(2)マキムクへ

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 アンネリたちと話をした翌日には宿を引き払って、タマモの下へと向かった。

 すでにムサシの地で発生している歪みについての整理も終えていて、見るべきところも見終えていたので次の目的地に向かうためだ。

 そのまえにタマモに挨拶してから、港に泊めてある船に乗る予定になっている。

 その予定でタマモに会いに行くと、何故かため息交じりに呆れたような視線を向けられてしまった。

「そなたは…………人の身でそこまで到達するか。いずれ我も超えるのではないかの?」

「さすがにそれは……ない、と思うよ?」

「そこは断言してほしかったぞ」

 一目で今の実力を見抜かれてしまったのは、さすがというべきだろうか。

 

 魔力の扱いが段違いになっているということはアンネリやアイリでも見抜いていたようだけれど、タマモはさらに細かい分析ができているように見えた。

 地脈と繋がったことで体内にある魔力も増えていることについては、アンネリたちは見抜けていない。

 だがそもそも人族以上の魔力を持っているのが当たり前のタマモは、きちんとその魔力の増加にも気付いている。

 さらに、その魔力の増加に伴って使える魔法も量、質共に広がっているということも。

 

「まあ、良いか。そなたが非常識なのは今に始まったことではないからの」

「いや。魔物の長に常識、非常識を言われても……」

「魔物の我にとっても非常識だと言いたかったのだがな。それはともかく、自身の成長を見せるため来たわけではあるまい?」

「それね。ムサシでの用事も大体終わったから、次はマキムクに向かうつもりだよ」

「ほう。ルファも元気にしているはずだ。会いに行けば喜ぶだろう」

「そうだね。それにちょっと頼み事もあるからそれもお願いしに行くつもり」


 例の拡張袋を各ダンジョンに置いておくとどうなるのかという実験は、ルファのダンジョンではまだ行っていない。

 どうせ挨拶に行くことになるので、その時に一緒に頼みに行くことにしていた。

 ちなみにルファというのはヤマト(近畿)のアシカガにあるダンジョンのダンジョンマスターで、タマモと同じように一周目の時に色々とお世話になっている。

 ルファのダンジョンは、地名の名前がそのまま当てはまってマキムクダンジョンと呼ばれている。

 少なくともヒノモトにおいては間違いなく最大の未攻略ダンジョンであり、ヒノモト中の冒険者が周辺の町に集まっている。

 

「お願い事は良いが、まさかそのまま踏破するつもりではないだろうな?」

「流石にそれは無理じゃない?」

「そなたたち人の力だけでは無理だろうが、な」

 タマモの視線がチロリとラックやクインに向けられた。

「いやいや。いくらなんでも彼らの力を使って攻略するつもりなんてないから」

「そうかの? それなら良いのだが」


 眷属たちの力を使えば確かに攻略もできなくはないだろうが、その場合は間違いなくダンジョンマスターのルファが出て来る。

 そうなったら周囲に与える被害は甚大になるので、各方面から注目されることになる。

 というかそもそもルファと敵対するつもりは全くないので、考えるだけ無駄なことともいえる。

 ルファの性格がこの五百年で大幅に変わっていなければ、今更あちらから突っかかって来ることもないはずだ。

 

 そもそもこの世界の魔物、特にちゃんとした意思を持って動いている魔物は、そうそう簡単に性格が変わるわけではない。

 一周目の時にきちんと友好関係を築いていたので、それを考えれば最初から拒絶されるようなことはないと思う。

 懸念があるとすれば、俺が一周目の生まれ変わりだと信じてくれなかった場合だろうか。

 それにしても常にユグホウラの眷属がいてくれるので、問題にはならないだとう。

 

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 タマモとの挨拶を終えたとは、そのまま来た時と同じように船に乗り込んだ。

