第10章

(1)進展

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 地脈の力を使いこなせるようになるには、まだまだ時間がかかる。

 五日ほど独自に訓練をしてそう判断したので、ムサシに戻ることにした。

 ――のだけれど、その前に一つ進めておいた件の進捗についてアイから報告があった。

「もう準備ができたんだ」

「今のユグホウラは開店休業状態。やろうと思えばもっと早くできる。ただ現地の準備が出来ていなかった」

「そういうことね。それなら仕方ないか」

 何のことかといえば、以前ヒノモトのツガル領で話していた拡張袋を各地にあるダンジョンに密かに配るという件だった。

 拡張袋の準備は既に終わっていて、ようやくダンジョンに配るための人員の手配が終わったという報告だった。

 

「数は千個か。多いのか少ないのか微妙なところだね」

「足りなければ足せばいい。最初から一万を配るという話も出たけれど、それだとさぼる可能性もある」

「ダンジョンで手に入るんだから、自分たちで作る必要はないってことか。確かにそれはあるね。ダンジョンも善し悪しだね」

「ダンジョンからは無限に資源が取れると勘違いされ続けても困る」


 アイの言う通り、この世界の人はどこかでダンジョンのことを無限に資源が沸いて来る場所と認識している節がある。

 ダンジョンに湧いて来る魔物さえいなくなれば、いつでも好き勝手に資源が手に入ると。

 最奥にいるダンジョンマスターを倒してしまうとダンジョンそのものがなくなってしまうこともあるという認識はあるのだけれど、倒さなければいつまでも残るということにされている。

 実際にはそんなことはないのだけれど、ダンジョンマスターからの情報など手に入らないのでそう勘違いしてしまうのも無理はない。

 

「ダンジョンの資源か……まあ、そこはこっちで考えても仕方ないか。それよりもちょっと思ったんだけれど、置いた宝物がダンジョンに喰われるってことはないよね?」

「そこは大丈夫。ちゃんと考えてある」

「それならいいか。折角置いたのに人の手に渡らなかったら何の意味もないからね」

 ダンジョンは自ら生み出したもの以外は、全て吸収すると言われている。

 冒険者が身に着けていた装備一切が無くなってしまうことからもそれが分かるのだけれど、それが今回の計画にとっては邪魔な要素になってしまう。

 もっとも地下の『環境』に詳しい蟻種の眷属がいるので、その問題は既にクリアしているようだけれど。

「現物はしっかりと用意できた。あとは設置するだけか」

「ご主人様の呼びかけ待ち」

「うん。とりあえず千個、予定通りに配置し始めていいよ」


 これ以上の準備は必要がないと分かったので、素直に計画をスタートすることを決めた。

 どうせ始まったら始まったで色々と問題点は見つかるはずなので、その都度修正していけばいいだけだ。

 結果的に人族の魔道具作成のレベルが上がればいいので、何も拡張袋だけにこだわる必要もない。

 これからしばらくは様子を見ながらどの程度上手く行くかによって、数を増やしていくなり別の魔道具を置くことを考える必要もあるかもしれない。

 

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 ホームでのアイとの話を終えたあとは、少しだけ地脈の力を扱う訓練をしてからタマナワへと戻った。

 拡張袋をダンジョンに仕込んだことは、敢えてどこにも教えるつもりはない。

 近日中にどこかのパーティが見つけることができて噂が広まれば、すぐに察してくれるはずだ。

 津軽家をはじめとした関りのあったところの先んじて教えてもあまり意味はないと考えている。

 

「おかえりなさい…………?」

「ただいま。どうかした?」

 タマナワに取ってある宿に戻ると、何故かアンネリがこちらの顔を見て一言挨拶するなり首を傾げた。

「一体何をやってきたのよ。前とは全く魔力の流れが変わっているわよ?」

「そんなに違っているかな?」

「違うわね。ねえ、アイリ?」

 驚きながらもそう説明してくれたアンネリに対して、アイリは言葉もなく目を見開いてこちらを見ていた。

 

 自分では自覚があまりなかったようなのだけれど、一度地脈と繋がったことで体内を循環している魔力の流れがかなり変わっているようだった。

 より具体的にいえば、今まで以上に魔力操作が上手くなっているというべきだろうか。

 地脈の触れると流れている魔力に流されそうになるので、それを抑えるようにしているだけでもかなりの訓練になっているようだった。

 下手をすると地脈の流れに肉体ごと流されそうになるので必死になっていたので気付かなかったのだけれど、それが今の魔力の状態を作り出す結果になっている。

 

 ゲームで言うとレベルアップどころか上位職に一段飛ばしで転職したと言われてもおかしくはないくらいに変わっているので、皆の驚く反応も分からなくはない。

 ただ地脈への接触は、魔力操作の力が足りない者が行うとそのまま命ごと持っていかれてもおかしくはないくらいに危険なので、簡単に話をすることはできない。

 大人組であれば危険性も理解してくれるだろうけれど、子供たちは意識もせずに話をする可能性がある。

 だからこそ敢えて大人組にも知らせないようにして、子供たちが他の大人に余計なことを話さないようにした方がいいだろう。

 

 そんな考えとこちらの雰囲気から察したのか、アンネリとアイリはそれ以上は何も聞いて来ることはなかった。

「――それよりも、子供たちの成長が凄いわよ。オトやクファや勿論だけれど、トムも。ハロルドのお陰ね」

「いえ。私は必要な時に教えるだけで、ほとんどはトム自身の努力のお陰です」

「そうか。それは良いことを聞いたな。アイリもクファの面倒を見てくれて助かるよ」

「いえ。私もいい経験になっておりますわ。何よりもクファの成長は著しいので見ていて楽しいです。隣にオトという存在がいるからでしょうけれど」

 オトとクファに関してはお互いが刺激し合っているのか、のちにエリートと言われてもおかしくないくらいに成長しているらしい。

 お互いに影響しあっているからこその成長だろうが、さぼる時も一緒になるのがたまに傷といったところらしい。

 トムはハロルドが付きっ切りで面倒を見ているので、何も心配していない。

 ハロルド曰く細かいことに気が付く性格らしく、見方によっては執事向きともいえるそうだ。当人はダンジョン働きもしたいと武芸の稽古も頑張っているようだけれど。

 

 子供たちの将来についてはいずれ自分たちで考えてほしいと考えているけれど、恐らくそのまま教えた道を進むことになると皆が考えている。

 親から子へ職を引き継ぐのが当たり前の世界だけに、親同然の俺たちの教える道に進むのは当然ともいえる。

 付け加えるとその道を教える親がいるからこそ、安定した生活につけるというメリットもある。

 場合によっては税を納めることすら厳しいこの世界では、子供の頃から技術を教えられるというのは必要なことなのだとも思う。少なくともこの世界においては。

 

 留守にしていた間の子供たちの成長とパーティとしての依頼の成果の話を聞きながら、この日は残りの時間を過ごした。

 特に何か大きな事件やらがあったわけではないけれど、無事に過ごせていたこと自体が有難いと思える世界でもある。

 いつ大けがをしてもおかしくはない冒険者なんて職に就いている場合は、特にそう思える。

 もっとも俺は勿論のことアンネリやアイリも自ら選んだ道なので、文句を言える立場にはないのだけれど。




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m(__)m

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