(11)これからのこと

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 こちらの話を聞いた清定からの返答は、「追って返事をする」だった。

 当たり前のことだけれど事が事だけに、一方の言い分だけを聞いて判断するわけにはいかないからだ。

 いくらこちらが二つの御家の書状を持っていようとも、政治的に嵌められる可能性が全くないというわけではない。

 御家の一つを束ねる長としては、こちらだけの言い分を聞いて判断するわけにはいかないのだろう。

 それに今回の件に関しては、こちらの言い分や是行の話を聞くだけではなく、当事者に確認するという手もある。

 勿論その当事者というのは、タマモのことになる。

 フジワラ家を束ねている立場ともなれば、実際にあの屋敷に行かなくとも会話する手段の一つや二つは持っているはずだ。

 ノスフィン王国の国王でさえ(?)、守護獣との連絡手段を持っていたのだから。

 

 清定の答えは予想していた答えのうちの一つだったので、こちらの返答は想定していた答えのうちの一つであった。

 それはまた会談を行うことを約束するもので、しっかりと次の日程を取り付けることに成功した。

 とはいえ調査に時間がかかることと、御家の長で忙しいことを理由に一週間という時間を待つことになった。

 この時間を長いとみるか短いとみるかは意見が分かれるところだけれど、俺自身は意外に短かったなという感想を持っている。

 

 そして次回会談の日程を決めたあとは、そのまま解散となりお城から出て宿へと戻ることになった。

「――というわけで大体予想通りになったけれど、何か意見はあるかな?」

「意見といってもね。結局あちらの回答待ちということになるんじゃない?」

 一応会談の反省点はないかと聞いてみたのだけれど、アンネリがすぐにもっともな答えを返してきた。

 

 今回の会談ではこちらの言い分を提示しただけで終わっていて、是行の意見は全く出てこなかった。

 清定には是行の言葉をすっ飛ばしてタマモの話を聞くという手段もあると思うが、それを使うかどうかまではわからない。

 会談の最中にそれとなく連絡を取ってみるように話しては見たが、こちらがいつでもタマモに会える立場だと信じたかどうかは分からない。

 もしこちらの言葉を戯言だと判断した場合は、直接タマモに連絡を取らない可能性も残っている。

 

「私は清定様については話に聞いただけですので断言はできませんが、そこまで愚かではないと思いたいですわ」

「まあね。タマモが関わっている以上は、真っ先に直接話を聞く……と思いたいけれど、逆のことも考えられるかなってね」

「逆とは?」

「ツガル家の場合は適当な温度感で伝わっていたけれど、タマモは実在するからね。もしかしたら簡単に触れては駄目だと神聖視されていたら直接連絡をすることすらしないんじゃないかなってね」

「そんなことがあり得るかな?」

「アンネリ。むしろシーオ出身の君のほうが理解できるんじゃない?」

「そんなことは……ない、とは言えないわね」

 

 アンネリはシーオでの実例でも思い出したのか、否定しようとしていた言葉を止めてすぐに肯定してきた。

 どうあがいても力では勝てない相手が存在する場合、人が取れる対応としては最後の最後まで戦い抜くか、崇め奉るかのどちらかだ。

 もし清定が後者の立場であった場合は、直接触れることすらおこがましいと考える可能性がないわけではない。

 もっともこんなことを話してはいるけれど、タマモの様子を見る限りではそんなことはなさそうに思える。

 直接言葉を交わして確認したわけではないけれど、タマモは清定とも直接会ったことがありそうだった。

 その時のタマモの様子からしても、清定が変に崇め奉るような『信仰』の仕方をしているようには感じてはいなかったように見えた。

 

 いずれにしても今こちらができることは清定からの答えを待つこと……だけではなく、もう一つやれることがある。

 それが何かといえば、諜報部隊を使ってこれから清定がどういう行動をとるのかということだ。

 少しばかり反則的な手段に頼ることになるけれど、事はタマモに関わることになるので最大限に持っている力を使っても構わないだろう。

 ……と毎度のごとく言い訳をしつつも、結局どんなことに対しても頼ってしまうことになるわけだが。

 とにかく諜報部隊へ指示を出して、あとはその結果待ちということになった。

 俺たち自身は、ギルドで依頼を受けながらフィールドで採取や魔物の討伐をこなすことにした。

 移動中の突発的なものはともかくフィールドでの狩りは久しぶりだったので、子供たちが微妙に張り切っていたのはいい気分転換になっていたのだと思う。

 

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 < Side:藤原清定 >

 

 使者が帰った後、残された近習が見ているというのに盛大なため息が漏れるのを防ぐことができなかったわ。

 使者共が言っていることの真偽はともかく、二つの御家がこの件で動いていることは持っていた委任状からも確認できる。

 あの使者が何者かは分からないが、それなりの力を持っているということだけは、それだけでもわかることだ。

 とにかく今できることはするべきだろうと、近習に指示を出すことにした。

 

「あの者たちが何者か、調べるように。それから町に滞在すると言っていたから次会うまでに接触する者も詳しく調べろ」

「畏まりました。……タマモ様へは?」

「聞きにいかねばならないだろう。あれだけ押してくるということは、事実の可能性が高い。であれば、ご本人に確認しないわけにはいかない。ただし、私が聞くのでお前たちは動かなくてもよい」

「そこまでなさいますか」

「仕方あるまい。ここで躓いては、本来の目的が果たせなくなる」

「それは……」

「詳しくは聞くな。いくらそなたたちでも言えることと言えないことがある」


 是行にタマモ様のご機嫌伺いをしてもらって、フジワラ家が自由に動かせる将軍位を得ること。

 それが目標に近づくからと是行を使っておったが、あの性格があだになってしまったか。

 まだ結論を出すのは早いと思うが、普段が普段だけに信憑性は高いと私は考えている。

 あれはあれで扱いやすい性格だからと乗せておったのだが、少し調子に乗せ過ぎたか。

 

 まさかタマモ様ご自身が迷惑だと感じるところまでやらかすとは思わなかったわ。

 いや、これは言い訳に過ぎないか。

 あの不出来な弟の性格のことは理解していたのに、しっかりと手綱を握っておけなかった私の不徳でもある。

 是行の部下共だけの話を聞いて信用しておったのが間違いだったか。

 

 今更そんなことを嘆いても仕方ないか。

 是行が駄目だったとしても我が家にはほかに候補もおるので、一人脱落したところで問題はないだろう。

 是行が一番近かったのは間違いないので、痛いといえば痛いのだがな。

 要は私の目的が果たせればそれでいいので、是行だけにこだわる必要はない。

 

 ……それにしても突然現れたあの者たちは、一体どういう素性の者なのか。

 直弼の娘を連れていたことから津軽家との繋がりは強いと思われるが、タマモ様とも容易に会えるとは如何なることなのか。

 次に会うまでにはできる限りのことを調べねばなるまい。

 事と次第によっては、私自身がタマモ様に問うことも考えねばなるまい。

 

 ここにきて計画に支障が出るというのは、何かの思し召しと思うべきなのか、あるいはただの偶然なのか。

 事を急いては碌な結果にならないだろう。

 まずは彼らを見極めつつ、じっくり事を進めて行かなければなるまい。




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是非ともフォロー&評価よろしくお願いいたします。

m(__)m

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