(4)子供たちへの指導

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 オトとクファだけで行われた初戦闘は、結果からいえば特に大きな問題もなく無事に終わった。

 倒した相手は一体で周囲はがちがちに見張りがついての戦闘ではあったけれど、自分たちだけで倒せたという事実は自信に繋がるはずだ。

 一体の相手に集中するあまり周りが全く見えていないとか、使う魔法の選択が甘いとか、色々と言うべきところはあるが、それは追々教えていくことになる。

 一番知ってほしかった魔法職だけで戦闘をするには、特殊な戦いかたが必要だと分かってもらえただけでも十分な収穫になっている。

 現在の『大樹の頂』は、魔法職に偏っていて前衛がほとんどいない。

 このほとんどというのは、魔力操作のやり方を覚えたハロルドが前衛として復帰できるようになったことが含まれている。

 年と共に筋力やスピードが衰えていたらしいのだけれど、魔力操作を覚えて魔法でそれらを補助できるようになった結果、以前と同じような動きができるようになってきたらしい。

 ハロルドには俺たちには無い多くの経験があるので、現役並みの強さで復帰できたことは『大樹の頂』への大きな戦力の補充となっている。

 

「――こんなものかな?」

「そうですね。ダンジョン内での戦闘としては十分すぎるほどの出来です。周囲が見えていないのは問題ですが、数をこなせば慣れていくでしょう」

「わざと乱入させるのもありかな?」

「まだ必要ありませんが、あと数回戦闘をこなしてそれでも治らないようであればやってもいいでしょう」


 ハロルドと相談しつつ今後の予定を決めていく。

 今日の探索は完全にオトとクファの訓練と決めているので、それ以外のメンバーはのんびりとしたものだ。

 ダンジョン探索経験の少ないアイリは、興味深そうにダンジョン内を確認している。

 もっとも彼女はフィールドでの戦闘に慣れているので、オトとクファほどぎこちない動きをしているわけではない。

 

「――しかしこれほどのサポートを受けながらダンジョン探索できるとは……」

「少しやり過ぎかな?」

「いいえ。むしろやるべきです。少しばかり増長しないように気を付けないといけませんが、それもいずれは慣れていくかと思います」

「ダンジョンに限らず魔物との戦闘に油断は禁物だからね。……匙加減が難しいなあ」


 魔物との戦闘に危険がつきものなのは誰でも知っていることだが、頭で分かっていても周囲に危険がなければつい忘れがちになってしまう。

 それを経験で補っていくのが普通なのだけれど、オトとクファは周囲の補佐がある状態なので経験を積むことすらしていない。

 いつかはその危険を教えるために乱暴な手を取らなくてはならないのだけれど、その状態にするための機会を間違えるとそもそも使い物にならなくなってしまう可能性もある。

 この辺りは教え導く者としての責任となるのだろうが、やはりこれも経験を積んでいくしかないのだろう。

 

 その後、小休憩を挟んだりしながら何度か戦闘をこなして行くうちに、二人は完全に戦闘に慣れてきていた。

 とはいえ周囲の観察が足りていないのは相変わらずで、時折他の場所から魔物が来ていることに気付いていないことが何度かあった。

 それでも朝と比べるとはるかに進歩しているのは間違いない。

 それから敢えて隙を作って追加の魔物を増やすということを繰り返していった結果、棚ぼた的に連携するということも覚えてきているようだった。

 

 オトとクファの戦闘方法は、オトが完全に後衛となっていてクファは時折前衛が混じる魔法使いとなっている。

 クファが前衛になる時があるというのは、二人の魔法だけでは倒しきれないこともあるからで、事前に話していたことなので慌てることなく対処出来ている。

 むしろオトのメインの魔法となっている枝根動可が不発になった時は、ほぼクファが前衛になって対処している。

 それでいいのかと思わなくもないが、魔法というものがあるので性別の違いによる動きの差はない世界なので他のメンバーは全く気にした様子はない。

 

 今回はオトとクファの陰に隠れる形になっているトムは、完全にサポーターとしての仕事を淡々とこなしている。

 むしろその技に磨きがかかっているように見えるのは、決して気のせいではないだろう。

 トムの動きを見てハロルドが感心する様子を見せていることからも、十分すぎるほどの役目をこなしていることがわかる。

 今いるのは第二層なのでそこまで強い敵が出て来るわけではないが、それでもこれだけの戦闘をこなせているのは確実にオトがいるからというのは大人組全員が分かっていることだ。

 

 ハロルドはオトとクファの指示役として動いているからあまりサポーターとして動けていないのだけれど、その代わりにヘリがサポーターとしての能力を伸ばしてきている。

 アンネリの護衛でもあるヘリは前衛をこなせるのだけれど、今回はあまりその役が回って来ていないので、積極的にサポーターの仕事をしている。

 討伐した後の魔物の身体から魔石を取る作業はやはり慣れが大きいらしく、ヘリでさえもトムの速さにはついていけていない。

 余談ではあるが、俺やアンネリ、アイリなんかは、全く足元にも及ばないのは言うまでもない。

 

 各々がそれぞれ予定していた通りに動きながらダンジョンを進んでいたら、午後には第三層に移って戦闘をしていた。

 そこでもオトとクファがメインで戦っていたことは言うまでもなく、特に大きな問題も起こらずに訓練の終了時間を迎えていた。

 思っていた以上にオトとクファが動けるようになったこともあって、予定していた以上の結果になったことは喜ぶべきことだろう。

 特に当人たちは、周囲の機嫌がいいこともあってか、興奮冷めやらぬ様子で帰りの道を警戒しながら歩いていた。

 遠足は帰るまでが遠足ではないけれど、無事にダンジョンの入口についてホッとした様子を見せたのはやはり緊張もしていたのだろうと思う。

 

 とにかく初めてのマキムクダンジョンの攻略は、予定以上の成果を上げて終えることとなった。

 ……それはいいのだけれど、ダンジョン内で得た魔石や素材をギルドで売り払おうとしたところで、ちょっと気になることが起こった。

 流石に全員でいくこともないだろうとほとんど動くことのなかった俺とアンネリでそれらの品を持って受付まで行ったのだが、そこで受付嬢があからさまにがっかりした表情を浮かべたのだ。

 どう見ても「たったこれだけなのか」という顔には、Bランクのくせにという文字さえ浮かんでいるように見えた。

 アンネリもそのことに気付いてはいたようだけれど、それに対して何かの指摘をすることもなく、換金自体は事務的に終えた。

 換金を待つ間、受付嬢は殊更こちらを無視するような態度を取っていたことも気になっていた。

 

「――何故この程度の働きしかしないのにBランクなのかというところかしらね」

 ギルドの外に出て少し歩いてから、アンネリが少しばかり不満そうな表情を浮かべながらそう言ってきた。

「それもあるけれど、どちらかといえばやはり大陸出身かという思いもあるんじゃない?」

「ああ。それもあったわね」

 ヒノモトの冒険者は、大陸にいる冒険者よりも一段上の強さにある。

 そのことは冒険者ギルドでも語られているようで、特にマキムクダンジョンのお宝を求めて多くの冒険者が集まっているこの町ではその思いが強いのかもしれない。

 

 今回は子供たちへの指導が優先だったので特に腹立ちはしないけれど、あのギルド嬢の態度には少しばかり思うところがある。

 もっとも全ての受付嬢がそうであるわけではないとも思うので、一々気にする必要もないともいえる。

 とにかく最後の最後にちょっとばかりケチを付けられる結果になったが、始めてのマキムクダンジョン探索は無事に終えることとなった。




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m(__)m

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