(18)装備のこと

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 公園のベンチで黄昏ていると、一人の女性プレイヤーが近づいてきた。

 その女性プレイヤーは、かなり派手なローブ――というよりも法衣に身を包んでいる。

 派手な――というとその女性に失礼かもしれないのは、それだけ手の込んだ衣服に身を包まれていてもそれにふさわしいだけの力を持っていることだろうか。

 衣服に様々な素材で描かれている文様や意匠は、様々な効果をその衣服にもたらすために使われているものだから。

 そしてそれらの効果をもたらすための元となる力を持っていないと、そういった衣装は身に着けることはできない。

 ゲーム的に言ってしまえば、力や知力などの能力が足りなければ装備することができないといったところだ。

 要するにこの世界では、ほとんどの場合に派手な衣装にはしっかりと意味があってそれを身に着けることができるだけの実力を有しているということになる。

 ただの見栄で派手な衣装を身にまとう者もいるにはいるが、見るものがみればあっさりとばれることなのであまり意味のある行為ではない――とされている。

 

 近づいてきている女性は実力通りの衣装――というか装備なので何の問題もない。

 というよりも広場に出入りしているプレイヤーは、それぞれ実力にあった装備を付けているのでちぐはぐになるということはない。

 何故かといえば、プレイヤーの実力にあった装備を作れるのは同じくプレイヤーの生産者たちで、彼らが実力に見合わない装備を他のプレイヤーに渡すなんてことはないからだ。

 装備を買う側もどうせ他のプレイヤーにも見抜かれているのだからと、実力以上の装備を求めることがないという理由もあるのだけれど。

 

 そんなプレイヤーの装備事情はともかくとして、女性が身にまとっているその法衣は現状プレイヤー間では最高のものと言われていて、当然その実力も最高位と言われている。

 唯一無二のその法衣を身にまとっているのは、精霊巫女という職業についているその女性はハートと皆に呼ばれている。

「――珍しくこのような場所で黄昏て、どうしました?」

「いやあ。特に意味はないんだけれどね。ちょっとした休憩のつもりで座っていたら何となく感傷に耽ってしまったよ」

「そうですか。もしお嫌でなければ、隣に座っても?」

「勿論。君のような美人と話せるのはいつでも嬉しいよ」

 普段はこんな軽口は絶対にきかないのだけれど、長い年月の間に培われてきた気安さでつい口にしてしまった。

 それに対してハートも気にした様子もなく、クスクスと笑いながら応じてきた。

「あらあら。本当に感傷的になっているみたいですね? こんなおばさんにそんなことを言っても意味はありませんよ」


 既にプレイヤーとして何十年と生きてきているので、ハートが自分のことを「おばさん」といっても何ら違和感はない。

 それに対して俺はまだ二周目を始めたばかりで、少なくとも見た目は若者に見える。

 ただしプレイヤーとして生きている期間は誤差のようなものになっているので、あまり意味のある冗談ではない。

 ちなみに誤差というのは、プレイヤーとして生き始めたばかりのチュートリアルの時についた差のことになる。

 

「おばさん、ね。……まあ、いいか。それよりもいつまでも立っていないで座ったら? なにか話でもあった?」

「ええ。そうね。本当なら話がなければ来てはいけないのかと言いたいところですが、話があるのも事実ね」

「それは失礼しました。――で、話というのは歪みのことについてかな?」

「そう揶揄われると何もかも見透かされている気になって来るのだけれど……まあ、いいでしょう。それよりも歪みの話というのは合っていますね」

「見透かされているのはお互い様でしょう。それはいいとして、確かにそろそろ直接話をしたいと思っていたのでちょうどよかった」

「あら。こちらから言うのもなんですけれど、本当にいいのかしら? 休んでいたのでしょう?」

「本当に今更だね。別にいいよ。一人で考えることに疲れたから休んでいただけだから」


 これは別に嘘ではなく、本心からの言葉だ。

 あちらの世界ではアンネリやアイリと共に歪みについて話をしているけれど、より正確にマナや魔力のことを絡めて話をすることはない。

 結果として一人で考える必要があるわけで、地位に伴って忙しいはずのハートと時間をかけて話ができるのは有難いのは間違いない。

 掲示板では多くのプレイヤーが参加して話をすることができるが、やはり顔を見ながら会話をするのとでは違いが出て来ることもある。

 

「そうですか。それでは失礼をして――」

「あ。ちょっと待った」

「――なんでしょう?」

「どうせだったら場所を移さない? そろそろ日も落ちてきそうだし」

「私はどちらでも構いませんよ」

「うわー。さすが高性能ローブ装備済み」


 ハートが着ている法衣は当然のように、どんな環境の変化にも耐えられるように作られている。

 だからこその言葉だったのだけれど、あっさりと「あなたも同じでしょう」と返されてしまった。

 同じような効果を持っている機能は俺が着ている服にもついているので、人のことを言えないのは紛れもない事実だ。

 身分的にハートのように表に出して見せているか、俺のようにこそこそと隠蔽しているかの違いでしかない。

 

 

 

 装備の性能はともかくとして、俺たちはデパートの中にある軽食屋へと場所を移した。

「――それで、歪みのことについてだっけ。正直なところ今は掲示板で話されていることを裏付ける証拠くらいしか見つかっていないんだよね」

「それは私も同じ。向いている方向が同じですから、答えが一緒になるのも仕方ないかと思います。それよりも、こうして話すことで別の着眼点が見つからないかなと思いましてね」

「なるほどね。確かにそれは重要か。といってもなあ。今のところ思いつくことって、少し歪みだけに注目しすぎているかなってことくらいなんだよね」

「歪みに着目しすぎ、ですか。なるほど、確かにその通りですね。目に見える現象だけに分かりやすいということもありますか」

「そういうこと。魔力はともかく、マナは確認できたとしてもだから何だという感じだからね」

「動きがないものを観察するというのは限界がありますか」


 マナは、目で確認できたとしてもその場に漂っているだけなのでだからどうしたとしか言いようがない。

 これで何か特殊な動きを見せてくれるといった現象が起これば話は別なのだろうが、残念ながら今のところそういった報告は上がっていない。

 そもそもがマナはその場に漂うだけというのが世界の成り立ちらしいので、それは当たり前のことなのだが。

 だからこそマナを動かす存在として、今のところ歪みが注目されているのである。

 

「マナ、魔力、歪み……ですか。そういえば地脈という存在もありましたね」

「地脈ね。確かにあるけれど、あれはマナを移動させる手段の一つ……そうか。地脈をどうこうできればその分マナの移動量も多くさせることができるのか」

「ええ。ですが下手にアレに手を出すと、とんでもないことが起きそうね」

「そうだねぇ。何だったら星全体の魔力的な環境が狂ったとしてもおかしくはないよね。ちょっと怖くて手が出せないかな」


 この世界での地脈は、魔力を星全体に巡らせる役目を果たしている。

 そこに手を出すと、全体のバランスが崩れて魔法を使えない地域が出てきてもおかしくはない。

 それだけ大きな変化をプレイヤーが起こせるのかといえば微妙なところはあるが、あまり手を付けたくないというのは精霊巫女であるハートも同じな様子であった。

 どちらにしても、地脈を扱うための膨大な訓練が必要になることは間違いないことではある。




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m(__)m

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