(14)報酬と提案
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< Side:キラ >
清定との二回目の会談当日。
前日にはしっかりと皆で話し合いをしてから話の方向性を決めておいた。
それでも相手が人であるだけに、予想もつかない方向に話が飛んでしまう可能性もあるので油断はできない。
もっともこちらの要求は単純明快で、タマモへの迷惑行為を止めてもらうことが最低限の目的になる。
欲を出せばツガル家ともう一つの家に対する補填的な何かを得られればいいのだけれど、それは御家同士で話をすることでも構わないと言われている。
タマモがフジワラ家に対して優遇していることを利用していたことは間違いないので、そこから先は政治をするということになるともいえる。
そして前回と同じように少し待たされてから清定が来て、軽い挨拶のあと席に着いてすぐに早速こう切り出してきた。
「是行の振る舞いについての調べはすでに終わっておる。そちらの言い分が正しいこともな」
「そうですか。それでは……?」
「うむ。問題は処分の内容だが、是行の謹慎で進めたいと思うがどうか?」
「そちらは署名を下さった二つの御家と話を詰めてください。こちらとしては今後こういったことが無いように努めてもらいたいですね」
「……それでよいのか?」
「良いも何も、タマモ様とはもうお話しされたのですよね? そこで処分についての言及がなかったということは、そう言うことですよ」
「う、うむ。もう少し何か要求されると考えておったのだが……」
「私たちは
あまりにあっさりとした物言いに、清定は納得がいかないのか首を傾げていた。
タマモとの直接の繋がりがあるということで忘れているのかもしれないけれど、俺たちはあくまでも一冒険者でしかない。
そんなことをアンネリやアイリの前でいえば白い眼を向けられそうだが、言葉には出していないのでセーフである。
もっともここでそんなセリフを言ったところで、話し合いの邪魔になりそうなことは控えてくれるだろう。
「そうか。しかしそうなると、こうして知らせてくれたことに対する礼がしたいのだが……」
「それは気にしないでください。――と、言いたいところですが、そういうわけにもいきませんか」
場合によってはフジワラ家が断絶……までは行かないまでも、確実に影響力が落ちそうな状態になっていたことは間違いない。
それを知らせてくれた者に対して全く礼をしないというのは、統治する者としてはあまりよろしくないことだということは理解できる。
とはいえ、何を貰うべきかパッと思いつかないのも確かだ。
「そこを理解してもらえるのは有難い。こう言ってはなんだが、一番あと腐れのないものはやはり金品ということになるな」
「そうでしょうね。あっ! ……っと、失礼いたしました」
報酬という言葉を聞いて突然思いついたことがあって思わず声を上げてしまったが、これには清定だけではなくアンネリやアイリも驚いていた。
あちらから報酬を提示された場合は、金品で済ませておこうと決めておいたのでなおさらだったと思う。
ただこの場で思いついた物は、今後も必要になって来るもののはずで是非とも手に入れておきたいものでもある。
しかもフジワラ家からしか手に入れることができないようなものなので、駄目もとで提案してみることにした。
「一つ思いついたものがあるのですが、受け入れてもらえるかどうかが分かりません」
「……ふむ。まずは聞いてみないことには分からぬな」
「ムサシの巫女たちが集めていて、フジワラ家で管理しているという歪みに関する内容を閲覧する許可かもしくは複製する許可を貰えないでしょうか?」
「……何?」
その提案にはさすがに驚いたのか、清定の目が大きく見開いていた。
アンネリやアイリでさえ『それがあったか』という顔をしていたので、清定がそこまで驚くのも無理はないと思う。
ちなみに歪みの発生状況の情報がフジワラ家によって閲覧禁止されているのは戦をするうえで大事な地理情報が含まれているからで、同じような対応を取っている御家は他にもあるらしい。
とはいえタマモと直接関わっている俺たちが欲しがるのは、そうした情報ではないことは清定にもすぐに理解できたようだった。
「なるほど……。しかし巫女たちの話では、歪み自体は周囲に影響を与えるようなことはないという話だったが……?」
「そうですね。それも含めて調査していると言えばご理解いただけますでしょうか」
「そうか、わかった。ではそちらも含めて調整を進めることにしよう」
今の答えを聞く限りではまだ調整段階といった感じに聞こえたけれども、顔色を見る限りでは問題なく歪みの情報を貰うことができそうだ。
正直なことを言ってしまうと、お金には困っていないので歪みの情報のほうがあり難かったりする。
思い付きで言ってしまったのでアンネリやアイリには後で謝らないといけないけれども、怒られることはない……と思う。
俺たちが歪みに関することを調べていることを清定に知られることになるけれど、これも大した問題ではない。
当然だけれどこの場には清定以外にも彼の側近と思われる文官たちがいて、彼らの様子を見てもさほど反発は起きないと思う。
もっとも側近だけあって顔色を隠したり操ったりすることに長けている者たちが選ばれているはずなので、こちらが読めていないだけの可能性もあるのだけれど。
駄目だったら駄目だったで当初の予定通りに金品を貰うだけになるので、それはそれで問題ない。
俺たちがやったことといえば、結果から見ればただのメッセンジャーなのでそこまで大きな金額になることもないだろう。
そんなことを考えていると、最初から用意していたのか清定がこんな質問を投げかけてきた。
「そういえば、そなたは
きちんと調べているぞという圧力も含めているのかもしれないけれど、別に隠すつもりはないので素直に頷いた。
「ええ。今のところ自分たちで使う分しか作っていませんが、確かに作れます」
「どうだ? もし必要ならこちらで買い取ることも考えるが」
「有難いことですが、私たちはこれからも各地を旅する予定です。定期的に入手できないのは都合が悪いのではありませんか? それから期待されているようで申し訳ございませんが、私が作れるものは他の薬師の方々にも作れますよ」
「……ふむ。自らを売り込むこともせぬか」
「調薬だけで生きていくのならそれもしたでしょうが、幸いにもそれ以外に金銭を手に入れる手段はございますから」
「そうか。余計なことを申してしまったようだ。聞かなかったことにしておいてくれるとありがたい」
清定がどこまで本気で言っているのかは分からないけれど、冗談ともとれる清定の言葉に「わかりました」とだけ返しておいた。
ただ単にこちらに圧力をかけるつもりなのか、本気で薬師として雇うつもりなのか、あるいはどちらも考えているのか。
いずれにしても、あまり意味のなかったことだけは理解できたと思う。
こちらに探りを入れているだけの可能性もあるけれど、それはそれで世界樹の精霊の生まれ変わりということ以外は特に隠し事をしていないので構わない。
ここから先は、文官を挟んでになるのか清定当人が出て来るのかは分からないけれど、『迷惑料』に関する話し合いが何度かあってこの件は終わりになる。
御家同士の話し合いに俺たちが加わるつもりはないので、結果的にどうなったかを知るのは恐らく直弼を通してのことになるだろう。
正直是行が最終的にどうなったかなどを知る必要はないと考えているので、政治的な話し合いに出るつもりはない。
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是非ともフォロー&評価よろしくお願いいたします。
m(__)m
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