(13)考察

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 二回目の清定との会談を翌々日に控えた夜。

 宿に用意された個室で休もうとしていた俺は、とある訪問者を迎え入れることになった。

 その訪問者は、ユグホウラの諜報部隊の一人……というか親指ほどの大きさの一匹の蜂だった。

 その小さめの蜂は、くるりと俺の頭上を一周してからクインの下へと向かう。

 クインの傍に寄った蜂は、彼女が差し出した人差し指の上にとまってせわしなく翅を動かしていた。

 その蜂の動きに合わせてクインが何度か頷いていることから、何やら会話をしていることはわかった。

 同じ蜂種同士でしか使えない通信方法で会話を行っていると以前に聞いたことがある。

 ちなみに種独自の会話方法を持っているのは蜂種に限らず、他の種でも持っている場合がある。

 

 蜂とクインの会話は五分ほど続いていたが、やがて部屋に入ってきた時と同じように俺の頭上を一周飛んでから外へと出て行った。

「――緊急の連絡かな?」

「そうですね。緊急といえば緊急ですが、予想された動きではあります。清定がタマモ様と連絡を取ったそうです。詳しくは書面にして明日届くようになっています」

「そういうことか。内容まで聞けた?」

「はい。口頭では障りだけになりますが、問題なく。ただ想定外の対応は無かったようです。どちらかといえば、主様の言い分が正しいことを確認して終わったそうです」

「なるほどね。その結果をどう見るかは人それぞれになりそうかな。単純に考えれば、こちらの言い分を認めて是行を処分して終わる……終わらせるかな」

 半ば自問するような言い方になってしまったが、それに対する眷属からの答えは無かった。

 答えが欲しくて問いかけたわけではなく、頭を整理するための呟きだったと判断しているのだろう。

 実際にその通りなので、答えがなかったことに対する不満はない――というよりも考えることに集中していてそれどころではなかった。

 

 体感的には一分ほど考えていただろうか。

 ようやく考えがまとまって視線をクインに合わせると、状況を理解したのかすぐに話しかけてきた。

「纏まりましたか?」

「そうだね。といってもやることは変わらないかな。どちらにしても明日、書面が来てから皆と話し合うことになると思うし」

「そうですね。今のところ想定外の動きはしていないようですから」

 念のため清定が『無かったこと』にするために動くことも考えていたのだけれど、さすがにそこまでのことはするつもりはないようだ。

 直接タマモに連絡を取ったということは、そういうことなのだろう。

 もっともこれから動くことも考えられなくはないので、油断はできない。

 とはいえタマモから話を聞いたということはこちらの扱いについても話を聞いているはずなので、直接的に害するようなことはできないとは思う。

 

 どちらにしてもこの時点で清定が動いたということは、なあなあにして時間稼ぎをするつもりはないということはわかる。

 あとは話の流れで展開が変わってくるので、相手の出方次第で展開は変わって来るだろう。

 

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 < Side:藤原清定 >

 

 タマモ様との会話を終えたあとは、ため息しか出なかったわ。

 是行の性格上あり得る話だとは考えていたのだが、まさかあの話でも控えめに言っていたとは思わなんだ。

 今まで蓄積してきた分があるためか、タマモ様は穏やかに話されていたもののうちに秘めている怒りはかなりのものだと察することができた。

 殺気とまでは言えないが、魔法を使ってこられた小さな体から来る圧は相当なものであった。

 こうなってくると是行をかばい立てするどころの話ではない。

 どう考えても処分する方向で話を進めないといけないだろう。

 問題は例の計画がとん挫する可能性だが、今はタマモ様への信頼回復に努めるため後回しにせざるを得ないだろう。

 

 幸いなのは例の者たちの要求もそこまで厳しくはない……というよりも、ほとんどこちらに任せるという態度を取っていることか。

 これでもし家に実害が及ぶようなことになれば抵抗することも考えたが、あちらはあくまでも是行の行動の責任を問うのみ。

 それであるならば、弟の処分のみで引き下がる可能性もあるだろう。

 できうることならば次の将軍位選出には影響が出ないようにしたいところだが……。

 

「――是行はどうしておる?」

「はっ。先日もタマモ様のもとを訪ねたことを周囲に話しております」

「どうせ機嫌よく話をしたとか、自分のことを褒めていたとか、あることないことを吹聴しておるのであろう?」

 さすがに肯定することは憚れたのか近習から返ってきたのは無言だったが、その目と顔が全てを物語っておるわ。

 

 愚かだとは昔から思っておったが、ここまでやらかしてくれるとは思わなんだ。

 あの者を処分するちょうどいい機会を得られたと考えたほうが、いいのであろうな。

 さすがに命まではと思うが、そうなってくると家中でわずかなりとも反発が出て来る可能性もある、か。

 使者の様子を見る限りでは謹慎程度で済むであろうが……さて。どうなるであろうか。

 

 そこまで考えたところで、ふとあの者たちの報告を受けた内容が頭の中を駆け巡った。

「木の根を自在に扱う魔法か。報告を受けた時は話半分で聞いておったが、事実なのであろうな。そなたは聞いたことがあるか?」

「ございませぬ。思い当ることは一つありますが……」

「それはさすがに私でも分かる。世界樹の精霊の伝説であろう」


 それは、かつてヒノモトがまだ将軍による統治が行われておらず、ユグホウラが今よりも前面に出て活動していた頃の話だ。

 タマモ様もまたユグホウラの支配を受け入れ一眷属として振る舞われていた時に、ユグホウラの中心的存在である世界樹の精霊が使っていた魔法で似たようなものがあると語り継がれている。

 そのような魔法は後にも先にも精霊様しか使われていたという話しかなく、魔法自体が後の作り話であるという研究もあるほどだ。

 だがこうして似たような魔法を使う人物が出てきたということは、その話の信憑性も非常に高くなってくる。

 

 精霊様に似た魔法の使い手がこの時代に生まれていることに、何か意味がるのであろうか。

 思わずそんなことを考えたくなってしまうが、神ならざる身としてそのようなことに想いを馳せても致し方あるまい。

 それにしても精霊様と同じか似たような魔法を使う人族か。

 周りにもユグホウラの眷属がおるようだし、何かしらの関係があると考えた方がいいのであろうな。

 

「……気になることとしては、隠すつもりがないということか」

 彼の者たちはこちらの影に気付いているのかいないのか、特に逃げ隠れするようなこともなく冒険者としての活動を行っておる。

 やっていること自体は他の冒険者と変わらないことなので隠す必要もないのであろうが、それにしても私のもとに来るような身であるにも関わらず冒険者をしているというのが分からない。

 普通に考えれば、そのようなことをせずとも暮らしていける身分であるはずなのだが。

 

 直弼の実の娘を連れていることからも暮らしに困るようなことはないと思うのだが……そこは考えても意味がないということか。

 とにかく今はできる限り少人数で、是行に対する処分の内容を決めないといけない。

 勝手に処分が決まることで是行が暴挙に出る可能性もなくはないが、そこは言い聞かせるしかあるまい。

 いずれにしても是行に処分を下すことは決定事項で、あとはいかにフジワラ家に対する影響力を抑えるのかが焦点になるのであろうな。




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m(__)m

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