(14)北斗一刀流

§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§




 ダンジョンから戻った俺たちは、数政老人の誘いを受けて彼のいる道場へと向かった。

 始めて会った人物の誘いを受けることにしたのは、数政老人が間違いなく北斗一刀流の宗家だと分かったからだ。

 北斗一刀流は、例の騒ぎを起こしているごろつきたちが所属している刀魔混流と同じ御用道場の一つ。

 ただし十年ほど前までは北斗一刀流の方が勢いがあったらしいが、今は刀魔混流のほうが上だと言われている。

 数政老人を見た感じでは全く気にしている様子はなかったけれども、まだ一回しか会っていないので何とも言えない。

 勢いが落ちたといっても御用道場の看板を外されたわけではないので、気にしても仕方ないと考えているのかもしれない。

 その辺りのことを含めて、今回の招きに応じた話し合いで探っていければいいなと考えている。

 できれば例のお店の騒ぎに関しても彼らの力が借りられればいいとも思わなくはないが、別の流派が関係することで余計混乱しそうな気もするので、あくまでも流れに身を任せる感じでいこうと思う。

 

 そして招かれて向かった北斗一刀流の道場は、さすがにマキムクの町の中でも一、二を争うほどの力を持っていたと言われるだけあって、かなりの大きさがあった。

 さらに土地の広さだけではなく、一家が暮らしている屋敷や道場の一番の要である修練場に至るまで名のある武家だと言われてもおかしくはないくらいの規模だ。

 ただ大きい規模に反してというべきか、決して贅を凝らした造りになっているというわけではなく、あくまでも武の道を極めるためのもののように見える。

 北斗一刀流は数政老人が起こした流派ではなくかなり前から続いているので、代々の宗家が真面目(?)に武の道を進んでいたことがわかるような雰囲気になっている。

 

 宗家からの招待に応じて来たのは、アンネリ、アイリといつもの眷属二人だ。

 さすがに子供たちは相応しくないだろうと考えて、ハロルドとヘリと共にお留守番ということにした。

 屋敷の門前について門番に話をすると、それだけですんなりと通ることができた。

 屋敷の中に入るまでは幾人かの門下生らしき者たちとすれ違ったりしたけれど、少なくとも招かれざる客という感じは受けなかった。

 それでも興味深そうに視線を向けて来るのは、仕方ないと思う。

 むしろ異分子ともいえる俺たちが来たことで、全くの無反応というほうがおかしいだろう。

 

 案内役の門下生に通された部屋は、十畳ほどの小さめの部屋だった。

 最初はそこで話をするのかと考えていたのだけれど、そこはあくまでも待機場のような場所だったらしく五分ほどでまた別の場所へと案内された。

 そこは少し大きめの座敷になっていて、中央に数政老人が座ったうえで彼を挟むようにしてコの字型になって合わせて七人の人物が座っていた。

 案内されて部屋に入った俺たちを見たその視線を見た限りでは、皆がそれなり以上の腕をしていることがわかる。

 中には二十台前半だと思われる者もいるが、実力のある者が呼ばれているのだろうか。

 

