣術を教えているだけあって、しっかりとその辺りを考慮して集められているのだろう。

 

「年齢の割にはということになるのでしょうが、自慢の子たちですよ。本人たちにはまだ言えませんが」

「ふむ。先ほどの様子を見ている限りでは増長するようには見えんが、確かにほめ過ぎはいかんか」

 こちらの教育方針を理解してくれたのか、数政老人はそれだけを言って周囲を見回した。

 それだけで彼が何を言いたいのか周りにいた門下生たちは理解したのか、表情を引き締めた。

 自分たちが驚いている顔をしているのを見てオトとクファの気が緩むことを警戒したのだろうが、まだ瞑想状態にあるので見られてはいないはずだ。

 それよりも数政老人のそれだけの動作で、門下生たちが一斉に引き締まることのほうが驚いてしまった。

 それだけ数政老人が門下生たちに慕われていると同時に、しっかりと統率していることが分かる。

 

「それはいいとして、しっかりと二人の瞑想を見てくださいね。はっきり言いますが、特に魔力操作に関しては子供たちのほうが優れていますから」

「うむ。何がといわれると答えられんが、確かに二人のほうが上だということがわかるな」

「一応この後、私もやって見せますがどちらかといえばそっちはパフォーマンスだと考えてください。いきなり目指しても無理なものは無理なので」

「うむ。そうやってはっきり言って来るのがお前さんらしい。だが、言っていることは本当なのだろうな」

 これまで魔力操作について簡単に教えてきたこともあってか、数政老人はこちらの教え方というのを理解しているようだった。

 それに彼自身も多くの門下生に教えてきただけあって、あまりに差がある技術を見せても意味がないということは理解できている。

 

 オトとクファの二人は、放っておけば一時間以上もこのままの状態で瞑想を続けられるようになっているので、今回は十分程度で止めておいた。

 一応門下生たちには、二人が長時間続けられることを伝えた上で。

 今はあくまでも上のレベルがどういった状態なのかを見せるために行ったものなので、そこまで長時間する必要はない。

 ここに集まっている門下生たちもそれぞれに師範の資格を持っている者たちらしいので、その意味はきちんと理解できているはずだ。

 

 ついでに数政老人に言ったように俺自身も瞑想を行ってみたが、こちらは本当にパフォーマンス程度にしかならなかった。

 集まっている者たちもさらに上のレベルにあると理解できたようで、まず目標に据えるべきはオトとクファの二人だと認識してくれたようだった。




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