(5)ギルド(嬢)への対応

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「態度のよろしくないギルド職員、ですか」

 俺とアンネリの話を聞いて、アイリが表情を曇らせていた。

「まあ、Bランクにしては稼ぎが少なかったからね。分からなくはないけれど……ここらの高ランク冒険者は、気分転換とかで潜ったりはしないのかな?」

「もしかするとあまり低ランクの狩場を荒らすのは良くないと思われているとか?」

 ギルドの依頼は、高ランク冒険者が低ランクの依頼を受けるのはよろしくないとされている。

 それは低ランク冒険者が育たなくなるからという理由からだが、もしかすると狩場も似たような考え方がされているのかもしれない。

 そう考えて言った言葉だったが、アイリは首を左右に振った。

「少なくとも私はそのような『常識』は聞いたことがありませんわ。マキムク独自のルールだと言われるわかりませんが……」

「どっちにしても今回たまたまだったかもしれないし、とりあえず話の種ということで笑っておくことにしようか」

 ちょっとした話題のつもりでした話だったので、あのギルド上の態度を問題視するつもりは今のところはない。

 

「続くようでしたらどうされるおつもりですか?」

 ハロルドが少し怒った様子でそう聞いてきたのは、俺たちが軽んじられたと感じているからだろう。

「どうしようかね。どっちにしても色々と出来ることはあるんじゃない? 全体でそうなのか個人だけの問題なのかということもあるし」

「そうね。どうせキラのことだから実績を見せて黙らせるとか、何も言わずに町からいなくなるとか、いくらでも対応できるでしょう」

「自由な冒険者だからこそだよね。別にこの土地にこだわる必要はないわけだし。いつでも見捨てることはできるからね」

「ある意味それが一番怖いのかもしれませんわね」

 笑って誤魔化そうとしたが、何故かアイリからは呆れ半分恐れ半分といった感じの視線を向けられてしまった。

 

 アイリの言いたいことも分からなくはない。

 一応ユグホウラの中でも特殊な立ち位置にいる俺から見捨てられると、その土地の権力者――この場合はアシカガ家にとってはあまりよろしくないことになりかねない。

 勿論あのギルド嬢はそうした事情を知らないからこそあんな態度を取ったのだろうが、それを考慮してあげる必要は全くない。

 アシカガ家にあのギルド嬢のことを知られるとどういう結果になるかということまで、アイリは考えているのだろう。

 

 もっともそう言った面倒が発生することが分かっているので、大きな問題になる前に逃げるという選択肢を取っているともいえるのだけれど。

 どちらにしても今は、こちらからわざわざランク相応の実力を示そうとする気は全くない。

 オトとクファの成長を見ているのが楽しいというのは全員同じなので、次の機会も二人の様子を見ながら攻略を進めるつもりでいる。

 その結果ギルドやギルド嬢がどういう態度を取るかは、また別の問題だ。

 

 ――ギルドの問題は今のところそこまで実害があるわけではないからいいとして、今は子供たちの成長を促すことのほうが重要だろう。

「次はトムがメインになるのは良いとして、どこまで行くかが問題だよね。ハロルド、そこのところはどんな感じ?」

「先に打ち合わせした通りで問題ありません。まずはトム単独でどこまでできるのか確認した後、オトとクファを混ぜてチームでの連携を学んでいければと思います」

「ということはやっぱり第二層スタートでいいかな?」

「そうですね。ただ今日のようにゆっくりでなくともいいとは思います」

「なるほど。どちらかといえば、調子に乗った時に止める役目になったほうがいいってことか」

「そう考えていただけると丁度いいかと」

 トムもオトとクファと同じように、そこまでダンジョン内での実戦経験があるわけではない。

 それでもサポーターとしてダンジョンを潜り続けていたという経験が生きているので、すぐに慣れていくだろうというのがハロルドの見解になる。

 

「それじゃあ予定通り、ダンジョン内遠征のことも考えて明日も潜ることにしようか」

「問題ないわよ。こう言たらなんだけれど、ほとんど働いた気がしていないからね」

 笑いながらそう言ってきたのはアンネリだったけれど、大人組の他の面々も似たような顔になっていた。

 ダンジョンの中を進むので一定以上の緊張感は保っているが、いつもとは違って気が楽な状態で進めているのでそこまで疲れは感じていないのだろう。

 かくゆう俺自身も体調に関しては同じなので、翌日潜ったところで全く問題はない。

 そもそもダンジョン内を連続して潜れないと、遠征をすることなど不可能になってしまう。

「なんだかんだで子供たちもダンジョンに連続して潜る経験はしているから問題はない……と思うけれど、油断はできないといったところかな」

「トムは勿論目を離せないけれど、オトやクファも注意しないとね」

 なんだかんだでダンジョンの雰囲気には慣れている子供たちだが、自分たちが実際に戦うとなるとそお雰囲気に飲まれてしまう可能性も十分にある。

 

 子供がダンジョンに潜ることについては、あまりいい顔をされることではないがはっきりと禁止されているわけではない。

 禁止されているのはでダンジョンに潜ることで、大人同伴の場合はそこまで厳しく禁止されていない。

 勿論同伴している大人がきちんと世話をするという条件はあるのだが。

 以前は安い子供の奴隷を買っていざという時の盾にするということもあったらしいので、今では厳しく取り締まりされている。

 

 今日ダンジョンに入る前に他の冒険者から注目を集めていたのは、そうした無法な扱いをしていないかを確認する目的も含まれていたはずだ。

 勿論こちらにはやましい事は一つもないので、いつも通りに会話をしながらダンジョンに入ったのだけれど。

 その時の子供たちの雰囲気を見て、周囲にいた冒険者も特に声をかけて来ることもなくさりげなくこちらを確認しながらダンジョンに入っていた。

 この辺りの連携というか雰囲気づくり(?)は、さすがだと思わざるを得ない。

 

 さすがに子供を連れてダンジョンに潜る冒険者は少ないが、全くいないわけではない。

 成人したら魔物と戦うことが必然となる武士の子供たちも、親や周囲にいる者たちに連れられて潜ることもある。

 特にヒノモトでは、御家以下の武を束ねている各家が魔物と戦って領地を広げることを第一の目的としているところがあるので、子供の時からダンジョンに慣れるという目的で連れられることも多い。

 御家であっても武家であることには違いないために、たとえその家の嫡男であっても基本的には武器を持って魔物と戦うということは珍しいことではない。

 

 現在のヒノモトでは御家を頂点として武家や商家など様々な家が政治を行っているが、武家が重んじられていることは今でも変わっていない。

 そうした事情から商家に生まれてもある程度戦いができるようにと訓練をすることになる。

 もっとも子供の時からきちんと訓練を受けられるのは、一定以上の余裕がある家の子供ということになるのだが。

 つまりは周囲に大人がいてダンジョンに潜るなりフィールド探索をしている子供は、それなり以上の収入がある家に生まれた子供として見られている場合が多い。

 

 トムたちはその立ち振る舞いからやんごとなき家の子供だとみられてはいないだろうが、どちらにしても特別扱いされることはないはずだ。

 少しばかりシーオとは違った事情で成り立っているヒノモトではあるけれど、ところ変われば習慣から作法までガラリと変わることは珍しいことではない。

 そんな雰囲気にのまれることなく、こちらはこちらの事情で動ければそれに越したことはない。




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