(21)色々準備
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ここに来て、プレイヤーの間で地脈が注目され始めた。
きっかけは俺とハートとの会話からになるけれども、似たり寄ったりの話は時々出ていたのだろう。
それが掲示板に書かれることによって、一気に噴出してきたといったところだろうか。
マナや歪みについて停滞気味だったということもあって、多くのプレイヤーが積極的に動いている様子が掲示板でも見て取れた。
中には直接地脈に手を出し始めているプレイヤーもいるようで、ぽつぽつと結果の報告もされている。
地脈の力は人族にとっては大きすぎる力ではあるけれど、制御できるようになれば一段階以上の力を手に入れることができる。
地脈の扱いを間違えると周囲に多大な影響を与えるのでご法度とされる向きはあったのだけれど、これまでの経験で手を出しても大丈夫なところの見極めはできるようになっているらしい。
そう考えるとこれまで地脈に全く注目が集まっていなかったことも、意味があったのだと思わざるを得ない。
この動きに裏に『何か』がいるのかということも議論の的になっていたりするが、正直なところ「分からない」というのが意見の大半を占めている。
ただし少なくとも運営や上司が直接関わっていることはなさそうだというのも共通した認識といえる。
むしろその辺りが関わっているのであれば、ラッシュと話をしたときのようにきちんとシステム的に組み込まれているだろうと。
いかにプレイヤーの生活を面白おかしく観察することが目的となっている上司だけに、こういったところでは変に信頼関係があったりする。
そんな上司の性格は横に置いておくとして、だとすると今まで封印にされていたように地脈の話題が出ていなかったのが何故かという話に戻るわけだが、これについては「放っておこう」ということになっている。
今の段階で情報が解禁された(?)のであれば何か意味があるのだろうし、そうでなかったとしてもプレイヤーにとっては悪いことにはなっていない。
むしろずっと秘匿されたままの方が良い結果にはならなかっただろうという話になっている。
そもそも『ガイア理論』かそれに近い存在がいるかどうかも分からないので、変に恐れていても仕方ないだろうと。
というわけで、色々と動き始めたのを見て黙って指をくわえて見ているわけにもいかなくなった。
そんなことをいうと乗り遅れたように思えるけれども、実際のところは地脈の話が頻繁に掲示板に上がるようになってから数日も経っていない。
これまではどうするべきかと様子見するつもりだったのだけれど、さすがにここで動かずにいられるほど落ち着いた性格ではなかった。
とりあえず地脈の力に触れるべく、事前準備として他の面々に話をすることにした。
「――突然だけれど、またユグホウラのホームに行くことにしたよ」
「何かあったの?」
突然すぎる俺の報告に、アンネリが慣れた様子で聞いてきた。
「あったにはあったんだけれど、具体的には言えないかな。別にユグホウラで大きな戦争が始まるとかじゃないから、そこまで心配しなくてもいいよ」
何やら深刻な話になりそうだと察したアイリが身を固くしていたが、その言葉に緊張をほぐしていた。
ユグホウラに何かあれば一番に影響を受けるのがツガル家になるので、そうなるのも当然だといえる。
「わざわざ私たちに言って来るってことは、長くなりそうなのね?」
「そうだね。早くて数日、長くなると……ちょっと分からないな。とりあえず一週間を目安に戻って来るつもりではあるけれど、それよりも長くなりそうだったらラックなりクインなりに知らせてもらうよ」
「わかったわ」
世界樹の進化の時もそうだったけれどこうしてそれなりの期間離れることは以前にも会ったので、アンネリは慣れた様子で頷いていた。
逆に戸惑ったままなのはアイリだ。
アイリも世界樹の進化の時にはいたので慣れていてもよさそうなものだけれど、残念ながらアンネリほどではなかったらしい。
そのアイリの様子を見て、アンネリが何故だか首を振りながら肩をポンポンと叩いていた。
「どちらかといえば今回は、ユグホウラというよりも個人的な用事だからね。上手く行くか分からないし、行かなかったとしても問題にはならないかな」
「個人的……ということは、また新しい魔法でも身に着けるつもり?」
「まあ、そんなところだね。正直なところ上手く行かない可能性の方が高いと思っているけれどね」
「そういうことなら是非とも頑張って来てもらわないとね。『大樹の頂』のためにも」
今更ながらにアンネリが持ち出してきたパーティ名に、思わず苦笑が漏れてしまった。
正直なところムサシに来てからはまともに活動していないので、ほぼ開店休業状態といっても過言ではない。
変に腕が鈍ったりしないように軽く依頼を受けたりはしているが、その程度でしかない。
今のアンネリの言葉も嫌味というよりは、本気でパーティのことを心配している気配が漏れ出ていた感じだった。
「折角だからこの機会に私も少し修練しましょう。子供たちもそのつもりだったのでしょう?」
「そうだね。オトやクファはまだまだやることはあるし、トムは……ハロルドが色々と張り切ってくれる、よね?」
「お望みとあらば」
少し芝居がかってハロルドが頭を下げてきたが、その傍にいたトムはこれから先のことを想像してか、少しばかりビクリとしていた。
「うん。まあ、ほどほどにね。アイリは……好きにすればいいと思うけれど、クファに色々と教えてもらえると助かるかな」
「それは私もありがたいですわ。こちらも知らないことがあるようですから」
クファは俺が直接教えていることもあって、今の巫女たちには伝わっていない知識も持っている。
その知識は一緒に教わってきたオトも当然のように知っているのだけれど、巫女とドルイド(見習い?)では使える魔法も違っているので修行内容にも違いがある。
その意味でもクファはアイリから教わった方が良いこともあるので、アイリが乗り気になってくれているのは有難い。
「そういえばクランはどうなっているの?」
「あれ? 言っていなかったっけ? この間も少しだけ顔を出してきたけれど、特に問題はなかったよ」
「いつの間に……」
「転移装置を自由に使えるからこそだよね。ありがたいことです」
他人事にように言ってみたもののアンネリから返ってきたのは、呆れの混じったため息だった。
ユグホウラの転移門を自由に使えること自体あり得ないことなので、そんな顔をするのもよくわかる。
ちなみにそれでもそんなに往復できるはずがないのだけれど、そこはレオとの合わせ技でどうとでもできている。
俺が一人で移動する分にはそこまで時間がかからないという良い実例になった。
転移装置と眷属という裏技を使ったからこそできた裏技だと理解して、アンネリは納得していた。
それでいいのかと思わなくもないが、毎回突っ込まれるのも疲れるので慣れて来てくれているのは有難い。
その代わりにアイリが増えたとも言えなくはないのだけれど、そこはそれだ。
今度はアンネリが色々と防波堤になってくれそうな気配がしている。
そんなことはともかくとして、これで地脈の力を確認するための時間を確保することはできた。
出来ることならすぐにでも結果を出したいところだけれど、色々と試したいこともあるので一気に進展することはないとも考えている。
というよりもそもそもの問題として、地脈の力が利用できるようになったからといって
いずれにしても触ってみないと分からないので、久しぶりの実験気分を味わいつつ色々と試してみようと思う。
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是非ともフォロー&評価よろしくお願いいたします。
m(__)m
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