(12)国家の戦闘能力

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 < Side:キラ >

 

 二回目の清定との会談までの一週間は、特に変わったことはせずに過ごしていた。

 冒険者ギルドで依頼を受けて採取をしたり魔物の討伐をすることが変わったことと言われてしまうと困るが、冒険者として正式に登録している以上はごく当たり前の行動である。

 どうやらその行動の最中にも『誰か』からの監視がついていたようだけれど、それについては完全に無視しておいた。

 特に報告されて困るような行動はしていないし、何か変わったことが見つかったとしても別に報告されても構わない。

 ハロルドが一度使っている魔法が変わっていることを知られてもいいのかと聞いてきたけれど、それも問題ないと答えておいた。

 そもそもシーオで合同探索していた時にも使っていた魔法しか使っていないし、知られたところで何かこちらが不利になるようなこともない。

 俺が使っている魔法の一部は、オトやクファのように緑の魔力が見えないと使えないものなので、魔法そのものを知られたところで即座に真似出来るようなものではない。

 むしろ普通の魔力(?)を使って似たような魔法を使うことができるのであれば、是非見せてほしいくらいだ。

 

 ちなみに一度だけアイリに対して直弼から『清定からの探りが入った』という連絡があったそうだけれど、こちらも事前の申し合わせ通りに対応したとのこと。

 事前の申し合わせ通りというのは、俺自身がユグホウラに関係のあることを匂わせることで、今回の件もユグホウラが動いていることも考慮に入れさせることだ。

 実際にはタマモとの関係から俺個人で動いていることではあるのだけれど、常に眷属がいることからユグホウラが無関係であるとは言えないので間違いではない。

 ユグホウラが裏で動いているからどうだという話をしてくる可能性もだろうが、別にそれはそれで構わない。

 今回はあくまでもタマモが困っているから動いているというスタンスなので、ユグホウラがヒノモトに直接的に手を入れるつもりはない。

 

「――それにしても本当にランク相当の腕があるのですわね」

「冒険者ギルドのランク制度はそれだけ厳格だということだろうね。けれどアイリは信じられなかったか」

 ギルドで討伐依頼を受けてから遠征を行って、そこそこのランクの魔物を討伐した時のアイリの感想にそう返したが、アイリは首を振ってきた。

「そうではございませんわ。いえ、今まで高ランクの魔物を狩っているところを見ていなかったから間違いではないのですが、そもそも大陸からの冒険者の実力は多少低く見積もられがちですから」

「へ……? どういうこと?」

 意味が分からずに聞いたはいいが、アイリから返ってきた答えは少しばかり意外というか驚きのものだった。

 

 冒険者ギルドが世界的な組織でギルドカードなどを含めて共通で使われているものは多くあるが、ランクもまた場所が変わったからといって変動するものではない。

 それにも関わらず、ヒノモトにおけるランクは大陸のものと比べて多少厳しめに設定されているらしい。

 その理由は、大陸に比べてヒノモトに出現する魔物が強いからとか、狭い土地に人族と魔物がひしめき合っていてお互いに遭遇する確率が高くなっているからとか、色々と理由は言われているらしい。

 もっとも大陸からヒノモトに来る手段が非常に限られていて、冒険者が来ること自体稀なのでそれでも困ったことにはなっていないそうだ。

 

「うーん。それってどうなのかな? そもそもランクが共通だからこそ討伐依頼も受けられるようになっていると思うんだけけれどな」

「キラ。多分だけれど、あなたは一つ前提を忘れていると思うわ。ヒノモトにまで来られような冒険者は、そもそも実力が高くないといけないのよ」

「え? あれ? そうなの? そんな制限あったっけ?」

「特に明確な基準みたいなのはないけれど、わざわざ荒れる海を越えてまで来るような冒険者は、もともと大きな依頼を受けているからとかなのでしょうね」


 自由に転移装置を使える身としてすっかり忘れていたけれど、こちらの世界の航海技術はそこまで高くはない。

 魔法を駆使して限りなく沈没する確率は落としているが、それでも確実に航行できるというわけではないのだ。

 そんな危険を冒してまでヒノモトを目指してくるような冒険者は少ないということだ。

 あったとしてもお偉いさんの護衛などで特殊な依頼を受けた高ランクの冒険者がほとんどだという。

 

「島国であるからこその特殊性ってことかな?」

「恐らくそうなんでしょうね。考えてみれば、エイリーク王国でも似たようなことになっているはずよ」

「へー。それは知らなかった。ユグホウラと距離が近いという理由もありそうだね」

「それもそうね。ヒノモトもエイリーク王国もユグホウラとの繋がりが深いという認識だもの」

 意外なところでヒノモトとエイリーク王国の共通点を見つけたアンネリが、納得した顔で頷いた。

「話を聞いていて思ったのですが、ユグホウラと繋がりが深いことで魔物が強くなっているということはあるのでしょうか?」

「有るか無いかでいえば、無いだろうね。ただしユグホウラが深く関わっていることで、強い魔物が人族と相対しやすいというのはあると思うよ」

「……どういうことでしょう?」

「例えばシーオだと守護獣のいる国は、人族の手に負えない魔物が出た場合は守護獣が狩ってしまうよね? だけれどヒノモトではそうじゃない。だから相対的に危険度が上がっているんじゃなかってこと」


 ユグホウラの眷属たちも領域内になっている場所の魔物は、積極的に狩るようにしている。

 そうはいっても広い領域を維持するために、全ての土地の魔物を一気に狩るようなことはせずに適当な数を間引きするように狩りを行っている。

 その『適当な数』から漏れた魔物が、人族と相対することになるのは普通にあり得る。

 その場合、守護獣がいる国では守護獣そのものや守護獣の眷属が狩ることになるが、いない国の場合は人族が相手をすることになる。

 

「……その話だけを聞くと、ユグホウラの影響から離れたほうがいいように思えますわ」

 何とも微妙な表情になったアイリだったが、これに反論しようと口を開きかけたところでアンネリがそれよりも先に反応した。

「そんなことはないわよ。そもそもシーオだって守護獣がいない国もそれなりの数あるんだから。そういう場合は、人族だけで対処しなければならないのよ。そういう国は相対的に国力が低いわよ」

「国家として使える人員を戦闘要員として常に確保しておかないといけないからね。ただ魔物と戦う機会が多い国は、人族の戦闘能力が高かったりするんじゃないかな?」

「言われてみれば、確かに守護獣のいない国は戦闘が強いというイメージがあるわね」

「そんなことがあるのですか?」

「あくまでも平均値で見た場合、になると思うけれどね。トップクラスまで行くとそうは変わらないんじゃないかな?」

「冒険者でいえば、上位ランクの数に差があるとは聞いたことがないわね」

「そこで明確に差がつけば、すぐに隙をつかれて攻められるという理由もあると思うけれどね」


 国家間で戦闘能力に極端な差が出てしまえば、当然のように喰われてしまうことは誰にでもわかることだ。

 だからこそ個人で戦闘能力が高い人材にそこまでの差は出ることはないだろうが、平均的に見た場合は守護獣のいない国の方が高くなる傾向にあるように思える。

 勿論全ての国がそうなっているわけではなく、逆転しているところもあるだろう。

 それは戦闘能力の高さだけが国家の全てではないからこそ起こることであって、ある意味では世界の成り立ちとしては健全な形と言えるのかもしれない。




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m(__)m

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