閑話8 クランの現状

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 < Side:カール >

 

 クラン『大樹への集い』が立ち上がってからひと月ほどが過ぎた。

 一口にクランができたといっても基本的にやることは変わらない……はずだった。

 できたばかりのクランなど信用があるはずもなく、大型の依頼をギルドから指名で受けられるはずもない。

 だからこそこれまでと変わらずにパーティ単位で依頼を受けて、クラン単位で動くときは合同探索の時くらいになるだろうと予想していた。

 ところが、何をどう交渉したのか、リーダーが連れて来た事務員はしっかりと大型依頼をもぎ取ってきていた。

 しかもクランの初仕事としては手ごろな依頼で、油断さえしなければ失敗することのないものだった。

 

 それからも手ごろな依頼を見つけては、臨時のパーティを組ませたりして着実に仕事をこなしていく。

 俺たちのようなものは、その事務方が見つけて来てくれた依頼をこなすだけで稼げるのだから一々ギルドに出向く必要さえなくなってしまった。

 初めの頃はこれがクランの恩恵かと驚いていたが、どうやらこちらにいる事務方が一般的ではないと分かったのは半月もしてからのことだ。

 普通は事務方が依頼を見つけて来るようなことはせずに、基本的には一般的なパーティと同じように各自で見つけて来るそうだ。

 

 もっとも『大樹への集い』のやり方が普通ではないとしても、こちらが楽になっていることは間違いない。

 とはいえ、俺たちも冒険者ギルドへ全く出向かなくなったというわけではない。

 他の冒険者との交流もあるし、依頼を受けた当人の事務的な手続きが必要な場合もあるからな。

 それでもクランハウスに立ち寄るだけで仕事があるというのは、こちらにとっては有難いとしか言いようがない。

 

 クランが立ち上がってすぐに華々しいデビューをするわけでもなく、着実に依頼をこなして行ってギルドの評価が少しずつ上がって行った頃。

 遥か東の地に旅立っていた我らがリーダーのキラが、ふらりと戻ってきた。

 何をどうすればそんなに早くヒノモトから戻ってこれるのかと問い詰めたいところだが、リーダーは色々な物を隠しているので今更といえば今更としか言いようがない。

 突っ込みどころ満載なリーダーに一々確認していたらいつまで経っても話が終わらなそうなので、余計なことにまで首を突っ込まないという癖ができつつある。

 

 そんなことを考えて日々を過ごしていると、ふらりとそのリーダーが訪ねて来た。

「順調に行っているみたいだね」

「おかげさまでな。上手く行きすぎるくらい、上手く行っているぜ。まさかあっさりと仕事を取って来るとは思っていなかったな」

「あれはね。ちょっとばかり伝手を使ったお陰かな。今後も続くかは、結果次第になるよ」

「なんだ。やっぱりリーダーが絡んでいたのか。結果が出せずにクランが縮小していくのは何度も見て来たからな。よくわかっているさ」

「それならいいよ。ただし無理だけは厳禁だからね。失敗が直に命に関わるからね。一々言わなくても分かっているだろうけれどね」

「まあな。だがリーダーが直接言ってくれるだけでも違うからな。余所じゃ、発破をかけると言い訳しつつ当たり散らす奴もいるからな」

「追い込んで伸びるんだったらいくらでもそうするけれど、今のメンバーだとやるだけ無駄だからね」

 確かにリーダーの性格だと辺に怒鳴り散らすというよりは、静かに怒るというほうが似合っている気がするな。

 

 そんな考えが伝わったのか、リーダーはニヤリと笑みを浮かべながら言ってきた。

「一度他のメンバーがいるところで怒ってみようか?」

「止めておこう。ここ一月で数人は増えているが、それ以外は以前の探索でリーダーの性格も把握しているしな。やるだけ無駄だ」

 何を言うかと思えば、冗談にもならないような冗談を言ってきた。

 俺とリーダーでそんなことをやっても、何を下手な演技をしているのかとからかわれるだけだろう。

 リーダーもそれが分かっているからこそ、笑っているのだろうが。

 

