(22)地脈への接触

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 地脈に触れる――言葉にすると単純で一見簡単そうに見えるのだけれど、実際はそう簡単に行く話ではない。

 一応確認してみたのだが、今のところ地脈に触れることに成功した眷属は一人もいないようだった。

 人族に転生した身としてみれば、それにも関わらずあれだけ膨大な魔力をその身に宿していることの方が理不尽だと思わざるを得ないのだけれど。

 もっとも以前は世界樹の精霊として生きていたので、他人をどうこういえる立場にはない。

 そもそも人族と魔物では体の作りからして違うので、魔力量の違いを嘆いても仕方ない……というよりも嘆くという感情すら沸いてこない。

 

 それはともかく今の問題はどうやって地脈に触れるか、ということだ。

 一応個人で幾つかの案は考えているのだけれど、それが上手く行くかは分からない。

「折角時間を貰えたんだから、一つ一つ試してみるしかないか」

 手探り状態なのはいつものことなので良いのだけれど、今回の件に関してはプレイヤー間でも情報が出し渋りされている。

 もっと正確にいえば、出し渋りというよりも敢えて情報を出さずにおいて色々な方法を見つけるようにしている段階と言うべきだろうか。

 

 どうも地脈に触れる方法は職業によってなのか個人の資質によるものなのかそれとも別の要因があってなのか、幾つかあるようなのだ。

 となるとこれまでも様々な方法で多くの職を探してきたプレイヤーが、いくつ方法があるのかと確認しないはずがない。

 それならば最初は情報を出さずに置いて個人個人で色々な角度から試してみようという話になったというわけだ。

 勿論中には最初から情報を出すべきじゃないかという意見も出たが、あまり強い言葉ではなかったので基本的にスルーされている。

 どのみち隠匿されるとはいっても短くて一週間からひと月ほどだと予想されているので、黙って見てもその内情報が入って来るという安心感もあるのだろう。

 問題は誰も上手く行かなかった場合だけれど……それはそれで一つの結果にはなる。

 

 とまあ。現状の分析はそれくらいにして、早速試そうと考えていたことの一つ目をやってみることにした。

 今は俺一人で世界樹の麓に来ていて、少し離れた場所で第一世代の眷属たちがこちらを見ている構図になっている。

 世界樹は複数の地脈が交差する中心上に立っているので、地脈を探すのには困らない。

 ちなみに俺自身は地脈を見ることはできないけれど、魔力の流れで地下にあるのを感じ取ることはできている。

 

「一番太そうなここで……いや。最初は細いところで試したほうがいいか」

 地脈と一口に言っても流れている魔力の量は全く違っていて、川の流れのように細いものから太いものまで様々ある。

 流れが太い地脈は当然のように多くの魔力やマナが動いているようなので、まずは扱いやすそうな細い流れのもので試してみることにした。

 正直なところどちらが良いのかは触ってみないことには分からないので、ただの勘で決めたのだけれど。

 

 世界樹の周りを歩き回りながら流れが細そうな地脈を探っていく。

 一応世界樹を一周してから適当に当たりを付けた。

 この辺りに集まっている地脈は、世界樹がマナを吸い上げていることもあってかほとんどが太い流れになっている。

 それでも川の支流のように本流に合流しているような地脈もあるので、探し出すのにさほどの苦労はしなかった。

 

 そして適当な地脈に辺りを付けて初めて触れると決めた……のは良いのだけれど、問題はここから先になる。

「地脈があることは分かっていても、どうやって触れるのかが問題か」

 まさか、実際に掘ってみるわけにもいかない。

 蟻種の眷属に頼んでみるということもできなくはないが、彼らは地脈の流れを変えることを嫌って綺麗に避けて穴を掘っている。

 実際に穴を掘ることで地脈に影響が出ることを経験か本能から分かっているのだろうけれど、生命の不思議と言われてもおかしくはない。

 そんな蟻種に『お願い』をして掘ってもらうわけにもいかないので、とりあえずは自らの力でできることを試すことにしている。

 

 さて。地脈については、はっきりとその流れを感じることができる。

 ただそれこそ水の川のように、物理的に目に見えるというわけではない。

 そもそも普通に目で見ることができないマナや魔力の流れそのものなので、当然と言えば当然なのだけれど。

 問題なのは、どうやってその目に見えない流れに触れるかということになる。

 

 俺にとって一番わかりやすいのは、枝根動可を使うということに落ち着いていた。

 あのスキルは、魔力を鞭のように自在に動くように伸ばして分かりやすく木の根や枝という形で物理的に影響するように変化させる魔法になる。

 となると後半の木の根や枝として発現する部分を省いて、魔力のままで魔力を伸ばしていけばいずれは地脈に触れることができるのではないかと考えたのである。

 とはいえ頭の中で考えただけで実際に上手く行くかどうかは別もので、まず魔力だけの鞭を作ることに苦労することとなった。

 枝根動可はあれで一つの技となっているので、根や枝に変化する前で止めるなんて器用な真似ができるわけではない。

 

 どうにかこうにか枝根動可を改良しつつ、目的のことができるようになるまで半日がかかった。

 その時間が長かったのか短かったのかは意見が分かれるところだろうけれど、思った以上にかからなかったというのが感想だった。

 新しくできた魔力の鞭を伸ばす技は、魔法というのには物理的な効果が薄いので定まった名前は決めていない。

 スキルとして発現しているわけでもないので、はっきりと物理的な効果を及ぼす魔法としては中途半端なものといわれるかもしれない。

 ただ魔法的には中途半端だと言われても、今回の目的には役立てることができる……はずだ。

 実際にこれを使って地脈に触れることができるかどうかは、それこそやってみないと分からない。

 

 というわけで早速試してみ――ようとしたところで、きりが良いのでここで一旦休憩することにした。

 新しい魔法(仮)の開発は神経を使うので、体力的にはともかく精神的にはかなり疲れている。

 ここでさらにプレイヤーでさえ苦労すると分かっている地脈に触れる実験をすると、突発的なことに対処することが難しくなると判断してのことだ。

 世界樹の精霊のままであればぶっ続けで行ったかもしれないけれど、人族の体は時に不便なこともあると休憩を取りながらしみじみと感じていた。

 

 とまあ大げさに世の無常を感じつつ休憩を終えて、本格的に地脈への接触を始めた。

 新しく開発した魔力の鞭は、物理的な影響を受けないので伸ばせば伸ばすだけ地下へと潜らせることができる。

 地脈が自ら動いて何かするとは思えないが、鞭を伸ばす速度は何が起こってもいいようにできるだけ遅く伸ばしている。

 地脈があると感じている感覚と、鞭の位置がある程度近くまで来たところで一旦動きを止めてしばらく観察をしていた。

 

 鞭は一応十分程度その場で止めていたけれども、特になにか変化が起こるわけでもなかったのでいよいよ地脈へと接触させることにした。

 今まで以上に慎重に進め――るのは良いけれど、地脈に近づけば近づくほどの圧力が高まっていくのを感じ取っていた。

 その何かが何なのかは、いまいちよく分からない。

 感じようによっては濃密な魔力な気配ともとれるし、別の何かだと言われればそうだとも感じ取れる。

 

 とはいえその圧力は近づくものを完全排除するようなものではなく、地脈を流れるマナや魔力の濃さがそう感じさせているとも思えた。

 いずれにしてもその圧力を越えなければ地脈に直接触れるという目的は達成できないので、今まで以上に魔力の鞭を地脈へと接近させていった。




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m(__)m

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