 次の目的地は、マキムクダンジョンがあるアシカガ領になる。

 船を使ってアシカガ領に向かうのには、現代日本と同じ名前のサカイの港町に行くのが一番の近道になる。

 歩いて向かうよりははるかに早く着くので、そこそこの金額を払えば使える船での移動手段も一般に開放されているくらいだ。

 少し余談になるけれど、今から使う航路では行商人が使うためのフェリー的な船が行き来している。

 未だに外洋を行く船はそこまで発達していないけれど、沿岸を行く船だとある程度の利益が確保できるのだろう。

 頻度はそこまで多いわけではないらしいけれど、中々に目ざとい人物がいるものだと感心した。

 

 サカイに向かう道中は前の時と同じように、まったりとした時間を過ごすこととなった。

 海の上だと時間もたっぷりあるので、子供たちの成長の様子を見られたことが一番の収穫だったかもしれない。

「これならマキムクに着いたら一緒にダンジョンに潜ってもいいかも知れないね」

「大丈夫? まだ実戦はやったことがないのよ?」

「勿論、いきなり下層に向かうつもりはないよ。それに、魔法を使っての戦闘はしたことがないけれど、サポーターとしては何度か潜ったことがあるからね」

「そういえばそうだったわね。確かにそう考えるとそろそろ実戦経験を積ませてもいいかもね」

 俺の言葉で思い出したのか、アンネリは納得した様子で頷いていた。

 

 対照的に、不安そうな色をのぞかせたのがアイリだった。

「大丈夫でしょうか? 未だ訓練でしか使ったことがないのは?」

「成人になったからといって、いきなりダンジョンに放り込まれるよりは今のうちに少しずつ慣らしておいたほうがいいからね。それにダンジョンの雰囲気そのものにも慣れているからいきなり混乱して動けなくなるなんてことはないと思う」

「そうなのですか。そうなるとむしろ慣れていないのは私ということになりますわね」

「いや。数でいえばどっこいどっこいじゃないかな?」

 巫女としての修行を積んできたアイリはフィールドでの戦闘には慣れていてもダンジョンの戦闘はそこまでではなかったが、ムツにいた時に何度かダンジョンにも潜っている。

 

「それにしてもサカイか。かなり発展した港町だって聞いたけれど、どうなんだろうね?」

「私も直接目にしたわけではありませんわ。ただ商人などの話を聞く限りでは、噂通りに賑わっているようです」

「なるほどね。それは楽しみだ」


 この世界では堺の港町は発展しているようだけれど、大阪や京都に匹敵する町は存在していない。

 勿論、コメが育てやすい地域ではあるので人がそこそこの数くらしている町はあるのだけれど、ヒノモトの中心地といった様子にはなっていない。

 これで天皇がいたりすると違ったのかもしれないが、こちらの世界には存在していないので御家の家があるマキムクが発展するのは当たり前なのかもしれない。

 こちらの世界ではサカイからマキムクに向かう道中が発展していて、かなりの数の行商人が行き交う様子が見られるようだ。

 勿論その理由の一つに、サカイがヒノモト中の船が集まる港町だからというものもあるのだろう。

 

 余談になってしまうが、天皇陛下のいないこの世界でも伊勢神宮にあたる神宮は存在している。

 もともと神社という存在はあったので、その総本山というべき神宮が存在しているのは当たり前なのかもしれないが。

 ちなみに、今回の旅程に神宮訪問は今のところ含まれていない。

 歪みを見ることのできる巫女が集まっているという意味では訪問する意義はあるのかもしれないけれど、それ以前にやりたいことが多くある。

 

 それにこれままだ推測の段階だけれど、地脈と繋がったことで歪みについても新しく出来るようになることがありそうな気がしている。

 あくまでも感覚であって絶対ではないのだけれど、今はそちらを優先するつもりで動いている。




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※サカイ=堺。マキムク=纏向が大体の位置。


是非ともフォロー&評価よろしくお願いいたします。

m(__)m

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