「それはそうと、引退した元冒険者が何人か入って来ているみたいだね」

「ああ。あいつらは元冒険者でもあるが、元サポーターだな。年で冒険者働きは無理だと引退しても、ダンジョンに潜りたいという物好きはいるもんさ」

「カールもいずれそうなりそうな気もするけれどね」

 混ぜっ返してきたリーダーに反論しようと口を開きかけたが、言われてみればそうかも知れないと言葉を出さずに開きかけた口を閉じた。

 もし体がついてこなくなったとしてもサポーターとして働けるのであれば、ダンジョンに潜り続けたいと思ったことは何度かあるからな。

「止めてくれ。身体が動かなくなるなんて未来は想像もしたくないぞ」

「それもそうか。ちょっと冗談が過ぎたかな」


 リーダーも冒険者が怪我なんかでいつ引退に追い込まれてもおかしくはないことはよく理解している。

 だからこそ、少し反省した顔になってそんなことを言ってきた。

 今この場には俺とリーダーしかいないからよかったものの、場合によっては白い眼を向けられてもおかしくはなかった。

 もっとも周囲に人がいるような状況で、そんな迂闊な真似をするようなリーダーではないのだが。

 

「サポーターとして戻ってきた奴らは、特に新人の教育係として重宝しているな。勿論それなりに金がかかるが、どうにかなっているんだろう?」

「その辺はね。一時のことと赤字でやっても長続きはしないからね。その分、クラン単位の依頼からもらっているからね。皆も納得しているんだよね?」

「それはな。もともとそのつもりで立ち上げたクランだ。お前に言われたとおりに入る前に説明はしているからな。今のところそこに文句をつけてきた奴はいない」

「そうすると問題はこの後かな。順調に依頼をこなしていってギルドの評価が上がると、入りたいという冒険者も増えるよね」

「そうだな。だが、最初の確認をすり抜けて後から文句を言ってくる奴がどれだけいるかにもよるが、今すぐにどうこうというわけではないだろう?」

「今すぐにどうこうならないからこそ、今のうちに手を打っておきたいんだけれどね」

「我らがリーダーは慎重だな。ただ言っていることはもっともだな。確かに入ってから内輪もめを起こされてもたまったもんじゃないか」

「そういうこと。今は立ち上げたばかりで忙しいだろうけれど、ある程度落ち着いたらちゃんと考えておかないと駄目だろうね」

「やれやれ。面倒なことだな」


 クランを作ることはリーダーと会う前から考えていたことだが、ここまで面倒だとは思っていなかった。

 作った後でまとめればどうにかなるだろうと考えていたくらいだ。

 それだとその場しのぎでしかなく長続きしないだろうと言われてみれば納得するのだが、そもそもそこまで考えてクランを立ち上げる冒険者など稀だろう。

 そういう意味でも、リーダーを頭にしたのは間違っていなかったと思えて来る。

 

 一時間ほど雑談をしてからリーダーはまた東の地へと戻っていた。

 後から聞いたことによると、俺と話す前にラウとも話をしていたようだ。

 一見すると人との関わりを面倒くさがりそうな言動をしているように見えるリーダーだが、一度懐に入れると細かいところにまで気が付く。

 一応『大樹への集い』の中で、双頭と言われている俺とラウの両方にしっかりと顔を見せていることからも分かることだ。

 

 とにかくクランの立ち上げは順調すぎるほど順調に上手く行っていることに間違いない。

 あとは失敗を積み重ねて名を落さないように俺たちが慎重に依頼をこなして行けばいい。

 幸いにして何が何でも大きくして見せろと急かすようなリーダーではないので、変に浮足立たずに伸ばしていけばいいだろう。




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※これにて第9章は終わりになります。

第10章1話は、二日のお休みを頂いて11/24の更新になります。


是非ともフォロー&評価よろしくお願いいたします。

m(__)m

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