(15)瞑想

§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§




 北斗一刀流の困っている人たちに助言することに決めたのは、何も親切心からだけではない。

 今のところ騒いでいるのは下っ端らしき者たちだが、刀魔混流と何かあったときに手助けしてくれるのではないかと期待してのこともある。

 それが無理だとしても、この助言が何らかの『借り』にでもなってくれたらいいなと願っている。

 そんなこともなく無視されたとしても、それはそれで構わない。

 社会全体の戦闘レベルを上げるという目的を達成するために小さな一歩となるのであれば、それはこちらの利になることだと思う。

 

 そんな一通りの言い訳を心の中でしておいて、数政老人を見た。

「私が見たところここにいる皆さんはそこまでお困りではないと思うのですが、どのあたりを目標にされているのでしょうか?」

「む……? そうだな。出来ることなら三十層を超えたいといったところかの」

 数政老人の言葉に、周りにいたうちの数人が頷いていた。

 一番若い門下生は少し不満そうな顔になっていたが、それでも反論をする様子はなかった。

 

「三十層ですか。なるほど、確かに物理だけだと困るような階層ですね。それでもここにいるメンバーに魔法使いを数人混ぜれば超えられないとは思いませんが……」

「どういうことだ?」

「どうもこうもありませんよ。はっきり言いますが、剣術と魔法を両立させること自体は否定しません。ですが、剣術一本だけで鍛えても別に劣るわけではないと思いますよ」

「だが実際に目に見えて差が出てきていることは確かだ」

「それは皆さんが進むべき方向を迷われているからでしょう。余計なことでなければ、その後押しができると考えております」

「それは是非、話を聞くだけでも聞いておきたいの」


 そう言いながら力のこもった視線を向けて来る数政老人と同じように、周りにいた重鎮(?)たちも熱心にこちらを見てきた。

 唯一反発するかもと考えていた一番若い者も、興味深げにこちらを見ている。

 彼らの態度は教えてもらって当然というものではなく、頭を下げてでもくらいついて行きたいという気概が感じられた。

 それだけ剣(刀)の道を極めていきたいという強いを感じることができたので、今の状態の殻を破るようなことを教えることに決めた。

「数政宗主を始めとして皆さまはダンジョンの経験が豊富なようなので、連携とか細かい話は省きます。問題なのは刀の力だけでは超えられない相手が出て来るということですが――」

 こちらで見ている限りでは、数政老人を始めとして数人は既にその壁を越えられそうなところまで来ているように見える。

 具体的にいえば、刀に魔力を乗せて相手を斬る技術といったところか。

 それは魔法剣士とはまた違った技術であり、彼らのように刀の技を極めてきた者たちにとっては必須の技術ともいえる。

 もっともこんな偉そうなことを意見できるのは、剣を使うプレイヤーたちが長い間研究を続けてきて分かったことで、それを情報としてインプットしているからこそだ。

 

「――刀に魔力を乗せるといっても簡単なことではありません。それこそ手足と同じように使えるようになっていなければならないのですが……それは剣の扱いが未熟な私よりも皆さまの方がよくご存じだと思います」

「いや。お主も言うほど悪くはないのであろう? それはともかく刀に魔力を乗せる、か。何度か試そうとしたことはあるのだがの」

 数政老人のその言葉に、幾人かの門下生たちの視線が集まった。

 その驚きに交じっていない二人ほどは、数政老人ほどではないがその道に気付いていて修練を積んでいるように見える者たちだ。

「一つ質問ですが、北斗一刀流には瞑想は伝わっていますか?」

「うむ。技と同時に心を鍛えるということで、ある程度の技術を身に着けた者には伝えておるの」

「なるほど。もしかすると代々伝えていくうちに気付いたのか、あるいは当初からあったのかもしれませんね。刀に魔力を乗せる技は」

「む……? ということは、まさか瞑想が?」

「ええ。一言でいえば瞑想は、魔力をより明確に扱うための魔力操作を覚えるために必要な技術なのですよ。刀と同じように正しく修練しないと駄目なのは当然ですが」


 むやみやたらに刀を振っていても上達しないのと同じように、瞑想もただ座っているだけでは魔力操作は中々上達しない。

 魔力操作を一番早く上達する方法は、やはりしっかりとした師について教えてもらうことだとオトやクファを見ていて感じるようになっていた。

 彼らにも瞑想は伝わっていたというが、その訓練の教えがどこかで途切れてしまったのかもしれない。

 それこそ刀の振り方と同じで、基本的な技術だけにそこまで細かいやり方があるわけではない。……だからこそ習得するのに時間がかかるともいえるのだが。

 

「瞑想か……儂らのやり方は間違っていたということかの」

「間違っているというか、やり方を知らないだけだと思いますね」

「どういうことだの?」

「瞑想には大きく分けて二種類あるのですよ。一つは恐らく皆様方がやられているものと魔力操作を学ぶためのものと」


 その言葉に北斗一刀流の面々は、揃って驚きの顔になっていた。

 北斗一刀流では後者の魔力操作をするための方法が伝わっていなかったようだけれど、前者のものは伝わっているようだった。

 前者の瞑想が何かというと、精神こころを落ち着かせるために行うためものといえるだろうか。

 突き詰めていくともっと他にもできるようになるのだけれど、大雑把にいえばそんな認識で間違っていない。少なくともこの世界においては。

 

「――そういうわけで、心を鍛えるのか魔力を鍛えるのかが違っているのですよ。残念ながら私はまだその境地には至っていませんが、瞑想を行っていると両方を突き詰めていくことも可能なようです」

「………………そうか。まだまだ至れる道はあるというわけか」

 一応の説明を終えると、数政老人は悲しいのか嬉しいのか何とも複雑な表情を浮かべた。

 すぐ傍にヒントがあったのに気付けなくて悲しかったのと、まだまだ進むべき道があると分かったことによる喜びが同時に表に出たという感じだった。

「――しかし魔力の操作となると、いささか未知の分野過ぎての……」

「ご心配には及びませんよ。さすがにここまで話してあとは頑張ってくださいと言うつもりはありません。もっとも基礎であり、もっとも重要な技術についてはお教えいたしますから」

「それは、感謝いたす」

 ここまで話しておいて、後は頑張ってとほったらかしするつもりは最初からなかった。

 そのことを告げると、数政老人は深々と頭を下げて周囲にいた者たちも一斉に同じことをしてきた。

 

 それを見て仰々しいなと一瞬考えてしまったが、それだけ彼らはこの話に光明を見ているのだろうとも感じた。

 これはあくまでも俺が見た感想ではあるが、魔力の扱いにもう少し長けて来ると本当に一殻剥けるくらいのところまで来ているように見える。

 もしその殻を剥くことができれば、もしかするとプレイヤーでいうところの『解放者』のレベルに到達できる可能性もある。

 逆にいえば数政老人を含めた数人は、刀の技術だけでそこまで到達しているともいえる。

 

 彼らは彼らなりの歴史があってここまで来ているのだから、少しきっかけさえ与えればこちらが望んでいるレベルにまで到達してくれそうな気がしている。

 それこそ『世界全体のレベルを上げる』という目的に到達するための一歩になりそうな気がしているので、ここは少しばかり手助けをするつもりになっている。

 あとはどんな予定で進めるべきかを含めて、改めて具体的に話をする必要がある。




§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§


是非ともフォロー&評価よろしくお願いいたします。

m(__)m

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る