「わざわざ済まなかったな。後々食事も出るので、このような形にさせてもらった」

「私たちは構いませんよ。むしろそこまで仰々しくなくともよかったのですが」

「ホッホ。そういうわけにもいくまい。儂らのような者は、実力者に対して間違っても舐めるような態度を取ってはいかん。お互いに引けなくなる場合もあるからの」

 それは長い間武闘者として生きていた者としての教えなのだろうか、声に籠った実感のこもった響きを聞いて素直に一度だけ頷いておいた。

 逆らうつもりは最初からないのだけれど、年上の助言として素直に聞いておくべきだと思えたのだ。

「ここまでしていただけたことは、ありがたく存じます」


「うむ。こちらとしても、そこまで固くなってもらう必要はないのだがね。やはり少し仰々しくし過ぎたか」

 数政老人が、ちらりと隣に座っている年が近しいと思われる別の老人に視線を向けた。

 恐らくその老人が、このような形式で迎えるようにと進言したのだろう。

「いえ。驚きはしましたが、歓迎する気持ちはあると理解しております。今のままで結構ですよ」

「そうか? ではこのまま続けさせてもらおう。といっても儂としては普通に話をしたかっただけで、堅苦しいことを聞くつもりはなかったのだがの」

「いえ。聞きたいことがあるのなら今のうちに聞いていただいて構いませんよ。勿論、答えられることと答えられないことがありますが」

 わざわざこれだけの人を集めて話をしようとなっているのだから、そういうことだとわかる。

 折角なのでこちらも流派のことについて聞きたいことがあるので、丁度いい機会ともいえる。

 それに、こちらはユグホウラ関連以外について特に隠すようなことは何もないので、質問に答えることはできる。

 

 それから始まった会話では、道場側からは主に子供たちのことについて――というよりも子供たちがやっているサポーターのことについての質問がされた。

 こちらの探索の様子は数政老人から聞いているのか、より詳しく知りたいという熱意さえ感じられた。

 一歩引いてみれば何かのきっかけを欲しがっているようにも見えたが、それについては深く聞くことは止めておいた。

 北斗一刀流が最近落ち目にあるという話は噂話として聞いているので、新しく出来ることを探しているのだろうという印象を受けた。

 

 当然、話はこちらに対しての質問だけではなく、こちらから道場側にも質問をしている。

 特にこの地での道場、特に御用道場についてアイリが知らなかったことまで聞けたことはかなり興味深かった。

 アイリはどのようにして御用道場が選ばれているのかまでは知らなかったのだが、どうやらマキムクにある道場の中でよりダンジョンで活躍している道場が選出されるらしい。

 というのがあいまいな基準だと思えてならないけれど、そこを突っ込むと運用している足利家にまで及ぶので誰も問いかけるようなことはせず道場にいる者たちでも細かい基準は分からないそうだ。


 流派についても特に隠していないのか、大まかに教えてもらえることができた。

 一言で言ってしまえば、刀魔混流は刀の技と魔法を混ぜて戦う流派で、北斗一刀流は魔法は使わず鍛えた肉体でのみ戦おうとする流派になる。

 勿論北斗一刀流であってもダンジョンに潜る時には魔法使いを連れて行くので、魔法は絶対に駄目というわけではない。

 あくまでも流派として鍛えているのが、刀の技だけになるらしい。

 

 魔法と併用して鍛えている刀魔混流は、ダンジョン内において適宜状況に応じて戦える幅が広くなるのは間違いない。

 それに対して悪くいえば刀一本だけで戦おうとする北斗一刀流は、融通が効かずに進める道も狭くなる……というのがここ最近での世間一般の認識らしい。

 そういったこともあって門下生の数が一時に比べれば減ってきており、結果として噂の通りに落ち目だと言われる原因になっているようだ。

 そんなことまで客人である俺たちに、しかも初めて会うような相手に話したことに驚きを禁じ得ない。

 ここに集まっている北斗一刀流の上層部でも、焦りのようなものがあるということだろう。

 ただ単に己の流派の弱点を認めて、開き直っているだけとも言えなくもないのだが。

 

 先ほどサポーターについても詳しく聞いてきたのは、ダンジョン内での結果を上げるためにどうすればいいのかを模索していたからだ。

 魔物からの採取を専門化してしまうという考えは彼らにはなかったようで、かなり参考になったと喜ばれた。

 とはいえそれが根本的な解決にならないことは、彼らも十分に理解しているはずだ。

 表には出していないけれどどうにかしたいという考えはありありと見えているので、よそ者である俺が口を出すべきか少し悩んでからちょっとした助言をすることに決めた。




§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§


是非ともフォロー&評価よろしくお願いいたします。

m(__)m

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る